地域で輝く企業

【栃木発】プレス加工技術で自動車産業を支える「縁の下の力持ち」

栃木県宇都宮市 ムロコーポレーション

日本経済の要である自動車産業。ミクロン単位の高機能精密プレス加工技術で超精密プレス部品を製造し、「縁の下の力持ち」として自動車産業を支え続けているのが、ムロコーポレーションだ。東京証券取引所スタンダード市場に上場し、2024年3月期の連結売上高は236億円に達した。

同社の製品は、国内外の自動車やオートバイ、船舶などに搭載されている。取引先は200社以上、取り扱う部品は約1万5000種類。製品は国内大手自動車メーカー11社すべてに採用されている。見目直信専務は、ムロの部品がなければ日本の自動車はできないかとの問いに「もちろんそうだと思います」と胸を張る。

ムロコーポレーション本社(宇都宮市)

大企業が手を付けない分野で

ムロの社是は「大企業が手を付けない分野においてトップメーカーになる」とうたっている。

室金属工業株式会社として1958年に創業。当時の主力製品は、部品と部品を組み付ける際に隙間を埋めて調整する「シム」と呼ばれる鉄板の部品だった。厚さは5~10ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)単位で50~100種類。ムロは、厚さの異なるシムを誤って取り付けられることがないように、鉄板表面に特殊加工を施して厚さなどを印字する技術を開発した。これは「マレットシム」として日本だけでなく、米国、西ドイツで特許を取得した。

まさに「大企業が手を付けない分野」で、世界のトップメーカーとしてスタートを切った。

自動車産業の発展とともに急成長

その後、超精密プレス部品などの多様なプレス加工技術を開発。高度経済成長期には、自動車産業発展とともに急成長し、1964年に当時の栃木県那須郡烏山町(現在は那須烏山市)に宇都宮工場を建設した。現本社工場である清原工場を宇都宮市に建設したのは1988年。「ムロコーポレーション」に商号変更したのは1990年だった。

1964年に操業を開始した宇都宮工場(同社提供)

現在もグループ会社を含む売り上げの9割近くは金属関係部品が占める。エンジンの動力をタイヤに伝える「パワートレイン」に関連した部品が多く、従来は機械加工でなければ作れないとされていた形状の部品を、よりコストがかからないプレス加工で製造できる技術力を持つのが、大きなアドバンテージとなっている。

ワンストップで一貫して対応

強みは技術力だけではない。ユーザーのニーズに対して、研究開発段階から納品後のアフターサービスまで一貫して対応する総合力がもうひとつの強みだ。

「お客さまからすると、ムロに頼んでおけば、完成品が届くということになります」

見目専務は、その総合力で顧客との信頼関係を築いてきたことを強調する。

インタビューに答える見目直信専務

国内大手自動車メーカー11社すべてで、ムロの部品が採用されているのも、オリジナリティーを武器に独立系部品メーカーとしてのポジションを維持してきたことが大きい。

ムロの場合、仮に一部の自動車メーカーの操業が停止したとしても、他への部品供給でしのぐことができる。独立系としての技術力が、リスク分散を可能にしている。

国内自動車メーカーと歩調を合わせる形で海外展開も進めてきた。主に北米では現地に進出した日系自動車メーカー向けの部品、ベトナムでは日本向けの部品をそれぞれ生産。インドネシア、タイ、中国にも進出している。

電動化への対応も着々と

自動車の電動化への対応も着々と進める。大量のバッテリーを搭載する電気自動車(EV)に不可欠なのは軽量化だが、金属製部品だけでは重量軽減にも限界がある。そこで、2019年に樹脂メーカーの「いがりグループ」を連結子会社化し、樹脂製部品を本格的に手掛け始めた。

また、ムロが得意とするギヤをEVのパワートレインに供給することも見据えている。

ムロは現在、自動車メーカーのEVの研究開発や生産現場と緊密に連携しながら、試作品の供給に努めている。

新型EVの設計図が完成した時には既にムロの部品が組み込まれていることを目指しての動きだ。見目専務は「お客さんとコネクションを保ちながらやっていくことが次につながります。設計図ができてから受注しようとしても、コスト競争だけになってしまいます」と気を引き締める。

自動車に搭載されているムロコーポレーションの主な製品(同社提供)

前向きに新規事業を模索

新規の分野にも積極的に取り組んでいる。樹脂メーカーを傘下に入れたことをきっかけに、環境に優しい生分解性バイオプラスチックを使って、花や野菜を支柱に結び付ける園芸用の結束誘引バンドを開発した。オフィスや家庭で結束バンドとしても使え、既にホームセンターなどで販売されている。

オレンジやグレープフルーツなどの皮むき器や連続ねじ締め機「ビスライダー」といったアイデア製品も好評だ。

連続ねじ締め機「ビスライダー」(同社提供)

 

経営企画室の市岡麻希子スーパーバイザーは「生き残りのために、全社一丸となって新規事業を考えよう」と呼び掛ける。

ガソリンから電気へ―。自動車産業は「100年に1度」と言われる大転換期を迎えている。先を見通すのが難しい時代を、ムロコーポレーションは独自性にこだわりながら歩み続けている。

 

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.muro.co.jp/ ▽代表取締役=室 雅文 ▽設立=1958年 ▽売上高=236億5千万円(2024年3月期連結) ▽従業員数=1145名(2024年3月期連結)