政策特集クールでアツいコンテンツ産業 vol.2

次世代クリエイター支援プロジェクト「創風」スタート!NOTHING NEW・林健太郎氏の思いとは

コンテンツ産業の未来は、ひとえに優秀なクリエイターにかかっている。経団連が2023年4月に公表した提言「Entertainment Contents ∞ 2023-Last Chance to Change-」では、クリエイターへの支援こそ「日本のコンテンツ産業政策における生命線といえる」と強調し、支援態勢の強化を求めている。

アニメ、ゲームを中心にコンテンツ大国の地位を築いた日本は今、成長著しい中国、韓国などとの激しい競争に直面している。“生命線”を維持し、さらに押し上げていくためになにが必要なのか――。国もクリエイター支援に本腰を入れ始めた。

「行政として大きなチャレンジ」。「ゲーム」「映像・映画」部門に19の個人・チーム

2024年7月、次世代クリエイターを支援するプロジェクト「創風」が本格始動した。

経済産業省肝いりのこのプロジェクト、「ゲーム」「映像・映画」の2部門で、審査によって選ばれたクリエイター(個人・チーム)に対し、1年をかけて作品の制作から展開まで、一線で活躍するプロが伴走しながら支援するというものだ。

具体的には、基本的知識や業界の最新トレンドについての講義のほか、担当のメンターが作品制作の過程でアドバイスや技術的サポートを実施。出来上がった作品については、業界関係者向けの発表・アピールの機会も設けられる。併せて1個人・チームあたり500万円を上限に、制作資金も援助する。

担当する経済産業省文化創造産業課の曾和小百合課長補佐は「制作過程や制作後の展開については、これまでも補助金などで支援してきましたが、クリエイターの育成という0から1を生み出す部分に、経済産業省として乗り出すのは今回が初めてです。IP(知的財産)づくりの根幹部分で行政として何かできるか。大きなチャレンジです」と語る。

初年度は122件の応募があり、ゲーム部門9、映像・映画部門10の計19件の個人・チームが選ばれた。

経済産業省が主導する次世代クリエイター支援「創風」。122件の応募があり、19件の個人・チームが支援対象に選ばれた

同世代のクリエイター、プロデューサーが伴走支援。シンプルかつ新しいタイプのプロジェクト。

経済産業省のチャレンジは日本のコンテンツ産業にとってどんなインパクトを与えるのか。

「創風」の映像・映画部門に、運営者として参画するのが映画レーベル「NOTHING NEW」だ。代表を務める林健太郎氏は、このプロジェクトに期待を寄せる。

「金銭的支援を受けながら、同世代のクリエイターやプロデューサーと共に実験的な創作が行える。製作者でもある自分たちも今一番応募したいと思う、シンプルだけど今までにないチャレンジングなプロジェクトだと思います」

林氏は1993年生まれ。高校時代にクラスメイトが自主制作した映画を見たのが、映画業界に入るきっかけとなった。

「友達が仲間内で作ったその作品がめちゃくちゃ面白くて、いわゆるシネコンで流れている大作映画以外にもこんな世界があるんだと衝撃を受けました。大学生になってもその感覚が忘れられず、同世代の仲間との映画制作や海外での映画祭実施などにのめり込みます。このような人たちや未来の才能たちと大きな予算で映画づくりが行えたら、新しい可能性のある作品が生まれるのではないか。その仮説に挑むため、大手の映画会社に入社しました」

林健太郎(はやし・けんたろう) 1993年生まれ。大学卒業後、大手映画会社に入社。劇場勤務、映画の企画開発業務などを行う。コロナ禍にはオンライン劇団「ノーミーツ」を設立して創作活動を行い、文化庁メディア芸術祭など受賞。2022年、「才能が潰されない社会」を目指す映画のスタートアップ「NOTHING NEW」を創業。実写・アニメーションの映画製作および海外展開など、「一気通貫の映画事業」を展開する(経済産業省内にて)

林氏は大学卒業後、大手映画会社に就職。映画の企画、編成アシスタントなどのほか、演劇やミュージカルの劇場で「もぎり」も経験したという。ただ、「『若い才能とオリジナル作品をつくる』という夢に挑戦するには、時間がかかりそうだな」と感じたのも事実だった。

