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【宮城発】水産業の困りごとをAIとロボット技術で解決 熟練の目利きが担う魚種の選別を自動化へ

宮城県仙台市 東杜シーテック

仙台を拠点に水産業のDX化に取り組む東杜シーテックのメンバー(左から佐藤恵理・取締役ビジネスセクション新連携担当、白川清彦・取締役FISH&Robo Baseネージャー、本田光正・代表取締役、横山桂一郎・FISH&Robo Baseチーフ、鹿野満・東北大IIS研究センター特任教授、藤田知之・FISH&Robo Baseプロダクトマネージャー)

世界三大漁場の一つとされる東北地方の三陸沖。漁港で水揚げされた魚を一尾ごとに、種類や大きさ別に仕分ける「魚種選別システム」の開発が進んでいる。東北大学の産学官連携に取り組む「情報知能システム(IIS)研究センター」が中心となって立ち上げた「スマートマリンチェーンプロジェクト」の一環だ。得意のAI(人工知能)画像処理技術などを生かして、プロジェクトに参加しているのが、仙台市に本社を構える東杜シーテックだ。

東日本大震災後 被災地の困りごとを聞く 水産業とかかわるきっかけに

「魚種選別システム」は、手作業で行っている魚の選別について、AI画像処理技術とロボット技術を使って自動化することを目指す。ソフトウェア開発などを行う東杜シーテックが水産業にかかわるようになったのは、東日本大震災直後にさかのぼる。

東杜シーテック代表取締役の本田光正さんは、東北大IIS研究センター特任教授の鹿野満さんとともに、三陸沿岸の宮城県気仙沼市を訪れ、困りごとを聞いてまわった。被害が大きかった地域の復興の力になりたいとの思いからだった。

気仙沼漁港は生鮮カツオの水揚げ量は日本一で全国の約6割を占める。また、生鮮カツオは気仙沼漁港の最大の水揚げ量を誇る。このため、震災直後、早期の復旧が史上命題となり、人員確保に苦労しながらも、なんとか再開に漕ぎ着けた経緯があるという。
カツオの選別は手作業で行っており、人口減や高齢化で、将来に大きな不安を抱えていた。そこで、カツオの自動選別機の開発を手掛けることになった。

これをきっかけに東杜シーテックには、水産業の困りごとの相談が寄せられるようになったという。と同時に気仙沼地域に限らず、水産業は全国的に、人手の確保が難しく、高齢化が進んでおり、魚の種類や雄雌などを見分ける、熟練の目利きが減っていることが共通の課題であることが分かってきた。

気仙沼地域も含めて冬場の真鱈(まだら)の雌雄判定には熟練の目利きによる判定が行われており、「AIやロボット技術で手作業の一部を自動化し、働く人の負担を軽減できれば」と、東杜シーテックのAI画像処理技術などを活用した真鱈の自動選別機の開発を行うことになった。

高齢化、人手不足…水産業の課題解決に独自システム開発へ 実用化に期待が集まる

その後、カツオ、真鱈のほかにもサバなど三陸沖でとれる豊富な魚種に対応しようと、選別できる魚種を広げるアイデアが浮上した。漁港で水揚げされた魚を自動で選別できる「魚種選別システム」の開発を進めることになり、2019年にスタートした「スマートマリンチェーンプロジェクト」の一環として実用化に向けて動き出した。

魚種選別システムは、魚を投入、魚種を判定、仕分けの大きく3つの工程に分かれている。
経済産業省の「商業・サービス競争力強化連携支援事業(新連携支援事業)」と「地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域デジタルイノベーション促進事業)」で採択され、こうした補助金も活用し、開発を続けている。これまで日本全国計6か所で実証試験を行い、試作機の改良を進めている。

魚の撮影データをもとにAIで魚種を分類するが、魚が重なると選別精度に影響を与えるため、魚を3列に並べ整列してから撮影する仕組みにしたほか、処理速度を速めるため魚を移動させるロボットの形状も変えた。開発の初期段階のシステムは、アーム型で魚を吸着していたが、押し出して移動させる3角形のおむすび型にした。摩擦によって熱が発生すると魚を傷つけるため、摩擦をいかに和らげるかという「トライボロジー」技術も取り入れている。

水産業の課題解決に向けて実用化への期待が高まる魚種選別システム

東杜シーテックFish&Robo Base統括マネージャーの白川清彦さんは「水産魚業に従事する方々の高齢化が進み、いかに人手を確保するかが課題となっている。各地でシステムを早く実用化してほしいという声をいただいた」と手ごたえを語る。

次のステップは水産業の加工・流通過程、バリューチェーンのDX化

「スマートマリンチェーンプロジェクト」では、魚種選別システムを開発し、次のステップでバリューチェーンのDX化を目指すという。水揚げされた場所や時間といった魚の情報がDX化に向けたデータのベースとなる。漁船から産地市場、輸送トラック、消費地市場、小売店と、消費者が手にするまで魚のデータをリアルタイムで取得することも可能になる。東北大IIS研究センターの鹿野さんは、「流通システムでこうしたデータを活用できれば、バリューチェーンが変わり、水産業が将来的に変わる」と説明する。

雌雄判別装置「Smart Echo(スマートエコー)」シリーズの「Smart Echo BX」

また、水産業とのかかわりで、東杜シーテックのターニングポイントとなったのが、真鱈の雄と雌の判定システム「Smart Echo(スマートエコー)」の開発、実用化だ。真鱈は外見からは雄雌の判定がしにくい。「スマートエコー」は、魚の腹部にあてると、超音波を送信し、反射波を画像化することで、AIが雌雄を判定する仕組みだ。画像によって白子・魚卵の有無が分かる。真鱈の白子はお正月料理でも人気があり、白子がとれる雄の価格が高いという。現在はレンタルで貸し出しを行い、チョウザメの養殖業者から卵の有無を確認する目的でのニーズも増えているという。

魚種の判定精度を上げるため、魚の形状がわかるカメラを使用するなど撮影技術も進化した。この結果、データの集め方も変化が起きた。真鱈の雄と雌の判定システム「スマートエコー」の開発時は、タラについて5年以上をかけて数万件のデータを収集したが、現在は数十匹のデータで判別できるようになったという。

常に新しいことに挑戦して事業分野を広げていく 首都圏に新拠点も

「首都圏からも新しい仕事を仙台に持ってきて宮城県の雇用を増やしたい」と本田光正・東杜シーテック代表取締役

東杜シーテックは2002年に創業し、ソフトウェアの受託開発で成長したが、2008年のリーマンショックの影響で受注が激減した。自社で独自のサービスの開発を進めるようになった。東北大学の青木孝文教授の研究室に社員が通い、AIなど最先端の技術を学んだ。「企業は生きていくうえで、新しいことに挑戦しながら、分野を広げていく必要がある。自分たちが持つノウハウを取り入れて新しいAIができるのではないかと考えている」と本田さん。

東杜シーテックは企業理念に、「『社会の真ん中でシステム開発』を合言葉に、社会のコアにあるテクノロジーを創り出すこと」を掲げる。地域社会の課題解決とともに成長を目指す考えで、宮城県の企業として水産業のDX化、スマート水産業へのかかわりにもこだわりがある。2024年8月には、川崎市内に新たに拠点を設ける計画だ。本田さんは「東京をはじめ首都圏から、新しい仕事を仙台に持ってきて宮城県の雇用を増やしたい」と言葉に力を込める。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.tctec.co.jp/
▽代表取締役=本田光正▽設立=2002年▽売上高=9億1千万円(2023年6月度)▽従業員数=126名(2024年6月現在)