廃炉の難関「燃料デブリ取り出し」に挑む。福島で技術開発が加速
東京電力福島第一原子力発電所では、30~40年が必要とされる廃炉に向けた作業が、日々、続いている。2023年度後半を目途に、最難関の一つである燃料デブリの取り出しが初めて2号機で試験的に実施される予定になっている。安全を最優先にしながら、少しずつではあるが、確実に前進している。
世界でも前例のない廃炉を実現するには、これまでない技術が求められる。福島では、東電や国、地元の自治体、経済界などが連携を深めている。
1号機内部が徐々に明らかに。デブリ取り出し計画作成の環境づくり
東電福島第一原発1号機。原子炉圧力容器を覆う原子炉格納容器内は放射線量が非常に高く、人が入るのは難しいが、その様子が徐々に明らかになってきている。
圧力容器を支えている円筒形の土台「ペデスタル」の内側は、広範囲でコンクリートが失われ、鉄筋がむき出しになっていた。床面には、1m未満の堆積物が存在し、上部の構造物が落下していた。カメラを搭載した水中ロボットを投入して行われた今年3月の調査で得た情報である。
燃料デブリの多くが圧力容器内にとどまっている2号機と異なり、1号機ではほとんどが原子炉格納容器に溶け落ちている。燃料デブリの取り出しはいっそう難しく、具体的な計画はできていない。
「PCV(=原子炉格納容器)の状況が分からないことには、詳細な計画を作れません。この調査をもとに、より詳細な取り出し方法の検討が可能となり、仕事にとてもやりがいを感じています」
こう話すのが、調査に携わった東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニーの中島悟さんである。
地元・双葉町出身。「‘被害者’と‘加害者’の双方が分かる立場に」と東電に入社
中島さんは、福島第一原発のある双葉町で生まれ育った。高校2年生のときに、東日本大震災と原発事故を経験。双葉町は全町避難となり、いわき市に移って、高校に通い続けた。震災については気持ちの整理ができないままだったが、理科系の科目が得意で、将来の何かに役立つだろうとロボットを学ぶことを決め、大学進学を機に上京した。
大学4年生の頃に将来を真剣に考えたとき、思い浮かんだのが地元の現状だった。「東電にとって、廃炉は当然果たさなくてはいけない義務ですが、一方で、東電にすべてを任せるのは、それはそれでいいのかと疑問をもったのです」と振り返る。
中島さんの周囲にも「加害者の中に入るのか」と懸念を示す人がいたという。しかし、中島さんは「‘加害者’の気持ちも‘被害者’の気持ちも分かる立場だからこそできることがある」と考え、大学院を経て、2018年に技術者として東電に入社した。
以来、福島第一原発で一貫して廃炉作業に従事している。原子炉格納容器内にロボットを入れるにしても、安全性を保ちながら、どのような動きにするのか、進入経路はどうするか、必要な素材は何か…。考慮すべき要素は尽きることがない。東電の同僚や、ともに廃炉作業にあたる協力企業の関係者と議論したり、試験を重ねたりしている。
廃炉に地元企業が続々参入。国や県は大手との協業後押し
中島さんは1号機と3号機の原子炉格納容器の内部調査とともに、原子炉建屋内の高線量エリアでの作業の改善を手掛けている。放射線量の測定などの調査業務では、ロボットを活用する余地が大きいとみているが、研究開発では、地元企業に協力を仰ぐケースが少なくないという。中島さんは「ロボットは様々な技術を統合させて成り立つので、多くの方が技術を持ち寄るべきなのです」と語る。
大手企業中心だった廃炉の現場でも、地元企業の活躍が目立つようになっている。例えば、2020年に完了した1号機と2号機が共用で使っていた高さ約120mの排気筒の上部解体工事は、独自ロボットを開発した福島県広野町の建設会社「エイブル」が担当した。
東電にとっても地元企業は大きな力になる。公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」、公益社団法人「福島相双復興推進機構」とともに、廃炉関連ビジネスへの参入を希望する地元企業に対し、東電のほか、廃炉作業を担う大手建設会社や機械メーカーなどをマッチングさせる事業を展開している。契約に至った件数は、2022年度は過去最高の382件となり、今年10月末まででは累計836件に達している。
また、国と福島県は「地域復興実用化開発等促進事業」で、廃炉に加えて、ロボット・ドローン、エネルギー、環境などの重点分野に関し、福島県浜通り地域で実用化開発をする企業に対して、最大7億円を補助している。地元企業だけでなく、地元企業と連携する企業も対象にすることで、両者の協業を後押ししている。
廃炉に関わる人が増えることは、廃炉が技術的に円滑に進みやすくなるほか、福島県の経済活性化にもつながることも期待されている。ただ、中島さんは、それ以上の価値があると考えるのだという。「廃炉に少しでも関わることで、福島への偏見がなくなります。疑わしい情報を聞いても、鵜呑みにしなくなり、一緒に福島の将来について考える機会が増えていくと思うのです」
【関連情報】
※本特集はこれで終わりです。次回は「必然のDX」を特集します。