地域で輝く企業

【富山発】鉄工所が持つ「やわらかい」発想 少量多品種生産とITで活路開く

富山県富山市 コンチネンタル株式会社

他社が引き受けないような少量の注文でも積極的に受注し、おおよそ30年で社員数、売上高ともに30倍を達成している元気な鉄工所がある。月間およそ4000件の注文のうち「1個だけ」が60%、「10個以下」が35%を占めるという、業界でも珍しい「少量多品種生産」だ。「やわらかい鉄工所。」のスローガンを掲げるコンチネンタル(富山市)2代目の岡田俊哉社長(41)は、「技術は見て覚える」といった職人気質を排除し、最新の3D技術で、金属加工の省力化を実現する「パイプ・鋼材のオーダーメイド型プレ加工」や、設計図がない古い機械の再生に取り組むなど、ITを駆使した鉄工所のさらなる新機軸を切り開いている。

3D技術を生かした「パイプ・鋼材のオーダーメイド型プレ加工」の部品

1個でも受注、他社はやらない仕事を引き受けて成長

コンチネンタルは1991年、バブル崩壊の年に岡田社長の父・幸雄氏(現会長)が設立した。幸雄氏は呉服問屋の営業職、鉄工所の工場長を経て、その鉄工所の仲間と一緒に独立した。だが、「最後発」の鉄工所が何のあてもなく、ただ「やります」と言っても良い仕事は回っては来ない。同業他社のように、大手工作機械メーカーのサプライチェーン(供給網)には入り込めない。必然的に、他社がやりたがらない少量の仕事を請け負うしかなかった。

受注件数の内訳は、ロットは「1個」が6割、回数は「初回」が7割を占めており、ほとんどが1個だけ1回限りの注文だ。だが、規模や単価を基準に受注を決める一般的な企業とは逆の発想で、受注を積み上げてきた。単価が低くても利益率は高い場合もあり、ITを駆使してコストを徹底的に下げてきた。こうして、1992年、2002年、2008年、2011年、2021年と工場を新設・拡張し、売上高もほぼ右肩上がりを続けている。

生産管理システムで情報を「見える化」、全社員が共有

岡田社長は「わが社の強みは、ワンストップかつ少量多品種生産を実現する生産体制。それを実現しているのは『職人技術』『最新設備』『IT』の三つです」と語る。職人技術の肝ともいえる溶接工程には25人が在籍し、国家資格「工場板金技能士」も22人と、社員の約4割が取得している。県内の同業他社にはない旋盤用の機械などもそろえている。三つ目のITについては「私たち鉄工所の職人がいちばん苦手とするのは『管理』。これを補強するために積極的に取り入れています」と胸を張る。

2000年、全社に導入された生産管理システムは、例えばAという品物を誰がいつ、どの工程を、いくらの単価で、何分でこなしたか、という情報を、担当者が作業を行うたびにパソコンに入力する。事務から製造まで全部門の情報を全社員が共有し、情報の「見える化」を進めている。現在、加工データは70万件を超えており、コンチネンタルの技術の高さを裏付ける「データベース」となっている。蓄積されたノウハウは、業務効率化やコスト削減にも繋がっている。

作業が終わるとすぐに進捗状況を入力する

熱に弱い合金を溶接せよ!研究2年、世界で唯一の技術

少量多品種生産で、次々と新規の注文を受けているコンチネンタルは、「新たなことに挑戦するハードルがかなり低い(岡田社長)」ことも大きな特徴だ。

2010年、東京の機器メーカーから「実験用『真空チャンバー』の部材として、合金パーマロイ78を溶接できないか」と問い合わせがあった。富山県工業技術センターからの紹介だった。「真空チャンバー」は内部を真空状態に保つ密閉容器で、様々な産業分野の研究や宇宙環境のシミュレーションなどに使われる。「パーマロイ78」はニッケルと鉄の合金でニッケルが78%。磁界の影響を遮断する性質を持つ。熱に弱く、すぐに割れるため、溶接は極めて困難とされていた。

岡田社長(当時は社員)らは、様々な文献にあたり、溶接のスピードや、溶融した金属などを吹き飛ばす「アシストガス」の量を微調整しながら試験を繰り返し、割れずに溶接できる値を割り出した。研究に要した期間は2年。パーマロイ78を無事に加工し、部材として納めることができた。難しい加工もこなせる技術力の高さが口コミで伝わると、顧客は県外にも徐々に増えていった。

