編集長対談

VERY編集長 羽城麻子さん「編集とは、愛だ。」

今回から新コーナー「編集長対談」がスタートします。METIジャーナルオンライン編集長の栗原が、話題のメディアの編集長に会いに行き、様々なお話をうかがいます。第1回は、創刊30周年を迎え、子育て世代の女性を中心に絶大な支持を集めるファッション&ライフスタイル誌「VERY」の羽城麻子編集長です。

インスタで、1対1で…。徹底した読者調査に基づき編集

栗原 VERYは子育て世代を中心に、様々なトレンドや時代を映す言葉をつくってきた雑誌の一つだと思います。トレンドやムーブメントをつくり、多くの支持を集めている秘訣(ひけつ)はどこにあるのですか。

羽城 光文社の雑誌全体に言えることですが、VERYは読者調査を徹底して行っています。読者の皆さんに1時間くらい、子育ての悩み、どこで買い物をするかなど、雑談も含めてお話を聞きます。例えば、足元の防寒というテーマが企画として通った場合、編集者やライターさんのネットワークで、体育館に子の付き添いで通う読者の「足元問題」について根掘り葉掘り話を聞いて企画をつくります。今の「ママのリアル」を誰よりも知っているのが強みなのかなと思っています。

栗原 どのくらいのネットワークを持っているのですか。

羽城 インスタグラムには35.5万人、メルマガには1万人ほど会員がいます。SNSを利用して質問を投げかけるケースもあれば、たった1人の読者の方の声から企画になることもあります。1対1あるいはライターさんを含めて2対1や2対2で行う読者調査が、情報の核になっているのかなと思います。

その一方で、家庭内でのモヤモヤなど、なかなか人に話しにくいようなテーマは、インスタグラムのストーリー機能を使ってフォロワーの皆さんに質問すると、ものすごい文字数の回答が500、600人から来ることもあります。センシティブなテーマに関しては、意外とSNSが有効だと思います。

羽城麻子(はしろ・あさこ) VERY編集長。2003年、光文社入社。雑誌「Gainer」「CLASSY.」 「JJ」を経て、2019年からVERY編集部。2022年11月から副編集長となり、2023年3月より現職。隙間時間には韓国ドラマとラジオ。9歳の息子の子育てにも奮闘中

「ファッションでママを元気に」「夫婦間のジェンダーギャップをなくす」

栗原 VERYを拝見していると、ファッションをベースに、ライフスタイル、ビジネスなど、幅広い話題がふんだんに盛り込まれていると感じます。編集長としての判断、差配は面白くも難しいのだろうと想像しますが、どういう編集方針でVERYをつくっているのですか。

羽城 「ファッションでママを元気にする」と「夫婦間ジェンダーギャップをなくす」の2つは現局長の今尾時代から変わらずインナー目標に掲げています。この二本柱がVERYのぶれない軸です。

その上で、編集長としては、ベタになってしまいますが、雑誌は愛がないとつくれないと思っています。ファッション企画であれば、通り一遍のカタログにするのではなく、スタッフにもモデルさんにも、ここではなぜ笑顔が欲しいのか、なぜ中間の表情が欲しいのかディレクションします。編集者の中で納得感のあるつくり方、ページ構成で提案していかないと、人には届かないと思いますし、スタッフやモデルさんへの敬意や届けたい読者への愛や思い入れがないと、成立しない仕事だと思っています。

栗原優子(くりはら・ゆうこ) 経済産業省大臣官房広報室長補佐(総括)。2009年経済産業省入省。通商、エネルギー、ロボット・ドローン、中小企業支援、対日投資促進等の政策分野に従事。2023年から、現職にて、経済産業省全体の広報を担う。2児の母

編集者は「個人商店」。リーダーシップのあり方は様々

栗原 編集者から副編集長、編集長となられて、見方が変わるところはありますか。

羽城 すごく変わります。私の編集者時代は個人商店のようなもので、自分のスタイルで仕事を進めて、それが評価されたり、反響を得たりしていました。編集長は各個人商店の考え方、仕事の進め方、アプローチの仕方の違いを把握して、どうしたら良いものになるか。全体を俯瞰(ふかん)しながら、バランスや強弱に気を配り雑誌づくりをしている感じです。

