政策特集半導体の現在地 vol.1

日本がなぜ半導体? 経産省のキーパーソン、野原局長が疑問にとことん回答

半導体に関する経済ニュースを目にしない日はないと言ってもいいかもしれない。世界最大の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)は2月、日本国内に初めての工場を熊本県内で開所し、年末の生産開始を目指している。トヨタ自動車やNTT、ソニーグループなど国内大手8社も出資し、次世代半導体の国産化を掲げて設立されたラピダスは、北海道で工場を建設している。このほかにも日本列島各地で、半導体の生産増強計画は目白押しになっている。

こうした動きの背景に、経済産業省を中心とした政府の姿勢がある。日本の半導体産業は1980年代には世界をリードする存在だったが、米国の巻き返しや、台湾や韓国の台頭により、勢いを失っていた。ここに来て、日本の復活を図ろうと大規模な政策を次々と打ち出している。

ただ、期待が膨らむ一方で、さまざまな疑問や懸念の声があるのも事実である。

そこで、経済産業省で半導体に関する戦略を主導してきた野原諭・商務情報政策局長にズバリ聞く。なぜ、日本が今、半導体に投資すべきなのか?その理由が見えてくるはずだ。

インタビューは前編と後編があり、今回は前編。

後編「日本は半導体でどう勝つか?経産省の野原局長が疑問にとことん回答」はこちら

転換点を迎えた半導体政策のど真ん中にいる経済産業省の野原諭・商務情報政策局長が、さまざまな疑問に真っ正面から回答する
転換点を迎えた半導体政策のど真ん中にいる経済産業省の野原諭・商務情報政策局長が、さまざまな疑問に真っ正面から回答する

 

経済産業省の野原諭・商務情報政策局長へのインタビューのポイント
・将来に向かって半導体産業への大規模投資は不可欠
・半導体産業は国際的な誘致合戦が繰り広げられていて、公的支援が求められる
・有志国・地域による連携を深め、半導体のサプライチェーンを強化していく
・過去の半導体政策に失敗はあったが、今回の政策では教訓にしている

強力支援に3つの理由。半導体は国民生活を守り、GXに貢献する成長産業

――― 政府が半導体産業を強力に後押しているのは、どういう狙いからでしょうか。

野原 主に3つの理由があります。

1点目は、半導体の安定供給を確保することがきわめて重要だからです。コロナ禍では半導体不足が顕著になりました。産業のサプライチェーンは停滞し、製品の供給に悪影響が出たため、国民生活にご不便をおかけしました。国民生活や日本経済を守るには、半導体の安定供給を図らなければなりません。

2点目は、GX(グリーントランスフォーメーション)、あるいは、カーボンニュートラルの関係です。生成AIの登場などデジタル技術の発達に伴い、データの使用量が爆発的に拡大し、電力消費量が大きく伸びることが見込まれています。電力供給量の増加だけで対応することは困難な状況です。テクノロジーの力で、電力消費をサステナブルな水準に抑える必要があります。

デジタル化やDXの進展で、電力消費量の増加を抑えるためにも半導体のイノベーションは不可欠と考えられている
デジタル化やDXの進展で、電力消費量の増加を抑えるためにも半導体のイノベーションは不可欠と考えられている

そこで、半導体のイノベーションへの期待が高まっています。ラピダスが目指しているような半導体の回路の微細化技術は、消費電力の削減につながります。また、電気配線を光配線に変える「光電融合(こうでんゆうごう)技術」という技術についても研究が進んでいて、実現すれば、電力消費を約100分の1に抑えることができるのです。

3点目は、半導体が成長産業であるからです。少し前には、半導体市場は今後10年間で50兆円から100兆円へと2倍に拡大すると認識していましたが、AIの発展によって、150兆円近くなるという見方も出ています。これだけ成長する産業を自国の基幹産業として持つことには大きな意義があります。日本だけでなく、各国がそれを目指して競っているところです。

日本の半導体は復活できる。製造装置や部素材の強みをいかし、有志国・地域と連携

――― 日本の半導体生産の世界シェアはかつて50%超ありましたが、現在は10%程度で、先端技術の開発競争でも取り残されました。日本の半導体の復活は可能でしょうか。

野原 半導体産業はとてもサプライチェーンが長いという特徴があります。生産する工程だけをとっても1000ぐらいあるとされています。世界のどの1か国として、サプライチェーンの全てを自国で完結させる自給自足は難しいです。ですから、有志国・地域がそれぞれの強みを生かし、組み合わせることで、安定供給を図るというのが基本的な考え方です。

日本には強みがあります。半導体をつくる部素材では世界シェアが約50%パーセント、製造装置では約3分の1をもっています。海外のパートナーに対して供給責任を果たしていくということも求められているのです。

日本は半導体製造装置や部素材の分野では強みを持つ

日本は半導体製造装置や部素材の分野では強みを持つ

――― 日本は、強みのある半導体製造装置や部材に特化して、半導体を輸入するという戦略は考えられないでしょうか。

野原 経済安全保障という観点からも、半導体は特に重要な戦略物資になっています。半導体を使ってない電子製品はないくらいですし、自動車や産業機械、エレクトロニクス、ヘルスケアなどの産業、あるいは防衛産業でも、最先端の半導体なしでは成り立ちません。各国とも半導体を確保したいのです。コロナ禍のマスクのときのように、半導体不足になると、自国への供給を優先することになります。ですから、自国内に一定の供給拠点をもっておくべきなのです。

