QuizKnock伊沢拓司氏が語る、ネット時代でも大阪・関西万博に行く価値
大阪・関西万博スペシャルサポーター QuizKnock 伊沢拓司さん
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)がいよいよ、2025年4月に開幕する。大阪・関西万博スペシャルサポーターを務める、東大発の知識集団「QuizKnock」の伊沢拓司さん(29)に、スペシャルサポーターとしての意気込み、万博が掲げる「未来」への思い、さらに、会場を訪れて最先端の「知」に触れることの素晴らしさ、などを聞いた。
万博が描く未来とは「共存共栄ための、諦めない社会」
―――スペシャルサポーターとしてやりたいことや意気込みをお聞かせください。
万博は未来に向けた知が集う、国際的なイベントです。僕たちがその魅力を発信していけるというのはシンプルにうれしい。「楽しいから始まる学び」に対するQuizKnockのアプローチが認められたようなものですから、一つの到達点として喜んでいます。僕たちは、万博の良いところをいっぱい発掘して、「ここが面白いよ」「こういうところを見てほしいよね」と紹介する、万博と人々をつないでいく役割だと思っています。
―――今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。「未来」という言葉にどんなイメージを持っていますか。
初めて「未来」を意識したのは、小学5年生のとき、2005年に開催された愛・地球博(愛知万博)でした。当時、未来と言えば「ロボティクス(ロボット工学)」。未来はかっこいい、アニメで見ている世界、妄想している世界が実現しちゃうぜ、と憧れていました。未来というのは僕にとって「いろんなことを諦めなくていい世界」だったんです。
「諦めなくていい」という未来像は今も変わっていません。ただ、違いがあるとすれば、昔の未来像は「テクノロジーが進化して、今までできなかったことができるようになるよ、どんどんすごいことが起こるよ」でした。今、僕も含めて、人類が描いている未来は、サステナビリティとか、人を取りこぼさない、共生していく、といった「ちょっと一歩後ろに下がる覚悟ができている」という意味合いを含めての「諦めない」になっていると思います。
子どもたちに科学への憧れ、ポジティブな理解を
―――大阪・関西万博では、どんなことにいちばん期待をしていますか。
未来を担う子どもたちがどれだけ来てくれるか、そして、どれだけ楽しい顔で帰ってくれるかですよね。万博の目的は人類が築き上げてきた技術を発信すること。誰に発信したいかと言えば、やはり子どもたちでしょう。未来社会に向けてのポジティブな理解とか、憧れを作っていくというところが将来に向けての万博の意義だと思います。
今、万博を開く意味があるかどうか。現時点のお金だけでは測れない価値があると思います。日本中の必要なところにお金が使われていないといった声もあるかもしれません。大幅な予算超過とか、本質から外れた建設費にお金が使われたりすることのないようにすべきことは当然です。中途半端はよくない。その上で、何の意味もないということは全くない。適切に投資する分には、未来に実りがあるものです。だから、未来を担う子どもたちが来てくれることにはすごく価値があると思います。
今の日本は、科学への憧れを共有しづらいと感じています。エンタメコンテンツは多様になっているのに、科学に親しむ機会というのは必ずしも増えてない。この現状で、未来を見せることができる万博にはすごく価値がある。だからこそ、周りを取り巻く空気として、ある程度、万博にポジティブなムードを作っておく必要があります。「何だか、行くのが申し訳ない」みたいになったらイヤだなと思って。是正すべき点と、万博の持つ素晴らしい点はきちんと分けて、「中にある展示は素晴らしいですよ」と訴えたいですね。
―――昨年10月18日には「民間パビリオン構想発表会」で司会をされました。そのときの感想、手ごたえをどのように感じましたか。
未来とか生命に対する解釈が、出展する企業によって多種多様なところにワクワクしました。「このテーマは我々が深掘りしていくんだ」という使命感を持っています。万博がないとなかなかやらないことなんですよ、ビジネスの文脈にないから。それがやっぱりすてきだな、と感じました。
―――いまや世界中の最新情報がネットで手に入る時代です。この時代にあえて、万博会場に行って様々な体験をすることの意義はどういうところにあると思いますか。
