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【千葉発】「機能性表示食品」ブーム陰の立役者 ESG経営で育む新たな企業価値

千葉県佐倉市 株式会社常磐植物化学研究所

様々な植物から抽出したエキスが、機能性表示食品や医薬品などの原料になる

「体脂肪を減らす」「睡眠の質を高める」などの健康効果をうたった「機能性表示食品」は、近年、サプリメントだけでなく、お茶などのドリンクや、ゼリー、チョコレートなどにも広がっており、健康の維持・増進の手段としてますます身近になっている。

次々と発売される機能性表示食品の開発を陰で支えているのが「株式会社常磐植物化学研究所」だ。創業から75年、日本初の植物化学(ファイトケミカル)の専門企業として、機能性表示食品を始めとする健康食品や医薬品、化粧品などの原料を、国内外の2000社以上に提供している。創業以来、植物エキスを抽出精製する高い技術力を持つエキスパートとしての地位を着実に固めてきた。

しかし、2000年代に入り、海外からの安価な製品の流入が急増すると、会社は経営危機に陥った。会社を立て直したのは4代目社長の立﨑仁氏(45)。経営再建に追われる中でも、人財育成や研究開発の手を緩めず、環境や社会課題に考慮した「ESG経営」を中堅企業の中でもいち早く手がけてきた。2015年の「機能性表示食品」制度スタートも追い風となり、愚直とも言える取り組みが実を結びつつある。熱き経営者が目指す「世界一の植物化学企業」に迫った。

経営再建に奔走する中でも、「人財」「研究」を忘れず

常磐植物化学研究所は1949年に創業。国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)の第12代所長・松尾仁氏と立﨑社長の祖父である立﨑浩氏が中心となって設立した。当時、原爆の後遺症の治療に、ソバなどに含まれる成分「ルチン」が注目され、ソバからルチンを工業的に抽出精製する技術を確立、医薬品原薬として安定供給できる体制を整えた。その後、イチョウ葉エキスやブルーベリーエキスなどにも事業を順調に広げてきた。しかし、2000年代に入ると、海外の安価な製品との競合で需要が減り、過剰な在庫を抱えるようになった。事業拡大に合わせて行った設備投資の費用も回収できなくなり、借入金は約40億円にまで膨らんでいった。

「ESG経営が会社の価値を高め、社会から選ばれる会社になれる」と話す立﨑仁社長

立﨑社長は、米国の大学院で薬学を専攻後、日本の大手化粧品会社に勤めて2年目だった2007年、経営再建のため、社長の父に呼び戻された。「会社経営の経験なんてありません。でも、借金で大学院まで行かせてもらえた。会社のためにできることをやろうと覚悟を決めました」。2010年、31歳で社長に就任した。立﨑社長は「末期の企業は病気と一緒、急性症状と慢性症状がある」と言う。「急性症状」には経費削減と借金返済で対処した。過剰な原材料の在庫を減らすため、たとえ低価格でも受注し、工場を稼働させて返済原資を作ることに、文字通り、走り回った。

「慢性症状」にはどのような治療をするのか。立﨑社長は「会社の価値を見極め、高めること」と力を込める。自社を外から見つめた経験もあり、植物から健康に有益な成分を抽出する技術力の高さには確信を持っていた。博士号を持つ社員を採用するなど研究開発部門を強化こそすれ、削減・縮小はしなかった。もう一つは「人を育てること」に力を入れた。「人財育成と言っても特別なプログラムはできない。シンプルに新入社員を毎年採用し続けるということ。私が社長になったばかりの頃は辞める人も結構いた。でも毎年新人が入ってくると、ポジティブな空気感に変わってきて『社長と一緒に頑張ろう』という雰囲気になっていった。自身でも不思議だった」と当時を振り返る。こうして、在庫・設備過多のハード企業から脱却し、人財や研究開発を重視するソフト企業への転換を遂げていった。

機能性表示食品制度が追い風に、蓄積した論文で大手企業の製品開発をサポート

植物から抽出したエキスを濃縮する工程をチェックする常磐植物化学研究所の社員

2015年、「機能性表示食品」制度がスタートした。企業が科学的な根拠を消費者庁に届け出て、書類に不備がなければ「睡眠の質の向上に役立つ」などの機能を食品に表示できるようになった。ただ、当時、科学的な根拠を示すノウハウを持つメーカーは限られていた。

この時、常磐植物化学研究所が蓄積してきた、植物抽出成分の効果を科学的に確かめた論文が大きく生きることになる。同社の原料を使った食品を作れば、既にある論文を「科学的な根拠」として提出できるからだ。常磐植物化学研究所は自社で開発した素材で機能性表示食品の届出をしつつ、大手企業の製品開発に協力することで活路を開き、2023年3月期の売上高は約49億円と過去最高を記録した。

10年で経営再建、「やるべきことはESG」と決意

2018年、機能性表示食品の追い風もあり、長く続いた経営再建に一定のめどをつけることができた。立﨑社長は「これから好きなことを何でもやろう、とは思わなかった。生かしてもらったんだから、まず、やるべきことをやろうと思った」と振り返る。

「やるべきこと」と考えたのが「環境」「社会」「企業統治」を重視するESG経営だ。「環境」面では、工場のボイラーを最新式に交換し、屋根には太陽光パネルを載せた。また、カーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)の導入などによって、工場からの二酸化炭素排出量を実質ゼロ化した。

「社会とのつながり」の面では、地域の学校で植物の実験教室を2009年より開催。また、佐倉市の本社工場に隣接したハーブ園を無料開放しているほか、健康的な食事が楽しめる「sakuraヘルシーテラス」、キッズラクロスやフットサルなどができる「SAKURAスポーツパーク」も隣接して設けている。

社内には「健康経営サプリ」ボックスがあり、睡眠の質を向上させる「ラフマ」とストレスを緩和する「GABA(ギャバ)」を配合したサプリメントなどを手軽に摂取できる

また、「企業統治」では、全従業員が株主総会を動画で視聴できるほか、前年度の実績を総括して会社の状況を全社員が共有する「全社総会」も毎年開いている。健康経営や地域・社会のウェルビーイングを推進する「ウェルビーイング部」も設置している。

立﨑社長は「会社の業績が良いからESG経営ができるのだろう、と言われることもありますが、それは違う。できることは経営再建中からやってきました。いつか会社の価値になると考えたからです」という。「これからの企業は、売り上げや利益以外に『非財務的な目標』を持つことが大事。わが社の目標は、人・社会・地球環境から応援され、生かされること。そのために、地域や環境に貢献し続けることです」。苦しかった経営再建の中で、自社の価値を見つめ続けた経営者の変わらぬ決意だ。

子どもたちの体験学習や市民の憩いの場になっている「佐倉ハーブ園」

【企業情報】▽公式サイト=https://www.tokiwaph.co.jp/▽社長=立﨑仁▽社員数=120人▽創業=1949年