METI解体新書

再エネ導入の切り札、海底直流送電に挑む!

久保山 潤:経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部電力基盤整備課 電力流通室/省エネルギー・新エネルギー部政策課 制度審議室。長距離海底直流送電の整備に関する業務を担当。

【電力基盤整備課/省エネルギー・新エネルギー部政策課】電力の安定供給と再生可能エネルギーの活用を両にらみで。

経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、資源エネルギー庁で「海底直流送電の整備」を担当する久保山 潤さんに話を聞きました。

海底直流送電って何?

―――「海底直流送電」とは何でしょうか。

電気を発電所から消費地に送ることを送電といいます。海底直流送電とは、海底のケーブルを通して、長距離での送電に適している直流で電気を消費地に送ること。北海道と本州(東北・東京エリア)をつなぐ海底直流送電を整備することが私のミッションです。2023年に、需給ひっ迫時の地域間の電力の需給調整や、地域間連系線などの増強の司令塔である電力広域的運営推進機関により、2050年カーボンニュートラルも見据えた「広域連系系統のマスタープラン」が策定されました。将来的な送電線の整備のあり方などを示したものです。このプランを踏まえて送電線の整備を進めるのですが、その中で特に大きな計画が海底直流送電の整備です。再生可能エネルギー(以下、再エネ)が豊富な北海道から日本海側を通って、本州をつなぐ800kmくらいのケーブルの設置を予定しています。

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――― 海底直流送電の整備が必要な理由は。

2050年カーボンニュートラルを目指すには、再エネを全国で使われるようにしないといけません。そのためには、発電所から消費地まで再エネを運べる送電線の整備が必要です。北海道には、再エネの中でも、洋上風力発電に適した場所がたくさんあるのです。北海道だけではその電力は使い切れないので、東京などの大消費地に運びます。北海道と東北を結ぶ送電線はもともとあって、そこも強化していきますが、今後の再エネ導入を考えると、そこだけではとても足りない、という見込みになっています。全国での再エネの活用に加え、大規模停電のリスクへの対応というレジリエンス(状況の変化に対する回復力・適応力)強化の面もあります。災害時に地域間の電力融通を複数の経路でできるようにすることは、電力の安定供給の観点からも重要です。そのためにも、海底直流送電の整備が必要です。

様々な意見の中で社会全体の「最適」を考える

――― 計画を進める中で、苦労していることや、やりがいは。

やる方針が決まっていても、どう進めていくかは論点も多く、決まりきっていません。2030年度を目指して整備を進めていますが、乗り越えないといけないハードルがいくつかあります。800kmほどのケーブルをどうやって設置するのか、どう資金を集めるのか。海底を通すので、地元の皆さんの理解も必要です。

日本がカーボンニュートラルを目指していく。再エネ導入に海底直流送電が必要。こういった方向性は合意が得られるのですが、具体的に計画を進めていく中で、課題や異なる意見も出てくる。その時に、経済産業省として、社会全体のためにはどういうあり方が最適なのかを考え、バランスを取りながら進めていくことが、難しさもあり、やりがいもあるところだと思っています。

――― 資金を集めるとは。

今回の大規模プロジェクトの実現に向けては、資金調達の面での課題もあります。国の制度や予算だけでは実現できないことを民間金融機関の力を借りて進めるという、これまで経験のないことに取り組んでいます。金融機関の方々とファイナンスの議論をしながら、協力してスキームを創り上げていくのは楽しさもありますね。時には厳しい意見もいただきながら検討を進めています。

――― 専門的な議論もあると思いますが、もともと電力に詳しいのですか。

学生時代は法学部で、電力について学んだのは入省してからです。整理しなければいけない論点や、関係各所との調整に難しさは感じていますが、閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の中で、「海底直流送電を整備する」という方針は決まっているので、それに向かって突き進む、がむしゃらにやっていくのみ、と捉えています。

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もちろん、自分だけでなく、技術面については電力広域的運営推進機関や電力会社、資金面については金融機関と共に議論していますし、課内にも詳しい担当者がいます。前例のないプロジェクトをどう動かしていくかが目下の課題ですが、意見をもらって計画にどう反映するか検討する、そのプロセスの繰り返しです。

社会的インパクトの大きさに感じる責任

――― 世の中に知ってもらいたいことは。

私たちの生活や産業活動に電力は欠かせませんが、あって当たり前という雰囲気もあると思います。一方で、今回の事業でいうと、送電線を設置し、再エネを全国で使うために、電力広域的運営推進機関や電力会社、金融機関をはじめ、多くの方が関わって初めて実現するというのは知っていただけると嬉しいですね。

――― 今後はどう進んでいくのでしょうか。

電力広域的運営推進機関が決定した基本要件をもとに、関係各社が技術面や資金調達などの精査を進めていきます。それらがそろうと、計画を実施する事業実施主体が決まっていきます。ここが1つのポイントですね。資金調達については、早期のプロジェクト開始に向けて、事業実施主体候補や金融機関と課題への対応をしっかりやっていきたいです。

――― 土日はどう過ごしていますか。

中学・高校で陸上をやっていて、今でもランニングが趣味です。土日や、平日も時間があるときに皇居や家のまわりを走っています。2年前ですが、フルマラソンで2時間58分のタイムでした。

――― 最後に仕事への思いを。

1つ1つの政策の社会的インパクトが大きいので、仕事への責任を感じますね。国の意思決定に関わるので、課長補佐の発言でも、関係する方々にとってみれば重たいものになります。特に制度変更は、様々な事業者に大きな影響を及ぼします。そういったことを忘れないように、責任感を持って仕事に取り組んでいます。

関連情報:
▶この記事で触れた政策など
再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会
電力・ガス基本政策小委員会