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【福岡発】国産初の冷凍車を開発したパイオニア。DXで物流「2024年問題」に挑む

福岡県福岡市 福岡運輸

物流業界は「2024年問題」に直面している。働き方改革関連法によって2024年4月以降、トラック運転手らの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで予想される様々な問題のことだ。

2024年を待たずとも、「人手不足」「長時間労働」「低賃金」「労働生産性の低さ」といった課題が物流業界にはのしかかっている。福岡県福岡市に本社を置く福岡運輸はこうした課題を打破するため、積極果敢にDX(デジタルトランスフォーメーション)化に取り組んでいる。

日本で初めて冷凍車を走らせたことでも知られる福岡運輸が描く物流の未来とは……。富永泰輔社長(49)に話を聞いた。

福岡を本拠地に全国90拠点を有する福岡運輸。ターミナルには冷凍車などトラックがずらりと並ぶ

ルーツは徳島の漁業団。戦後、米軍物資の輸送で急成長

「会社の歴史をたどっていくと、そもそものルーツは徳島県の漁業団にさかのぼります」――。九州の空の玄関口、福岡空港を目の前にのぞむ本社の一室で、富永社長は福岡運輸の歴史について、こう切り出した。

そもそも富永家は徳島県で漁業団を率いてきた。その後、東シナ海の豊かな漁場を求め、そろって長崎県に移住し、引き続き漁業を営んできたという。転機となったのは戦後。富永社長の祖母シヅさんの決断で、物流業に進出したのだ。

当時、現在の福岡空港は占領軍に接収され、「板付空港」として米軍が運営していた。その米軍からミルクやパン、アイスクリームといった食品輸送をアウトソーシングしたい旨の要請が日本側にあったのだ。ただ、業務を請け負うためには冷凍輸送が必要となる。一般家庭に冷蔵庫すら普及していない時代、大手運送会社が尻込みする中、福岡運輸は1958年、矢野特殊自動車(本社・福岡県新宮町)と共同で、国産第1号となる冷凍車を開発。事業を飛躍的に拡大させ、「冷凍・冷蔵輸送のパイオニア」として、今にいたる土台を築いた。

この時開発された「国産第一号機械式冷凍車」は、国立科学博物館の重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されている。

福岡運輸が開発した「国産第一号機械式冷凍車」。冷凍・冷蔵輸送のパイオニアとしての土台を築いた

全国に輸送網。「定温輸送」で様々なニーズに対応

現在、福岡運輸グループは全国にターミナルなど約90か所の拠点を設け、北海道から九州・沖縄まで全国をカバーしている。年間の売り上げは500億円超、このうち約8割を冷凍・冷蔵加工品を中心とした食品輸送が占めるという。

「物流業界では冷蔵専門、チルド専門といったように、温度で区切って業務をうけおっている企業がほとんどですが、福岡運輸は全ての温度で『定温輸送』に対応できます。ボリュームについても、1台貸し切りもやるし、2㌧、3㌧など1社で満載にならない量や10ケース、20ケースといった小口にも対応します。全国エリアですべての温度帯、ボリュームに対応できる。幅広いラインナップが特徴であり、強みだと思います」と富永社長は強調する。

「2024年問題はチャンス」と語る富永泰輔社長。物流業界の未来を熱く語る

「荷待ち」時間削減するシステムを開発。事務作業も省力化

物流業界が抱える課題について、富永社長は「人員不足こそが最大の問題です」と話す。

ドライバーの長時間労働を解消する。事務作業の効率化を進める。こうした課題に対処する中で、積極的に取り組んできたのが業務のDX化だ。IT企業が提供する既存のシステムに頼らず、自社開発に取り組んできた。

例えば、ドライバーの長時間労働の要因の一つとなっていた「荷待ち」の時間を削減するため、「バース予約・受付システム」を開発。ドライバーがスマートフォンなどから専用端末に予約を入れると、荷物の受け渡し時間をメールなどで通知し、荷物を積み下ろしするバースに誘導するというものだ。

倉庫に待機車両の長い列ができるという、それまで見慣れた光景は、このシステムの導入で一掃されたという。

事務作業の効率化も進めている。他社と共同開発した「AI受注入力システム」は、顧客からFAXで送られてくる配送依頼書をAIやOCR(光学的文字認識)の技術で読み取り、企業名、日時、商品など必要な情報を、受注入力システムに自動入力する。これまで、人がFAXを読み取り、手作業で打ち込んでいたものが、大幅に省力可能となった。

このほかにも、スマートフォンを活用した動態管理システムを導入し、車両の現在地をリアルタイムで把握。輸送の進捗状況に応じて、効率的な集配ルートをドライバーに指示するといった取り組みも進めている。

8つのチームが業務の課題洗い出し。社外との情報共有も目指す

富永社長はDX化について、「IT企業が提供するものをそのまま導入するのではなく、自分たちが現場で業務を進めていくなかで、課題をクリアして作っていくことが大事だ」という。

現在、社内で8つのチームが各々業務の課題を洗い出し、どのように効率化、DX化できるか検討を続けている。そして、自社開発した物流情報プラットフォーム「TUNAGU(つなぐ)」を介して、社内で混在しているデータの共有・連携を図っている。将来的には顧客や連携会社とも必要なデータを共有していく方針だ。

「情報をオープンにし、顧客や協力会社と必要な情報を共有することで、様々な手間が省けます。外部と共有していくためには、システム担当者だけでなく社内全体でDX化の必要性を理解し、進めていくという雰囲気をつくらないといけない」

富永社長は社全体としての意識改革の重要性について力を込めた。

業界の課題解決へ、今が最大のチャンス

福岡運輸は今後について、どんな展望を持っているのか。

富永社長は「物流事業にとって、ハードの充実は非常に重要です。そこは確実に整備していきたい」という。現在も北海道札幌市と佐賀県鳥栖市に新しいターミナルを整備しているところだという。もう一つ力を入れているのが、積極的、戦略的なM&Aだ。

「『全国エリアで、あらゆる温度帯、ボリュームの輸送に対応する』という、私たちの基本の部分を強化・充実するための2本柱として、ハードの整備とM&Aは推し進めていきたい」という。

2022年5月に開設された大阪茨木配送センター

その上で、「物流業界全体にとって『2024年問題』はチャンスだ」と強調した。

「『2024年問題』を機に、物流業界は大きく変わらざるを得ない。今の世の中、必要な仕事ほど儲からないというような状況があります。しかし、本来は逆で、必要な仕事ほど稼げるべきです。私たちの仕事はまさに『必要な仕事』。現状を変えるきっかけになるのが『2024年問題』だと思っています。業界全体として力を合わせて盛り上げていきたいし、福岡運輸が成長することによって業界を引っ張っていきたい。『2024年問題』は最大のチャンスです」

 

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.fukuokaunyu.co.jp/▽社長=富永泰輔▽社員数=1650人▽創業=1943年▽設立=1956年