サプライチェーンの中核を担え!部品安定供給で日本の役割増す
航空機の部品点数は300万点にも上り、製造に関わるサプライチェーン(供給網)はグローバルに構築されている。しかし、新型コロナ流行期に航空需要が激減したことで、欧米の部品メーカーでは人材が他産業に流出。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でチタン製品の供給が停滞したことなどにより、航空機部品の安定的な供給体制が揺らいでいる。
一方で新造航空機の需要は、コロナ禍を経て、拡大していく見込みとなっており、サプライチェーンの早急な見直しは急務だ。今、分厚い「ものづくり」の基盤を持つ日本に、サプライチェーンを担うメインプレーヤーとしての役割が求められている。
大型鍛造品の生産規模を大幅拡大、政府も支援
経済安全保障推進法の「特定重要物資」には、これまでに航空機の部品など11の物資が指定されている。2023年8月、国から同法に基づく供給確保計画の認定を受けたのが、航空機や発電プラント向けの大型鍛造部品を製造する「日本エアロフォージ」(本社・岡山県倉敷市、中西修一社長)だ。
日本エアロフォージは、神戸製鋼所、プロテリアル、IHI、川崎重工業など計6社が共同出資して2011年に設立され、2013年から国内最大の加圧能力5万トン油圧プレス機の稼働を始めた。それまで日本には、エンジン部品などに必要な大型鍛造品を造れるプレス機はなく、全て輸入に頼っていたが、5万トン油圧プレス機導入により、初めて国内での航空機用大型鍛造品の製造が可能になった。
航空機用の鍛造部品は「特殊重要部品」と呼ばれ、エンジン重量の約6割、機体の約3割を占める。航空機用大型鍛造プレス機を保有するのは、世界で米、仏、露、中と日本の5か国のみで、日本エアロフォージのプレス機は加圧の力と速度が高精度で制御でき、ミリ単位の精密さで多様な製品を鍛造することができるのが強みだ。
サプライチェーンから露が離脱、高まる日本への期待
西側各国のメーカーは長年、航空機用鍛造品について、ロシアからの輸入に頼ってきた。ロシアのウクライナ侵攻により、それがストップしたことで、各メーカーはサプライチェーンの再構築を迫られており、日本に対する期待は高まっている。
日本エアロフォージは現在、国から最大13億円の助成を受け、2028年度には生産規模を2022年度比で6倍に拡大する計画を進めている。中西修一社長は「2025~2026年度の生産量が既存の生産能力を超える見込みであり、増産できる体制を計画的に整備していきたい」としている。その上で、「航空機産業は年率3~4%の成長を遂げている成長産業であり、グローバルな先端産業です。増産体制の構築は大きな挑戦ですが、国からも必要性、重要性を評価していただいており、期待に応えていきたい」と決意を語った。
地域内一貫生産体制の構築で、サプライチェーン強化の動きも
高い技術を武器に新たに参入した企業もある。
金属加工のウラノ(埼玉県、小林正伸社長)は、チタン合金やインコネル(ニッケル合金の一種)の加工を得意としている。群馬、埼玉、長崎県に工場を構え、航空機の主翼と胴体をつなぐ「中央翼」などの重要部品を製造している。
「削りのウラノ」として知られ、農機具や産業用機器、精密機器など様々な分野で、多様な材質の加工に取り組むことで顧客の幅を広げ、航空機分野には1990年に参入した。
2006年に長崎県に進出した後、2022年1月には、同県内で新工場を稼働させ、次世代航空機エンジン部品の加工・組み立てを開始。長崎県ではウラノを中心に「航空機産業クラスター(集積地)」が形成されており、エンジンや機体部品を主とした地域内一貫生産体制の構築によって、サプライチェーンの強化に取り組んでいる。
デジタル化にも力を入れており、現場の作業者の勘所による生産管理から、自社開発のシステムによる生産管理に転換。工場内の機械の稼働状況を正確に把握し、設備の故障などによる時間のロスを電光表示盤で可視化できるようにした。航空機部品はコスト削減競争が激化しており、生産工程の管理を省力・効率化することでコスト削減を図っている。
小林正伸社長は「日本の航空機産業は、技術力や品質の高さで世界的に評価されています。産業の未来を共に築いていく一員として、国際競争力を持つ航空機の製造に貢献し、常に技術の向上やイノベーションに挑戦していきたい」と前を向く。
経済産業省は「グローバルなサプライチェーンの再構築が急がれる中、高品質な部品の安定供給能力を有する日本の航空機産業には大きなチャンスが訪れている。航空機産業を自律的な成長が可能な産業構造へと変革する『航空機産業戦略』の実現に向けて、こうした先進的、意欲的な企業の支援に積極的に取り組みたい」と話している。