また、半導体のサプライチェーンで川上にあたる製造装置や部素材のメーカーには、川下となる半導体チップを作る企業から自社の工場の近くに進出してきてほしい、共同で研究開発しようという要請が常に来ています。川下の工程が自国内になくなると、時の経過につれて、国内の産業クラスター(集積)がくしの歯が抜けるように解体していくリスクを抱えることになります。

そこで、現在は、グローバルな川下のプレーヤーを日本国内に呼び込んでいます。強みである製造装置や部素材の産業を国内に残すという面からも、日本で半導体を生産することは大切です。

ニッポン半導体産業凋落の原因を5つに整理。「過去の政策の反省に上に立ち挑戦」

――― 少し耳の痛い話をさせてください。経済産業省はこれまでも半導体産業の再建策を何度か打ち出してきましたが、電機大手のDRAM事業を集約したエルピーダメモリが経営破綻に追い込まれるなど、必ずしも期待した成果を得ていない現実があります。今回は大丈夫でしょうか。

野原 私たちも今回の戦略をスタートするにあたり、過去の政策を総括し、反省しなければいけないと考えました。そして、日本の半導体産業が凋落した原因を5つに整理しています。

1つは、半導体摩擦ではアメリカから批判を受けたこともあって、産業政策を後退させたことです。これは、経済産業省の政策全般についても言えます。

2番目は、ビジネスサイドの問題として、ファウンドリーというビジネスモデルの転換に、総合電機メーカーを中心とする日本企業がついていけませんでした※。

※ファウンドリーとは半導体チップの設計を自前で行わず、他社が設計した半導体の製造の専門に特化するビジネスモデル。日本の総合電機メーカーは設計から生産までを一貫して手掛けていた。

3番目に、日の丸自前主義とも言われますが、政府が支援するのだから、対象を日本企業に集中すべきという考え方です。アライアンスを組んでいる日本企業の中に、国際的に競争力が乏しい企業が含まれていると、全体としては競争力がないということが見られました。最終的に勝ち残らなければ、財政資金が無駄になってしまいます。

4番目として、バブル経済の崩壊以降に民間投資が後退していく中、政府としての支援が十分ではありませんでした。他国は支援していましたので、結果として立ち遅れました。

最後の5番目は、ユーザーサイドの問題です。日本の半導体産業が世界一だった時代は、国内の家電メーカーが世界的に競争力をもち、その家電メーカーに半導体を売っていました。その後、パソコンやスマートフォンが半導体の大きなユーザーになったのですが、海外にいるこうした企業をお客さんとして獲得できませんでした。

経済産業省の野原諭・商務情報政策局長は、半導体を巡るこれまでの過去の政策に反省すべき点があることを認めたうえで、教訓としていかしていることを強調した

経済産業省の野原諭・商務情報政策局長は、半導体を巡るこれまでの過去の政策に反省すべき点があることを認めたうえで、教訓としていかしていることを強調した

――― 反省を今回の戦略にどういかしているのでしょうか。

野原 今は本格的な産業政策にもう一回踏み出そうとしています。投資支援にも積極的に取り組んでいます。

そして、国際協調を重視しています。日米、あるいは日米欧を軸とした有志国・地域で連携しています。日の丸による自前主義は転換して、日本国内の安定供給に資するのであれば、外資であっても日本への投資を支援しています。

ビジネスモデルに関しては、ラピダスが新しく生み出そうとしています。発注から製造、納入までの期間は約5か月かかるのが通常ですが、前工程と後工程を一貫して手掛けるなどの工夫により、半分程度に短縮する提案をしています※。

※シリコンウェーハ上にIC回路を形成するまでが前工程。シリコンウェーハからチップを切り分け、組み立てるのが後工程。それぞれ別の企業が担うことが一般的になっている。

ユーザー対策にも力を入れています。例えば、国内での生成AIの開発を後押しする事業を始めました。クラウドサービス上で提供されるAI向けスーパーコンピューターを活用できるように支援するもので、スタートアップや大学など計7者を採択しました。また、GPUを調達してAI用スーパーコンピューターのデータセンターを国内で整備する事業者も支援しています※。

※GPU(Graphics Processing Unit)は画像を処理する際に必要となる計算を処理する専用の半導体チップ。AIの開発では必須とされる。

たしかに、「過去に失敗例があるじゃないか」という指摘には当たっているところもあり、真摯に反省しなければいけません。しかし、「これまでお前は失敗したのだから、今回もまた失敗するはずだ」というのは、チャレンジを許容しないということだと思います。過去の反省の上に立って、挑戦することは否定すべきでありません。

【プロフィール】
野原諭 経済産業省商務情報政策局長
(のはら・さとし)1991年通商産業省(現・経済産業省)入省。2006年経済財政政策担当大臣秘書官、2012年経済再生担当大臣秘書官、2016年経済産業省経済産業政策局経済産業政策課長、2018年大臣官房会計課長、2019年大臣官房審議官(商務情報政策局担当)、2020年内閣官房成長戦略会議事務局次長(内閣審議官)を経て、2021年10月から現職。

※後編「日本は半導体でどう勝つか?経産省の野原局長が疑問にとことん回答」に続く

 

【関連情報】
▶半導体・デジタル産業戦略検討会議(経済産業省)
▶半導体・デジタル産業戦略(経済産業省)

【関連する経済産業省の政策】
▶特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(特定半導体生産施設整備等関係)
▶半導体の安定供給の確保に係る取組の認定について
▶ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
▶生成AIの開発力強化に向けたプロジェクト「GENIAC」を開始します
▶クラウドプログラムの安定供給の確保