政策特集経済産業政策の新機軸 その先にある未来 vol.2

「回転ずし用コンベヤー」が運ぶ経済の好循環!ニッチ・ガリバーが示す「ものづくり」と地域の明日

「生産性・賃金を高め、インフラの持続可能性を高めることで、良質な雇用と豊かな生活環境を享受できる地域が創出されて、若者が子育てしやすい地方に定着し、希望出生率が改善する」――。経済産業省産業構造審議会・経済産業政策新機軸部会が2024年6月に公表した「第3次中間整理」では、「地域の包摂的成長」の必要性を強調し、そのためのシナリオを提示している。

石川県金沢市に本社を置く食品機械メーカー「石野製作所」は、回転ずし業界向けのコンベヤー国内シェア7割を占める、知る人ぞ知るトップ企業だ。

地方から確かな技術で高付加価値の製品を国内外に提供する。そして、国内投資、良質な雇用創出、賃上げなどを通じて、地域を活性化、ひいては少子化に歯止めを掛けていく。加えて、省力化によって生産性を向上させる。石野製作所の取り組みからは、「新機軸」が目指す中小企業のあるべき姿が見えてくる。

客席備え付けの「給茶装置」でブレイク。国内シェア7割、年間売上高90億円

金沢市の中心部から南西へ車で約40分。江戸時代に北前船による交易で栄えた白山市美川地区に隣接する同市源兵島町に石野製作所の松任工場がある。

石野製作所は1959年に「金沢発条商会」として創業。バネを中心とした電動工具部品の生産・販売からスタートし、収穫した米を袋詰めする省力機器「マタイ開口機」を開発し、大きく売上を伸ばしていった。転機となったのは1974年。大阪万博(1970年開催)で紹介されたのを機にファミリー層を中心に人気が広がりつつあった「回転ずし」店用に、今ではおなじみの、客席に座ったままセルフサービスでお茶が飲める「給茶装置付コンベヤー」の開発だった。

それまでは、湯飲みに入れたお茶をコンベヤーに載せて回したり、ホールスタッフがヤカンで注いで回ったりしていたのを、「何とか自動化できないか」と回転ずしチェーンから依頼されたのがきっかけだった。

当初は給茶装置のみを製作していたが、コンベヤー自体の開発・販売にも乗り出したことで、急速に売上を伸ばし、会社も成長していった。回転ずし用のコンベヤーの国内シェアは約7割にのぼり、アジアを中心に海外にも輸出している。年間売上高は90億円に達する。まさにニッチ分野のガリバー企業だ。

石野製作所が初めて製作した回転ずし用のコンベヤー。この製品を皮切りに業界のガリバー企業に成長する

「特急レーン」「自動精算システム」……。業界初の製品次々と生み出す

顧客が何を求めているのか。現場にどんなニーズがあるのか――。徹底的に向き合い、発想力と技術力を両輪とした「ものづくり」を通じて、課題を解決していくのが、石野製作所の「初心」だ。

常務取締役の小田初義さんは、「初心を忘れず、徹底的に初心にこだわるというのが、私たちの方針です」と強調する。

回転ずし用コンベヤーの開発に踏み出してからは、衛生面を強化した「クリアルーフ付きコンベヤー」、オーダー品専用の「特急レーン」、「自動精算システム」、「皿選別装置」――と業界初の製品を送り出してきた。「初心」は形骸化することなく、同社のものづくりの中にしっかりと息づいている。

回転ずしをターゲットに迷惑行為が相次いだ時には、AIカメラで客の不自然な動きを検知して、迷惑行為を防止する機能を備えたコンベヤーを開発するなど、2023年現在、取得した特許は国内207件、海外55件にのぼる。

石野製作所が開発した「特急レーン」。業界初の製品を次々と市場に送り出す

従業員はほとんど地元出身者。今後3年間で10億円を国内投資、年間売上高120億円目指す

「地方を拠点にしていることのメリット、デメリットは特別意識したことはありません。ただ、石川県の場合、ニッチトップ企業がたくさんあって、地域でまとまって協力していく気風や環境がある」と小田さんは言う。

現在、石川県内に4つの工場があり、約200人の従業員のほとんどは地元出身者。このうち4分の1にあたる50人程度はここ5年間で増員した。10年以上にわたって毎年継続して賃上げを実施しており、直近5年間の離職率は全国平均を大きく下回る9%にとどまる。「家族的な雰囲気で、残業時間の水準も低く、休みも取りやすいといったことが低い離職率につながっている」(小田さん)という。

今後3年間で、地元での工場増設など10億円の国内投資を予定しており、5年後には年間120億円の売上を目指している。

「回転ずし」以外へも進出。多角化戦略でサービス業の省力化をサポート

「8番らーめん」に導入された自動搬送装置。サービス業全般向けに、製品の多角化を目指している

北陸3県を中心に全国に120店舗以上を展開して、海外にも進出している「8番らーめん」は、石川県民のソウルフードとも呼ばれている。2023年8月、石川県七尾市の店舗に石野製作所の自動搬送装置が導入された。

七尾市のある能登地区は過疎化が進み、サービス業は慢性的な人手不足に悩まされてきた。自動搬送装置の導入で、人手不足の解決と提供スピードのアップの両方に貢献。更には、従業員が接客に集中できるようになったこともあり、来店客が1.5倍に増えたとの報告を受けたという。

今、石野製作所が取り組んでいるのが製品の多角化だ。回転ずし用のコンベヤーを応用した搬送装置は、「8番らーめん」などラーメン店、焼肉店など他の外食産業やスーパーなど外食産業以外のサービス業にも顧客を広げつつある。

ただ、顧客の層が広がっても、基本姿勢は変わらない。

総務部長兼システム部長の岸上淳司さんは、「『こんなことに困っている』というお客さんの悩みを聞いて、私たちがそれを製品化していく。結局はこれを誠実に繰り返していくことです」と話す。

20年後、50年後に必要とされる製品とは?全社員でアイデア出し合う

石野製作所のものづくりについて語る小田初義常務取締役(左)と岸上淳司総務部長兼システム部長

石野製作所は全社員を対象に、20年後、50年後に必要となる製品はどのようなものか、定期的にアイデアを募っている。「何十年も前に提案されたものが、今、実際に製品化されている例もある」(岸上さん)という。

石野製作所の製品でお店の業務が省力化され、人手不足が解消される。従業員の作業負担も軽減し、労働環境が改善。女性や高齢者にも働きやすい職場になる。従業員が接客に集中できることでお店は繁盛。ひいては地域の活性化にもつながる――。

時代のニーズを先取りした製品を生み出し続けることで、こうした好循環をつくり出そうと、石野製作所は北陸の地で歩み続けている。