地域で輝く企業

【福岡発】実際に締まるネジチョコ、新たな定番お土産を作った「地元愛」

福岡県北九州市 オーエーセンター株式会社

ボルトとナットを自由に動かせる「ネジチョコ」は鉄の街・北九州をイメージして誕生した

本物のボルトとナットにそっくりで、実際に締めたり外したりできる一口サイズのチョコレート「ネジチョコ」が、北九州市の新しいお土産として人気急上昇中だ。ネジチョコを生産しているのは「オーエーセンター株式会社」。社名「オーエー(OA)」の通り、もともと情報通信機器の販売や工事を行ってきた会社なのだが、なぜ、畑違いのチョコづくりを始めたのか――。吉武太志社長(51)に話を聞くと、NPO法人代表として地域のスポーツイベントを手掛けるといった「地元愛」の深さと、思い切った「選択と集中」の経営手法が見えてきた。

携帯電話ショップにカフェ併設…アイデアが転機に

「オーエーセンター」は1985年に創業し、NTT西日本の代理店として機器の販売・施工・保守事業を行い、その後はNTTドコモの携帯販売代理店業務も請け負ってきた。吉武社長は2代目で、2001年に社長に就任した。ドコモが3G(第3世代移動通信システム)対応の携帯電話「FOMA」を発表するなど、携帯電話の機能が大きく進歩した時期だ。「携帯電話は売るより配るというほどの勢いでした。私はショップの権利を獲得することに奔走していました」と当時の様子を語る。

2002年の夏、翌年にオープン予定の複合商業施設「リバーウォーク北九州」にドコモショップを新設することが決まった。ただ、商業施設側は3、4階に設置することを求めたのに対し、NTTドコモ側は、より人通りの多い1階を希望していた。そこで、吉武社長はドコモショプとカフェのコラボレーション店舗を1階に設置することを提案し、商業施設と同時にオープンした。いざ開店すると、ドコモショプの客が購入手続きの待ち時間にカフェでくつろぎ、カフェの客がドコモのサービスを利用するという流れができた。「期待通りの相乗効果が生まれ、大当たりした」と振り返る。

ネジチョコで地域を盛り上げたいと話す吉武太志社長

飲食事業に手ごたえを感じた吉武社長は、2005年にパティスリー「グラン ダ ジュール」をオープンし、経営は順調だった。だが、それから10年を過ぎる頃には、人材不足などから、携帯電話ショップやパティスリーを多店舗展開することには限界があると考え、「メーカーになって商品を生産して卸す業態に切り替えたい」との思いを強くするようになった。

八幡製鉄所の世界遺産登録をきっかけに、「ボルトとナット」の土産品を提案

2015年7月、北九州市にある八幡製鉄所などを含む「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された。新たな観光の目玉が誕生したが、当時、北九州市には代表的な土産物がなく、JR小倉駅や北九州空港には「博多名物」の土産物が並んでいる状態だった。そんな折、市や商工会議所から吉武社長に「世界遺産のお土産を作らないか」と相談があった。吉武社長は「昔から製鉄所がある北九州は『鉄の街』のイメージが強い。鉄をモチーフにしたお土産を作ろう」と考えた。まず試作したのは、工事・建築資材として使われる鋼材「H鋼」の形をしたチョコレート。ただ、これは「棒のように見えてインパクトがない」として商品化には至らなかった。

そこで腹案として持っていた、一口サイズのボルトとナットの形をしたチョコレートを提案、「ボルトとナットが実際に締まるようにすれば、北九州のものづくり、技術力を示すことができる」と説明した。しかし、関係者からは「八幡製鉄所は小さい物は作っていない。北九州の鉄のイメージから逸脱してしまう」と懸念が示された。だが、さらに調べてみると、八幡製鉄所でも小さくて精巧な部品を製作していた実績があることを突き止めた。こうして「ネジチョコ」の製造が始まることになった。

通常、工場でお菓子を大量に生産する場合には専用の金型を作る。しかし金型を作るには時間も費用もかかり、柔軟な仕様変更はできない。そこで、3Dプリンターでシリコーンの型を作ることにした。これなら費用も10万円程度で済み、1週間ほどで開発できる。ただ、本来ネジは外れてはいけないが、「ネジチョコ」は締めたり外したりして楽しめるようにするため、ボルトの溝など細かい部分まで忠実に再現した。3Dプリンターで型を作ることにした結果、地元の工業大学や高専などと関係ができ、産学連携を進めることもできた。

3Dプリンターで作った「ボルト」部分の型。この型にチョコレートを充てんする

大ヒットで生産追い付かず、新工場で自動化を推進

こうして完成したネジチョコは、2016年2月のバレンタインデーに発売した。各メディアに取り上げられ、売り切れが続出。SNSで人気に火がつき、生産が追い付かないほどの大ヒットになった。

当時は、20人のスタッフが手作業で作っていたが、型からチョコレートを抜く作業が難しく、腱鞘炎になる人が続出した。手作業を減らしつつ生産量を増やすため、2020年、生産を大幅に自動化した新工場「ネジチョコラボラトリー」を建設した。生産数は1日1万個から3万個に、不良率は3~5%から1%未満になった。

これまでに、北九州市ゆかりの漫画家、松本零士さんの「銀河鉄道999」や、サンリオの「ハローキティ」といった有名キャラクター、さらに、北九州市に本社があるTOTOや、JR西日本などの地元企業などとのコラボ商品も次々に生まれている。最近は、ネジチョコとサブレで飛行機などが組み立てられる「メカサブレ」にも力を入れる。「『おいしい』『かわいい』だけでなく、『面白い』『人に教えたい』といった、感情を揺さぶるような『エモーショナル・スイーツ』というコンセプトを掲げています」

広告費をほとんどかけず、SNSマーケティングに力を入れているのも特徴だ。吉武社長とスタッフの2人で日々、SNSを更新している。「ネジチョコは締まるので、受験シーズンなどに『締まっていくぞ!』といった投稿があります。一般の人が次々と面白いアイデアを投稿してくれるので、それを紹介することが多い。ファンを巻き込んでブランドを成長させるという手法です」と話す。

ネジチョコは味にもこだわり、カカオ分が50%以上のクーベルチュールを使っている

「NPO活動は成長のカギ、今後も貢献したい」と意欲

毎日2キロの「スイム」と10キロの「ラン」を欠かさないという吉武社長は、会社経営者らのトライアスロンチームを率いるスポーツマンで、NPO法人「ノースナイン」の代表でもある。「ノースナイン」はトライアスロン大会の運営や、地域の公園の管理・運営業務を行っている。地元の大学などと連携して、廃棄される野菜を使ったスイーツを販売し、「子ども食堂」に売り上げの一部を寄付する予定だ。こうしたNPO法人を通じた地域の課題解決、活性化への取り組みを「成長のカギ」と強調する。「NPOの活動をやっていたから、ネジチョコも生まれました。NPO法人を活用しながら、北九州のまちづくりに貢献し、会社の事業も成長させたい」と前を向く。

会社のスローガンは「チョコっと世界を変えていく」だ。手狭になってきた工場は、2027年までの移転を目指している。吉武社長は「工場見学コースを充実させて、北九州市の観光資源にしたい」と意気込む。地域のつながりや文化を大切にしつつ、新たな価値を生み出す挑戦は今後も続く。

ポップなデザインが特徴的な、現在の「ネジチョコファクトリー」。3Dプリンターを使ったチョコレートづくりも体験できる

【企業情報】▽公式サイト=https://www.oacenter.co.jp/▽社長=吉武太志▽社員数=36人▽創業=1985年