2022年4月。林氏は、自らの映画レーベル「NOTHING NEW」を設立した。

厳選した国内外のショートフィルムのVHSをブラウン管で見て楽しむことができる喫茶店「TAN PEN TON」を下北沢にオープンさせたほか、新しい才能とともにオリジナルのショートフィルムを制作・公開してきた。

「まずは一歩目の挑戦として、オリジナルのショートフィルム作品を自ら出資して制作し、オンラインでの展開や店舗を活かしたマーケティング、海外の映画祭やマーケットへの出品、劇場公開までを通して行いました。新しい才能と世界市場を繋ぐ動線づくりの、今はまだ最初の事例をつくっている段階。今年からは長編に挑戦し、その後循環する仕組みに繋げていきたいです」

NOTHING NEWの制作・配給第1弾となる短編集「NN4444」は、国内外で高い評価を受けた

夢を実現する導線が見えない映画界。「チーム」が生まれる環境づくりに期待

林氏が「創風」に参画を決めた背景には、映画を目指す若いクリエイターを取り巻く環境に対する問題意識がある。

「漫画業界であれば『少年ジャンプ』などの漫画雑誌が才能を発掘する機能を持っていて、作家が挑戦出来る場が常に用意されています。そこで人気が出れば、世界でもヒットするかもしれないし、大きな夢を抱くこともできる。一方、映画界はまだ、夢に向かっていく道筋が明確ではありません。例えば短編作品が評価された結果、長編作品に挑戦できる事例も国内映画業界では少ないです」

林氏は映画を制作し、国内外に展開していくチームがどんどん生まれてくるような環境を作り出していく、一つのきっかけとして「創風」に期待している。

「海外の映画祭などを回っている中で感じるのは、チームに求められる複雑かつ多岐な能力です。言語や文化が違う相手に対して、作家は普遍的なテーマを構想する力が求められるし、プロデューサーはそれを売り込み説明する力が求められます。映画は良い作品をつくり出すと同時にビジネス的にも成功しないと次につながらない。それを世界市場で実現する難易度は低くないと痛感しました。この難題を面白がって挑んでいけるチームが、これからの映画づくりにおいては重要なんだと思います。」

「『創風』では最終的に作品を制作して発表するわけですが、その間、私たちや同世代プロデューサーたちがメンターとして伴走支援します。まずこの仕組み自体がマッチングになっています。また一線で活躍する方の講義や、ほかのプロデューサーなどとのマッチングの場を通して、未来のチームづくりをサポートしていきたいと考えております。今回のプロジェクト自体は来年3月までですが、ここでできた関係はきっと続くでしょう。また2回、3回と続けて行くことで期を横断した繋がりが生まれていくと思うので、継続的に実施し、次世代作家にとっての実験場になることを目指します」

「応募者と同じ目線で一緒に走りながら作品づくりに一緒に挑戦してく」と強調する林氏

「同じ目線で一緒に挑戦」。国主導の信頼感とチャレンジャー精神の相乗効果期待

「誰に何を言われなくても、どんどん追求してしまうニッチな作家性と、その一方で世界の人たちにそれを面白いと言わしめたい届け手としての野心の両方を持ち合わせた人」

これが、林氏の求めるクリエイター像だ。

今回のプロジェクトで自らが支援することになる映像・映画部門のクリエイターたちと、オンラインで顔を合わせ対話した印象について、「かなりオリジナルティのある企画を徹底的に準備し挑んできている人が多かった。その熱量の高さに強い刺激を受けました。プロジェクトが終わった後も末永く一緒に作品をつくっていきたいと思える方々です」と語る。

林氏は「創風」における自らのスタンスについて、「応募者と同じ目線で一緒に走りながら作品づくりに一緒に挑戦していく」と強調する。前出の経済産業省曾和課長補佐は、「今回、林さんたちにやっていただくのはティーチングではなくコーチングに近いと思います。国が主導するという信頼感と若いプレーヤーの挑戦が掛け合わさることの相乗効果を期待しています」と話す。

果たして、コンテンツ業界に新しい風を送ることができるか――。「創風」プロジェクトが走り始めた。