みんなそう言いますが、本当に最新情報をネットで「手に入れて」いるのかな、と疑問に思います。「見出し」しか見ていない、実際の原典には当たっていない、情報の正確さを確かめていない、ということも多いと思います。そもそも、最新の情報をネットで手に入れるのにはだいぶ技術がいるんじゃないかと。情報に触れたつもりでも、「情報のラベル」に触れただけに過ぎないのかもしれない。もっと必要なのは、僕たちが情報にたどり着くまでの道筋を学ぶことなのですが、それってとても難しい。その点、万博は体験という形で「知」へのアクセスの筋道を見せてくれるものだと思うんです。きっとそれは、そこで得た知を自分のものに出来なかったとしても、意味のある過程なのかなと思います。
メディアアーティスト・落合陽一さんのシグネチャーパビリオン「null²」はまさに「リモート時代に訪れるに足る」と、プロモーションビデオで紹介しています。生物学者・福岡伸一さんの「いのち動的平衡館」では、「動的平衡の世界を追体験できる」と言っているんですよ。そんなことできるのか。いや、でも福岡先生ならやってくれそうな気がする。生物学でベストセラーになるような本を書いた学者が、それを体験できる場をもたらしてくれる。生物学の理論を体で感じられるわけです。「情報のラベル」を見るだけじゃなくて、その情報を実際に経験できる、体で学ぶことができる、それがすごくいいところなのかな。それこそが万博の価値だと考えています。
簡単なきっかけで深い学び…万博とクイズの共通点
―――万博とクイズの共通点はどういうところにあると思いますか。「学ぶ」「知る」「楽しい」といったキーワードを基にお話しください。
興味の領域外からの気づきや知識が与えられるところだと思います。本来、知識を得るためには、自分から行動しなければいけないけれど、万博とかクイズというのは、エンターテインメントの形で我々のところに飛び込んでくれる。知識の側からノックして自分の中に入ってきてくれるんです。
クイズって多かれ少なかれ知らない情報が織り込まれていますから、ゲームの形をしていますけど、強制的に教科書の一文を聞かせてくるみたいなものですよね。万博も「勉強するぞ」と思ってパビリオンに入る人ってそんなにいない。「きれいだな」「面白そう」と感じて、入るわけですよね。簡単なきっかけで入ったにもかかわらず、割と深い学びが得られる。外からの働きかけ、しかもそれが楽しそうに見えるという点で、あえて探すならそこが両者の共通点なのかな、と思いますね。
―――YouTube登録者が219万人を超えるなど、QuizKnockの人気が高まっています。これまでの取り組みを振り返って、どういう感想を持っていますか。
これほど人気が高まるとは思いませんでした。基本的には僕らが楽しいことをやっていて、それでも「成績が伸びました」「大学に受かりました」「資格を取れました」みたいなポジティブなコメントが常に寄せられます。具体的な勉強を教えているわけではないけど、彼らは僕たちを見て、自分で努力して成績を上げたり、合格したりして、「QuizKnockのおかげだ」と言ってくれているわけです。「姿勢」で伝わるものがあるんだな、と思えて「ああ、やってよかったな」と常々思います。
まさに、憧れなのかな。僕自身もいろんな人への憧れを力にここまで来られた。それをより良い形で再生産したい。「憧れから始まる努力がある」っていうところは、もしかしたら万博が未来に残す可能性にも通じますね。
子どもたちに「楽しいから始まる学び」を広げたい
―――QuizKnockとしての今後の展開、目標などをお聞かせください。
僕たちの提供するコンテンツを楽しい空間にして、その中に学びのきっかけをちりばめることで、そのうちの一つについてだけでも「もっと知りたい、興味を持った」と思ってくれれば、そこから学びに対するポジティブさが芽生え、その人の学びがどんどん前のめりに変わっていくはずです。「1から100にするための、0から1を作る」、それが僕たちの役割だと思っています。
「楽しいから始まる学び」というコンセプトはぶれません。このコンセプトを理解し、実践してくれる人が増えるように、僕たちを知ってもらう活動を広げていきたいですね。それは未来を担う子どもたちのためでもある。より良い未来を描きたい、そう思える社会を作るために、僕らも万博も頑張らないといけないですね。
【プロフィール】
伊沢 拓司(いざわ・たくし)
クイズプレーヤー、株式会社QuizKnock CEO
1994年生まれ。東京大学経済学部卒業。「高校生クイズ」で史上初の個人2連覇を達成。2016年に東大発の知識集団・QuizKnockを立ち上げ、YouTubeチャンネルは登録者数219万人を突破。2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。「東大王」「冒険少年」などのテレビ番組に出演するほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」を行うなど、幅広く活動中。
https:/www.portal.quizknock.com/