【徳島発】世界シェア80%の自動車ガラス加工機、追随許さぬ「高速化」
徳島県徳島市 坂東機工
自動車の窓、パソコンやスマートフォンの液晶ディスプレー、駅やビルのデジタルサイネージ、太陽光発電用パネル、住宅の窓ガラス、洗面化粧台のミラーなど、私たちの周りのあらゆる場所で使われているガラス。様々な用途に応じてガラスを切ったり、削ったりする「ガラス加工機」を製造・販売しているのが「坂東機工」だ。
特に自動車用窓ガラスの加工機では世界シェアの80%を占めており、同業他社はヨーロッパに1社あるのみで国内にはない。加工時間は世界最速を誇り、特許は国内外で100以上にも上る。開発、設計から生産まで「自社一貫製作」にこだわり、世界60か国の企業と取引があるものの、支店、営業所、代理店を一切持たず、営業や機械のメンテナンスも含めて、すべて徳島市の本社から社員が現地に出向いて行っている。他社の追随を許さない技術力の高さ、加工時間短縮へのたゆまぬ努力の源泉はどこにあるのか。専務の坂東詳司氏(61)に話を聞いた。
加工の3工程を1台で可能に 画期的な開発でトップへ
坂東機工は、徳島県のガラス関連の総合企業「坂東グループ」の一つ。グループは1934年に創業したガラス販売業の会社が元になり、坂東啓会長(当時)ら5人兄弟が役割分担して拡大してきた。1968年、技術開発に長けた次男・茂氏が設立したのが坂東機工だ。茂氏の息子和明氏が現社長を務め、長男・啓氏の息子、詳司氏が専務、五男・恵亮氏の娘の眞己子氏が人事本部長・社長室広報リーダーを務めている。
徳島はかつて鏡台やガラスを使った家具の生産が盛んだった。こうしたガラス加工は当時、すべて手作業で行っていたが、坂東機工は高度成長期の需要増に対応するため、機械化に取り組み、ガラス加工機を開発した。当初は自社用だったが、他社からの引き合いが増え、加工機の販売に重心を移した。1970年代に入ると、国内の自動車の生産台数が急速に伸びる中、自動車用ガラス加工機の開発を手がけ、日本の自動車業界の成長・発展を支えてきた。
ガラス加工の工程は「切断」「折割」「研削」に分かれている。業界では「切断は早く、研削はゆっくりの方がきれいに仕上がる」という常識があり、従来はそれぞれ別の機械を使っていた。一方、自動車の進歩により、ガラスの形状は複雑化するとともに、形状の精度と量産化が求められてきた。各工程を別々の機械で行うと、その都度、ガラス板を置く「位置決め」が必要となるため、それに要する時間や、位置決めの精度が低いことにより無駄な削りが発生するなどのロスが生産性向上のネックとなっていた。
1997年、坂東機工は、工程を1台に集約したガラス加工機「FACG-1」を開発した。これまでのガラス加工業界の常識を覆す画期的な発明となった。坂東専務は「機械のスペース、オペレーターの数を減らし、『位置決め』を正確にして、加工時間の短縮と加工品質の向上を実現できた」と話す。加工時間はガラス1枚で25秒くらいだったのが、2000年頃には20秒を切るようになり、現在は7秒にまで短縮している。一時、自動車は軽量化とコスト削減の面から、窓やサンルーフなどをガラスから樹脂やプラスチックに代える動きがあった。しかし、加工時間の短縮化でガラスの生産コストが抑えられた結果、その動きはなくなり、ガラスが見直されたという。
一方、スマートフォンなどの液晶画面用のガラスは、「世代」が進むにつれて徐々に薄くなっている。厚さは1.1ミリから最近は0.3ミリと、紙よりも少し厚いくらいにまでになっており、取り扱いには高度なノウハウが求められ、その技術も積み上げてきた。こうして、坂東機工のガラス加工技術は、もはや他社には追随できないほどの高いレベルに達するようになっていった。
高度な技術開発が可能な背景には何があるのか。坂東専務は「特許が取れないような機械を作るな、という考え方が社内にあります」と話す。ただ、専門の企画チームのような部署が存在するわけではない。「うちの社員は『多能工』みたいに、いろんな仕事ができる能力を持っています。現在の仕事だけでなく、全体の新しいアイデアや改善点などを考えて、常に連絡を取り合っている」と胸を張る。「改善提案」という用紙があり、入社1年目でも自由に書いて提出できるシステムがあり、年間で10~20人程度は新たなアイデアを提案しているという。「機械好き、関西独特の『しゃべり好き』がそろっています。自由で意見を言いやすい雰囲気です」
従来、日本の製造業などでは、一人の従業員が特定の業務を担当する「単能工」、すなわち専門知識を持つスペシャリストが一般的だった。これに対し「多能工」は、担当以外の業務に携わることで他業務への理解が深まり、多角的な視野を持つことで、全体のチームワークが向上するなどのメリットがあるとされる。
社員の高い英語力、70歳定年の導入で着実な技術継承も
それにしても、徳島市の本社だけで60か国の顧客の対応が可能なのだろうか。坂東専務は「うちの機械は壊れにくく、何かあっても、最近はウェブ会議を駆使してすぐ対応できる」と話す。さらに、社員が身軽に営業やメンテナンスなどで、海外を飛び回っていることも挙げられる。多くの社員は英語や他の外国語が堪能だ。社内には毎朝15分の英会話教室があり、坂東専務自身も「技術員のための英語」を指導している。営業を希望している学生には、目安として「TOEIC700点以上」を求めているが、人事本部長・社長室広報リーダーの坂東眞己子さんは「入社してくる新人は、全員800点以上です。顧客は世界の大手メーカーで、仕事もやりがいがある。徳島出身の学生が『語学を生かしたい』とUターンして就職する例もあります」と話す。
2021年から定年を70歳に引き上げた。給与も据え置かれ、役職定年もない。一方で「週休3日」「残業なし」など年齢を考慮した働き方もできるようになっている。坂東専務は「世の中の流れもありますが、仕事ができるならどんどん来てよ、今まで頑張ってくれたのだから、という気持ちです」と話す。年長者が先輩風を吹かせるような雰囲気はなく、「若い人に技術を引き継ぎたい」と一生懸命指導する人が多いそうだ。
ガラスの新たな需要に応える開発を続けたい
ガラスの強度が年々向上し、新たなガラスの需要が出てきている。米テスラ社は、自社の電気自動車で使うガラスに、これまでのガラス業界では考えつかないようなデザインや機能を求めている。これまで金属だったものをガラスに置き換える動きも出てきている。また、太陽光発電用パネルは電機メーカーが作っているなど、ガラスを扱うプレーヤーがガラスメーカー以外にも広がっている。
「新たな需要に応える開発を今後も進める。高品質を維持するためには、支社や代理店を設けず、1か所でやった方がいい。地元徳島にこだわり、この地で世界シェアを維持し、トップランナーであり続けたい」と語る坂東専務。その目はガラスの未来を常に見つめている。
【企業情報】▽公式サイト=https://bandoj.com/▽社長=坂東和明▽社員数=195人▽創業=1968年