統計は語る

アフターコロナ、旅館回復の鍵は多様性

アフターコロナの中で、海外からの外国人観光客の回復や国内旅行によって国内観光地が賑わいを戻しつつある。こうした観光客の宿泊先はホテル、旅館になるが、ホテルと比べて旅館が振るわない傾向が続いている。今回は、旅館を中心にその動向を見ていく。

ホテルと旅館の動きに大きな差がみられる

第3次産業活動指数からホテル指数と旅館指数の推移をみると、コロナ禍以前の2019年までをみても旅館は低下傾向、ホテルは上昇傾向と明暗を分けていたが、2023年5月以降のアフターコロナの時期からさらに大きな差を見せている。ホテルは、コロナ禍の直前にあたる2020年1月のピークを2023年5月以降継続して上回っているが、旅館は、2020年1月の水準には回復していない。

ホテルの牽引役はビジネスホテル

第3次産業活動指数のホテル指数と旅館指数は、観光庁の「宿泊旅行統計」から作成しているが、同統計からはホテルの内訳や旅館、ホテル以外の宿泊施設の動向を見ることができる。ホテルは、「リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテル」の3つに区分されており、観光地に立地する旅館と最も競合するのはリゾートホテルとなる。「宿泊タイプ別延べ宿泊者数」をみると、ビジネスホテルの宿泊者数は堅調な伸びをみせている。外国人旅行者に需要が多いシティホテルもコロナ禍前の水準に戻っているが、旅館とリゾートホテルはコロナ禍前までには、回復していない姿がみられ、カプセルホテルなどの簡易宿所に追いつかれそうな勢いを見せている。

国籍・地域により宿泊先選びに違いがみえる

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」から、外国人旅行者の宿泊先の選択の状況を見ていく。最も多いのは、洋室中心のホテルとなり、2019年83.5%から2023年90.2%に上昇している。和室中心の旅館は、2019年20.0%から2023年18.2%に低下している。(複数回答のため100%にはならない。)

ところが、国籍・地域別にみると違いがわかる。スペイン、イタリア、フランスなどは2019年でも他の国籍・地域と比較して旅館を宿泊先とした割合が高く、2023年にはさらに増加している。この3カ国の特徴としては、訪日目的として「温泉に入浴する」以上に「旅館に宿泊する」が高い傾向にある。また訪日の情報源として動画サイトが最も高いのは他の国と同様だが、「旅行ガイドブック」が高いことにある。逆に割合が低いのは、フィリピン、インドネシア、インドなどとなっている。中国は大きな変化があった。2019年と2023年を比較すると団体客が旅館への宿泊する傾向があったが、日本に在住している親族・知人宅への宿泊が増加している。

まとめ

旅館は団体旅行や家族旅行の受け皿としての需要があったが、企業などの団体旅行が減少したことで大きな需要が消えていくことになったと言われている。また、一般的な旅館のサービスを求めない客もいると言われている。一方で、外国人旅行者が日本への訪問前に最も重視する目的は日本食を食べることだが、スペイン、イタリア、フランスなど旅館、温泉を目的として日本に旅行する外国人も存在する。人気観光地を中心とした温泉旅館を支持する日本人も根強く存在する。多様性の中でこのような需要が存在するので、旅館が過去とは異なる受け皿として変化をするか、その動向を今後も見ていく。

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