政策特集伝統的工芸品の灯を絶やさない vol.4

輪島塗、九谷焼、加賀友禅…。石川の伝統的工芸品は必ず復興する!

2024年1月1日に発生した能登半島地震は、伝統的工芸品の産地にも大きな傷跡を残した。国の重要無形文化財に指定されている輪島塗だけを見ても、石川県輪島市で多くの生産・販売拠点が倒壊、焼失するなど甚大な被害を受けている。

政府や自治体は支援策を打ち出し、企業や個人など民間ベースでも支援の輪は広がっている。被災地で伝統的工芸品に関わる人たちも、地域で育まれ、暮らしを彩ってきた品々を絶やすまいと、再起に向けて立ち上がっている。

震災乗り越えフェア開催。被害免れた品々かき集める

石川県の工芸品を展示・販売する「いしかわ伝統工芸フェア」が2024年2月16日から3日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開かれた。今回で29回目。元日の地震で大きな被害を受けたことで、一時は開催が危ぶまれたが、伝統の灯を絶やしてはならないとの思いで開催にこぎつけた。

輪島塗、九谷焼、加賀友禅など国指定の伝統的工芸品10品目をはじめ、石川県内の伝統工芸品30品目以上、約2万点の最新作が、バイヤーや一般消費者に展示・販売された。地震で大きな被害が出た輪島塗は、2店が出店を断念したものの、9店が自らも被災しながら被害を免れた品々をかき集めてブースを出した。

被災した輪島塗のお店も、破損を免れた品々を集めて出店した

家を失い職人はちりぢりに。輪島で再開目指す

輪島市の「中島忠平漆器店」の輪島塗職人・中島悠さんも出店した1人だ。自宅兼店舗や倉庫などが地震で被害を受け、多くの商品が壊れたり、傷ついたりするなど大きな被害を受けたという。

「まだ、全ての商品を見ているわけではありませんが、確認できているものだけでも、相当な数の商品が壊れてしまいました」

中島忠平漆器店では、木地づくりや漆塗りなど15人以上の職人が分業で、器やアクセサリーなどを製作している。そうした職人も今回の地震で、自宅が倒壊するなど被災し、多くが金沢市などで避難生活を余儀なくされている。今は、こうした職人が戻って来て、工房が再開できる日のために、少しずつ片づけを進めているという。

「輪島塗は多くの職人による分業で生産されます。地震でどうしても輪島から離れざるを得なかった人たちが、一日でも早く戻ってこられる環境づくりが、まずは一番です。それができれば、また新しいものをつくっていけます」

中島さんはそう言って前を向く。

「まずは石川に観光に来てほしい」。能登の人たちの思いを背に

輪島市から100㎞以上離れた県南部の能美市から出店した九谷焼総合製造卸「白龍堂」の田村龍司代表取締役は、今回のフェアが開催されたのは輪島塗関係者の強い思いがあったと話す。

「私の店だけでも計り知れない損失が出ています。それでも、能登と比べれば、インフラも機能しているし、生活もできる。商品の販売も再開できています。今回のフェアも当初は中止にしようかという話もあったのですが、輪島の人たちが是非やろうと言ってくれた。能登の人たちはへこんでない」

その上で、観光客に戻って来て欲しいという切実な思いを語った。

「今は『石川県に行くのはまずい』というような風評があるのかもしれません。これを克服して、観光客を取り戻すことで、我々の九谷焼もお土産として売ることができます。観光する場が能登にはなくなっているのが現状ですが、能登の人たちは『何とか他の地域が頑張ってほしい』と言ってくれます。涙が出ますよ」

「こんな時期に観光で行くなんてと思う方もいるかもしれませんが、全然迷惑じゃない。石川に来て、私たちがつくっている工芸品に触れてほしい」

率直な気持ちを語ってくれた出店者もいた。

輪島塗製造卸「岡山至鳳堂」の岡山幸一代表は、「正直言って現金が欲しいから出店しました。『生き残った』商品をお金に換えて、作業場の整備や職人さんへの外注や仕入をする事で少しでもこの業界の立ち直りに寄与できるよう、次に進む為の資金を作っていかなければなりません」と語った。その上で、国や自治体などに対しては、「色々と理屈はあると思いますが、今はとにかく、トップダウンでスピーディーに対応してほしい」と強調した。

政府も迅速支援。事業再開へ補助金、官民ファンドの創設も

今回のフェアでは初日の16日、齋藤健経済産業大臣が来場し、被災した中で出店した生産者らに励ましの声をかけながら、会場を視察して回った。経産大臣の来場はフェアが始まって以来のことだ。

視察後、齋藤経産大臣は、「今年は震災があり特別な意味があると思い、参上した。みなさん大変な状況の中で、がんばっている姿に私自身も勇気づけられる思いがした」と感想を述べた上で、政府として支援策を急ぐ考えを強調。具体策として、①道具、原材料の入手②工房の再建③デパートなどへの出品④在外公館での積極的なPRの展開――などを挙げた。

また、「過去に被災され、二重債務を抱えた人に債務負担を軽減する。新しく融資ではなく出資の形でお手伝いできないか、地元金融機関などとファンドの創設を急いでいる」と述べ、官民ファンドの創設を急ぐ考えを表明。これを踏まえ、3月末に総額100億円規模となる「能登半島地震復興支援ファンド」の設立が発表され、4月1日には被災事業者への復旧・復興に向けた相談に対応する「能登産業復興相談センター」が開設された。

「いしかわ伝統工芸フェア」のブースを回り、生産者の話に耳を傾ける齋藤経産大臣(2024年2月16日、東京・有楽町で)

齋藤経産大臣は4月8日にも、東京・赤坂の「伝統工芸 青山スクエア」で開催された「石川県伝統的工芸品復興応援フェア」(3月29日~4月11日)に足を運び、「職人の方々の復興に向けた強い思いに応えるべく、引き続き伝統産業の事業再開に向けて全力で支援していく」と強調した。

経済産業省は、伝統的工芸品産業支援補助金(災害復興事業)で事業再開のために必要な生産設備の整備や道具・原材料確保にかかる経費の一部を国が補助することを決め、2月28日に石川県内の30事業所を含む39事業所を採択。4月には2回目の公募を開始した。

さらに4月1日には輪島市に仮設工房がオープン。地震で働く場を失った職人たちが、輪島塗再興への一歩を踏み出した。

「漆文化の首都は輪島」。産地の復興=日本文化を守ること

経済産業省の産業構造審議会 製造産業分科会 伝統的工芸品指定小委員会の委員長を務めたMOA美術館の内田篤呉館長は、産地の復興の重要性についてこう強調する。

「伝統的工芸品の材料、道具、技術は産地で継承されています。漆芸家で人間国宝の小森邦衞さんは『日本の首都は東京だが、漆文化の首都は輪島だ』とおっしゃっています。輪島があれだけの被害を受けると、漆文化という日本文化の重要な一つが消滅しかねない。復興は日本文化を守ることなのです」

産地の復興は日本文化を守ること――。「がんばろう!いしかわ」の横断幕が掲げられた「いしかわ伝統工芸フェア」の会場

【関連情報】

・「能登半島地震復興支援ファンド」の設立、及び「能登産業復興相談センター」の開設について(METI/経済産業省)

・令和6年度「伝統的工芸品産業支援補助金(災害復興事業)」の公募について (METI/経済産業省)