真空チャンバーを前に「どんな注文も断らない姿勢が、社員の技術力アップにつながった」と話す岡田俊哉社長

最新3D技術を駆使して「職人の技」を再現

岡田社長は2008年に入社後、ブランク(抜き)、プレス、機械加工、溶接、プログラム工程で経験を積み、一級工場板金技能士の資格を取得した。2013年から取締役専務と営業部門長を兼任し、2018年には代表取締役専務として、現会長より社長業を引き継ぎながら、本格的に経営に参画、2021年に代表取締役社長に就任した。

就任後、特に力を入れているのが、最新の3D技術を活用した「パイプ・鋼材のオーダーメイド型プレ加工」と「リバースエンジニアリング」だ。コンチネンタルでは、客からの図面をすべて3Dに起こしているため、3Dを駆使したこれらの新技術の提供を可能にしている。

「パイプ・鋼材のオーダーメイド型プレ加工」は金属加工業者のニーズを探る中でスタートした。職人が行う、切断や曲げ、穴あけといった「溶接の前工程」が、人手不足などで難しくなってきている。そこで、切断・加工した材料を現場で組み立てる、木造住宅建築の「プレカット工法」からヒントを得て、溶接するだけで完成できるように加工した部品を提供できるようにした。顧客から受け取った図面をもとに作成した3Dデータを用いて、鋼材から部品へとプレ加工する。そしてそのプレ加工品と合わせて、部品をどう組み立てて溶接すればよいかを説明した「設計書」(3Dデータをもとにした説明書)を提供する。

「リバースエンジニアリング」は、図面をもとに製品を作るのではなく、今使われているパーツ(製品や部品)を計測して、図面を作成する。工程を逆(=リバース)の流れで進めることから、このように呼ばれる。工場で何十年も稼働している機械や生産ラインには、「古くて、図面が残っていない」「特定の職人しか作れない」といった「図面のないパーツ」がたくさんある。そうしたパーツを3D技術で測定し、図面を作成。その図面をもとにパーツを再現する。失われつつある職人技をデータ化して伝え続けることができる技術だ。

3Dスキャナーで製品の構造を計測し、図面を作る「リバースエンジニアリング」

「見て覚えろ」は時代遅れ…とにかく教えて人材育成

会社の成長と体制強化を目指し、2018年から計画的な新卒採用を始めた。だが、就活生向けの合同企業説明会で、有名なIT企業のブースに「のぼり」が立ち並び、学生が列を作っている様子を見て「新人を確保するには、こういう企業と争わなければならないのか…」と、愕然とした。「僕たちが学生に提供できることは何か」を考え、たどり着いたのが社員教育の充実だった。「ひとり鉄工所」と銘打って、10年かけて、社員一人ひとりが製造工程をすべてこなせるプロフェッショナルになれるように教育体制を整えた。

岡田社長は「社員の考え方自体を変える必要がありました。職人の世界は『見て覚えろ!』が基本でしたが、それはもう通用しない。居残り練習もダメ、就業時間が終わったら帰るんです。就業時間内に練習の時間を確保して、先輩がアドバイスするというカリキュラムを導入しました」と話す。「プロフェッショナルになれることは、若い人には魅力に感じてもらえるはず。まだ道半ばですが、力を入れています」

先輩社員の指導で鉄工所のすべての工程が学べる教育体制を整えている

2023年7月には社内に「やわらかい研究所」をつくった。 「地域を経営資源とし、地域に利益を生み出す会社」を目指すという。オープンファクトリー(工場見学や体験)や、地域課題解決のビジネスコンテストなどを通じて、外からの刺激を取り入れるのが狙いだ。「いくら『やわらかい鉄工所』をうたっても、将来、硬くガチガチな組織になる恐れはある。『研究所』を通じて幅広い人々からのアイデアも得て、コラボしていければ会社の魅力が高まり、地域への貢献にもつながる」と語る岡田社長。「鉄より優れた素材が出てきたら鉄工所でなくなってもいい。100年続く企業になるための『やわらかさ』を常に持っていたい」と、目を輝かせる。

【企業情報】▽公式サイト=https://continental-ltd.com/▽社長=岡田俊哉▽社員数=92人▽創業=1991年