栗原 編集者が個人商店のようだというのは意外でした。編集長は社長みたいなものかと勝手にイメージしていたのですが、むしろ監督に近いのでしょうか。

羽城 リーダー、時にメンターといった感じです。あえて野球の監督に寄せてみるなら、編集者にはブンブン振ってくる人もいれば、淡々と打率3割に乗せてくるタイプもいます。

栗原 かつてVERY以外の雑誌も担当されていたと伺っています。仕事の進め方などは違うものなのでしょうか。

羽城 編集長が変わると、まったく変わります。編集方針を明確に打ち出してくれるリーダーもいれば、言葉にしなくても「察して欲しい」というスタイルのリーダーも。私は、みんなが働きやすくなるために、新しい時代にフィットしていくために、「こうしていったらいいんじゃない」と提案したいと思っていて、強いリーダーシップというタイプではないと個人的には分析しています。

新聞は毎日欠かさず。「必要がない」と思っている情報も実は大切

栗原 リーダーシップのあり方も多様化する中、羽城さんは、権威的になるのではなく、ナチュラルに等身大で寄り添ってくれる、そんなリーダーシップを発揮する方なんだろうなと感じました。それ自体も、今の時代を感じさせる印象を持ちます。雑誌をつくる上で、情報やトレンドをキャッチする感度が大切になると思いますが、そのあたりは何か秘訣があるのですか。

羽城 意外とアナログなのですが、新聞を取っていて、毎日読んでいます。あまり仕事と関係がないかもしれないけれど、「こういうことが起きているんだ」という多種多様な情報が、視覚的にバッと入ってくる。自分に必要がないと思っている情報も取り入れることが大切だなと思います。もう一つは、人と直接対話することです。直接話すことで、その人が求めていること、困っていること、モヤモヤしていることがクリアになります。やっぱり、一次情報は大切です。

心がざわつく瞬間を楽しむ。読者への情報の伝え方は多様化

栗原 私たち行政官としても、目下担当する政策とは直接関係が少なそうな情報にもアンテナを張って、視座や感度を高めて、世の中で起こっていることを捉えていくのは大事だと思いますし、現場の声をはじめとした一次情報を大切に仕事に当たっています。

羽城 一次情報に接して、何だか上手く言語化出来ないものを言語化していくことが、編集者の醍醐味ではないかと思います。先日、プラン会議で、「夫が好きと胸を張れない」というワードが出てきて、その場がざわつく場面がありました(VERY12月号で掲載)こうした、瞬間がやっぱり楽しいんですね。

一方で、今は情報をどういう形で届けるか難しい時代です。メディアのデジタルシフトにも関わりますが、VERYを紙の雑誌で楽しんでくださっている方もいれば、デジタルの読み放題で読んでいただいている方もいます。いろんな形でVERYと接点を持っている方がいる中で、一つの企画を読者に伝える時、紙がいいのか、紙とインスタがいいのか、動画がいいのか、考えることもこれからの編集者の仕事になってきています。そこが今の課題であり、今の編集者の面白さでもあると思います。

「雑誌は愛がないとつくれないと思っています」

「――すべき」「――らしさ」を疑う。変化を見据え、悩みながら進む

栗原 政策も、企業や国民の皆さまにご理解いただかないと成り立ちません。広報室で仕事をする中で、伝える努力を惜しまずしていくことが大事だなと改めて感じています。

経済産業省は様々な政策を展開していて、世の中で話題のテーマや、人々に興味・関心を持たれやすいテーマなど、企業や個人の皆さまが積極的に情報を取りに来てくださるような政策もあります。一方で、あまり注目を集めないけれども、国民の皆さまに知って欲しい、知っていただかないといけない政策も多くあります。METIジャーナルオンラインは、その点を、我々の独りよがりにならないように、どうバランスをとってわかりやすくお見せしていくか、模索をしながら編集しています。羽城さんは、見せ方、伝え方について、どのような工夫をされているのでしょうか。

