【広島発】10年で売上高4倍に。部品メーカーを変革した3代目社長のすご腕
広島県府中市 真辺工業
自動車業界は電動化・電子化が急速に進んでいる。この100年に1度とも言われる大変革の動きをいち早く捉え、電動関連の需要を取り込もうと、積極的に事業の転換・拡大を進めているのが広島県府中市に本社を置く真辺工業だ。
創業から約70年間、自動車のエンジン関連部品の製造をメインに信頼を築いてきた。コロナ禍にあっては、本業とは全く別の分野で、アイデア商品を開発し、多くのメディアに注目されたりもした。
江戸幕府の直轄天領地として栄えた歴史と文化の街で、時代の潮流を読み解き、前進を続けるサプライヤー企業の原動力とは……。
縫製が性に合わず。祖母の内職がきっかけで創業。
広島県府中市は県の南東部に位置し、律令時代に備後国の国府が置かれたことが、その名前の起源となっている。かつて石見銀山から銀を運んだ石州街道が市内を縦断し、宿場町として栄えた地域では、趣のある街並みが今も残されている。
府中市はものづくりの街でもある。「府中家具」の生産地として、木製品関連の企業が古くから栄え、現在は各種の工業製品づくりに欠かすことのできない金属・機械部品の関連の企業が数多く集積している。
真辺工業は自動車関連部品をはじめ、自転車、カメラなど精密部品の製造を手がけている。
「真辺工業は祖母の内職がきっかけで創業されました」――。真邉崇正社長(41)が社の歴史について教えてくれた。創業当時、この地域では多くの女性が備後がすりの縫製の内職をしていたという。ところが、真邉社長の祖母は縫製の仕事が性に合わず、菱備製作所(現リョービ)で、家電製品の仕上げ磨きをする仕事を始めた。
そうこうするうちに、祖母は自ら従業員を集めて、菱備製作所から仕上げ磨きの仕事を請け負うようになった。それが真辺工業の始まりだという。
コンサルから3代目社長に就任。積極的に販路開拓
真邉社長は大学院を修了後、3年間コンサルティング会社に勤め、2010年に真辺工業に入社した。当時、売り上げは約3億円、創業以来の取引先であるリョービから請け負う仕事がほぼ100%を占めていた。
専務取締役を経て2020年に3代目社長に就任。現在の売り上げは約13億円となり、この10年間で4倍の規模に拡大した。
「入社以来、リーマン・ショックなど難しい時期も経験しました。1社との取引に依存するのではなく、積極的に販路を開拓してきた結果、リョービさんとの取引規模は維持しつつ、依存度は100%から20%となりました」。真邉社長はこう振り返る。
売り上げが4倍に拡大する中で、これまで経験したことのない課題に直面した。そんな時に生きたのが、コンサルティング会社での経験だという。
「部品の調達とか、新しいビジネスパートナーを見つけるとか、土地勘のないところに行って、ビジネスを回せるように話をまとめるとか、結局、誰も教えてくれないので、自分で何とかするしかない。そんな時、新卒ですぐに担当を任されて、上司にたよらずに一つひとつ課題を乗り越えていった経験が生きていると思います」
電気自動車に勝機。マグネシウム材にもこだわる
自動車業界が電動化の大波に洗われる中、真辺工業も関連部品の製造に力を入れている。2021年には電気自動車(EV)用などのモーターのアルミ製ケースを、高精度・低価格で製造するための新たな手法を開発、特許を取得した。これまで、「マシニングセンター(MC)」と呼ばれる機械と「NC旋盤」の2種類を使わないと作れなかったものが、MCのみで製造可能となり、コストを3割程度削減できるという。
「電気自動車関連は重要になると思っています。大手自動車メーカーのサプライヤーはピラミッド構造ができあがっていって、なかなか参入が難しい。電気自動車関連はまだピラミッドが確立されていない。そこに勝機があると考えています」
EV関連とともに、もう一つ力を入れているのが、マグネシウム材を使った部品開発だ。マグネシウム材はアルミニウムの3分の2という軽さが特徴。真邉社長は「マグネシウム材を活用することで、EVの走行距離を伸ばすことも可能になると思います。自転車などの部品としても有用です。軽量化というポイントはチャンスになりうると考えています」と語る。
「サプライチェーンがないところこそ、私たちが力を発揮して、社会に役立つ仕事ができるところだと思っています」
コロナ禍には美容室向けのフェイスシールド考案。「地域のために役立ちたい」
新しい分野を一歩一歩開拓していこうという精神は、コロナ禍にも発揮された。病院事務の仕事をしている母親からフェイスシールドが不足しているという話を聞いたのをきっかけに、真辺工業でもフェイスシールドの開発・製造を開始。そのうち、美容院を経営する友人の相談を受けて、客が装着したままカットや洗髪ができるよう、首にひもを巻いて固定するフェイスシールドも開発・販売した。
「地域のために何か役に立つことができればと思って作りました。売り上げはそんなに大きなものではありませんが、新聞、テレビなどいろいろなメディアに取り上げてもらいました」
東北に新工場。足元を固め、世界を目指す!
真辺工業は2023年10月、岩手県奥州市で「真辺工業東北工場」の運営を開始した。東北を中心とした東日本に真辺工業の製品を届ける拠点となる。
真邉社長は「今は小さい工場借りて、スタッフも最小限です。今後、3年で売り上げを5億円程度まで伸ばし、自走できる状態にもっていきたい。十分に可能な数字だと思います」と話す。
「府中には確かな技術をもった企業が集まっていて、全国を見てもトップレベルの環境にあると思います。我々としては、これまで通りどこも作っていないものを、いち早く製品化してお客様に提供していきたいと思っています。そして、将来的にはグローバルに展開し、いろんな国の人に我々の製品を使っていただけるような体制を作っていきたい。足元を固めながら、ステップバイステップで進めていきます」
真邉社長は会社の今後について展望したうえで、こう締めくくった。
「一緒に働いている社員にとって、自分たちの作っている製品にプライドを持ってもらえる会社にしたい。『うちの会社はこんな製品を作っている。すごいんだぞ』と社員が思っている会社は、すなわちお客様にとって役立つ会社だと思います」
【企業情報】
▽公式サイト=http://www.manabe-ind.co.jp/▽社長=真邉崇正▽社員数=70人▽創業=1956年▽会社設立=1964年