羽城 できるだけ難しくならないよう、軽やかに伝えられるよう、キャッチやレイアウトを心がけています。そして、「――すべき」という言葉は、なるだけ使わないようにしています。子育てや仕事に対して一生懸命な読者の方々はつい「ちゃんとしなきゃ」と力が入ってしまうこともあると思います。そこから、できるだけ自由になってもらいたいと思っているので、「――すべき」という表現があったら、赤を入れる(修正する)ことが多いです。

ジェンダーもすごく難しい。ファッション誌には「女らしい」とか「フェミニン」といった言葉がよく出てきます。「女らしい」って何だろうと考えた時、個人的には、体の線が出ることを「女らしい」というのは、男性と女性の体型が異なるのでいいと思っています。でも、ピンクが女らしい、という点に関しては赤を入れて修正指示をしています。ヒール靴を「女っぽい」と表現することについては、女性がヒール靴を履いてきた歴史があるから、個人的にはありかなと思ったり。男女共通のワードである「色っぽい」に変えることも多いのですが…難しいですね。
メディアによっては、男とか女とかという言葉自体を使わないというところもあります。VERYとしては、そこは突然やめたりはしませんが、一つひとつ悩みながら進めています。

栗原 それによって違和感を持つ方、傷つく方がいないかを含め、一言一言に心血を注いでいるのですね。

羽城 「あのママが読んだらどう思うか。傷つくんじゃないか」という言い方を、よく編集同士で話します。読者にはいろいろな考え方があり、どちらにも寄り添いたいと思っていますが、それでも配慮が足りなくて、「傷つきました」という声をいただくことも。編集部では、そうしたネガティブな意見ほど大事にするようにしています。

「独りよがりにならないように、どうバランスをとるか模索しながら編集しています」

子育て、家事は夫婦でフラットに分担。韓ドラ、ハイボールで自分の時間楽しむ

栗原 ご自身も子育てをしながら、編集長という重責を担っておられます。仕事と家庭をどのようにマネージされているのですか。

羽城 経験や失敗を重ねて、知識が蓄えられると慎重になるのかもしれませんが、今はまだ失敗してもいい時期だと思っているので……編集面に関する判断だけは以前より速くなったと思います。そのほうが、一緒に働く人は楽だろうと思っているので、そこはできるだけ速くするよう心がけています。

仕事では、みんながいいものをつくりたいという意図を持っています。でも、子どもには意図がない。意図なく反抗したり、意図なくお風呂に入らなかったり、何を言っても通じないこともあります。仕事ではあまりイライラしないのですが、子育てではイライラすることも多くて、子育てのほうが難しいと思うことも多くあります(笑)。

栗原 時間のやりくりはどうされているのですか。

羽城 夫が同業他社に勤めているので、割とフラットに分担しています。お互い日々、ワンオペになることも多いのですが、チームで乗り切っているなと思います。

自分の時間は、子どもが学校に行って、私が仕事に出かけるまでの1時間ぐらいに、朝ドラを見たり、夜子どもが寝た後の1時間、寝落ちしないようにハイボールを飲みながら韓国ドラマを見たり、といった感じです。

わかりやすくかみ砕いた企画で、子どもと一緒に経済を学びたい

栗原 肩肘はらず、しなやかに仕事も子育てもされている、そんな印象を受けました。今の時代、リーダーシップの観点もそうですが、羽城さんのようなスタイルに共感する方は多いのではないかと感じました。最後にMETIジャーナルオンラインに、こんな企画をしたらいいのではといった、ご提案があればお願いします。

羽城 VERYの読者のような子育て世代の中には、例えば大学で経済を専攻した人を除けば、経済やお金について、腰を据えて学んだことがない方も多くいます。お金に関する特集の中でお話を聞いた読者の中には、子どもに間違ったことを伝えていないか悩んで、コンプレックスを抱えている方もいらっしゃいました。そうした、経済やお金に関連する内容を、基本の「き」から子どもと一緒に学びたいと思っている人は多いと感じています。

子ども向けの地政学や気象学の本を、大人が買って読んでいることも多いとも聞きます。経済の話をわかりやすくかみ砕いて、読ませてくれる企画があれば、私も是非読みたいなと思います。