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“色鮮やかな畑”取り戻す!農家の娘が「食べチョク」つくって全力応援

ビビッドガーデン代表取締役社長 秋元里奈さん

農林漁業に従事する人は、戦後一貫して右肩下がりに減り続けている。70年前の1953年には約1560万人だったのが現在では200万人余り。全就業者数の3%にすぎない。自分たちが暮らす地域に目を向けても、田んぼや畑はいつの間にか姿を消し、住宅地や工業団地に姿を変えていく。

神奈川県相模原市の農家の娘として生まれ、中学時代に廃業を経験したという秋元里奈さんは、荒れ果てた畑を眺めながら、言いしれぬ寂しさを感じたという。

「なぜみんな農業をやめていくのか」「どうして農家はもうからないのか」。そんな問題意識から「ビビッドガーデン」を創業。生産者のこだわりや努力が正当に評価される世界を目指し、産直通販サイト「食べチョク」を運営している。

美しい田んぼや畑のある風景を残していくにはどうすればいいのか。持続可能な農業、漁業とは――。奮闘する若き起業家に話を聞いた。

「農業は継ぐな」――。大学では金融工学を専攻、IT業界へ

―――実家は元々農家だったそうですね。

実家は神奈川県相模原市で農業を営んでいました。夏はトマト、キュウリ、ピーマン、トウモロコシ。秋にはサツマイモや里芋など年間30種類くらいの野菜を育てていました。たぶんスイカも作っていたと思います。幼い頃は、双子の弟と一緒に、実った野菜をどっちが多く収穫できるか競争したりして、畑は遊び場という感じでした。学校でも「うちは農家だ」というと、「すごいね」という反応でした。実家が農家であることは自慢でしたし、すごく誇りに思っていました。

ただ、母からは安定した職業に就くよう、ずっと言われてきました。「農業はもうからない、絶対に継ぐな」とも。公務員か銀行員がいいということで、大学では金融工学を専攻しました。金融業界に進みたいと大学時代は思っていましたが、就活のときに、たまたま参加した説明会で、初めてディー・エヌ・エー(DeNA)を知りました。創業者の南場智子さんの熱量とか、若手が活躍できる土壌に魅力を感じました。当時、日本銀行や東京証券取引所など「ザ金融」というところも受けていたのですが、悩んだ末にチャレンジできそうなDeNAを選びました。

子ども時代、畑は遊び場だった。収穫された大根の前で双子の弟と

荒廃した実家の畑にショック。今しかないと起業へ

―――そこから、「ビビッドガーデン」の創業に至る経緯を教えてください。

DeNAでは、いろいろな業務に携わらせてもらいましたし、やりがいも感じていました。ただ、本当にやりたいことが見つからなくて、社外にも目を向けようと、色々な業種の方が集まっているコミュニティに参加しました。

そこで、実家が農家だと話すと、「へえ、すごいね」と反応がよかった。「農地を活用して何かイベントなどできないか」と考え始め、久しぶりに実家の畑を見に行きました。私の記憶は10年前で止まっていたので、色とりどりの野菜が実っているきれいな畑だったはずが、実際には荒れ果てていました。そのギャップにショックを受けて、「なんで農業をやめちゃったんだろう」と考え始めたことが、今につながっています。

週末の副業にしようか、転職しようか、色々と迷っている時、異業種コミュニティの代表に相談すると、「それならば、起業すればいいじゃん」と言われました。「やらない理由は、時間がたてばどんどん増えていく」「今やりたいことが明確にあるなら、今がそのやるタイミング」だと。結局、彼と話した1時間で起業を決意し、3か月後にDeNAを退社しました。具体的な事業内容は白紙の状態でしたが、原風景である、美しい畑を取り戻すという意味を込めて、「ビビッドガーデン(色鮮やかな畑)」という社名だけ決めて、2016年11月に会社を設立しました。

―――「食べチョク」のサービスはどのようにして始まったのですか。

最初は、使われていない農地をシェアするプラットフォームをつくろうと思っていました。しかし、農家を回って話を聞いているうちに、結局は農業がもうからないから誰も農家を継がないし、親も継がせたくないという問題が根本にあると気づきました。

特に、こだわって農業をしている人が評価されていない。どんなに、作り方や味にこだわっても、形が一緒であれば同じ値段になってしまう。こだわりをきちんと価格に乗せて売るためにはどうしたらいいだろうと考え始めました。ある時、都内でマルシェに足を運ぶと、そこでは隣のスーパーよりも割高なのにも関わらず、大勢の人が農家から直接野菜を買っている。これを、オンラインで作れたら、農家にも消費者にも喜ばれるのではないかと、思いつきました。

苦しい滑り出し、資金調達にも四苦八苦。コロナ禍の生産者支援で脚光

―――滑り出しはいかがでしたか。

2017年の8月に正式リリースしましたが、当初は全然売れませんでした。野菜を買えるサービスは、世の中にいっぱいある中で、「食べチョク」の優位性を伝え切れていなかったのです。マーケティングにはお金が必要です。2018年2月に4000万円の資金調達をした時は、まだ何の実績もない時期でしたが、「食べチョクTシャツ」を着て行って、「毎日着ています」と言ったら、覚悟が伝わったのか、「君だったらこの事業はうまくいかなくても、何かしら成功しそうだ」と出資を決めていただきました。

1年後に、2億円の調達に動いたときは、すでに覚悟だけでは通用しません。何十件も断られながら、10か月くらいかけて投資家の方々と交渉しました。出資を断られた投資家さんにインタビューさせてもらい、どこをどう直したら良いのか聞き出したりもしました。一度断られた投資家さんに再度持っていって、出資してもらった方もいます。

創業以来、着続けている「食べチョクTシャツ」。そもそも、間違って多く発注してしまい、「広告費だと思って着続けたら元取れるかな」と思ったことが始まりだという。効果は思った以上に大きかった

2020年の3、4月ぐらいから新型コロナウイルスの流行が始まりました。すると、生産者さんから、たくさんのSOSが寄せられました。直接飲食店と取引するなど、自ら販路を拡大しているような、やる気のある農家ほど、いきなり売り上げゼロになるなど大打撃を受けてしまったのです。

そこで、どこよりも早く生産者支援を開始しました。送料500円分を負担するので、ぜひ買ってくださいという支援のプログラムです。これがSNSでも拡散され、開始3か月で、これまでの35倍の流通額を記録しました。結局、コロナ禍の2年で流通額は128倍に伸びました。生産者を支援するという「ビビッドガーデン」のそもそものコンセプトとマッチして、ストレートにサービスの価値がユーザーに伝わったのだと思います。

災害、風評被害対策も迅速に。「何かあった時こそ力に」

―――災害支援や最近ではALPS処理水放出に伴う風評被害対策にも取り組んでいますね。

2019年の豪雨で、「食べチョク」の草創期から登録していただいていた農家さんが、「心が折れちゃいました」と廃業されました。知っている人の廃業を目の当たりにして、大きなショックを受けました。何かあった時こそ、力になれる存在にならなければ。金銭的ダメージはあっても、応援している人間がいるということでメンタル的にサポートできる。この時の体験をきっかけに、思いを強くしました。

今回も、処理水放出の翌日に支援策をリリースしました。風評被害で今までの販路に魚や作物を流せなくなった場合に備えて、「食べチョク」で迅速に売ることができるよう、対象の農家や漁業者に関しては、優先的に審査をし、最短1日で出品できるようにしました。実際に売り上げに影響が出た方には早期入金し、キャッシュ面で安心してもらえるようにもしました。

アンケートも実施しました。生産者さんからは、「早く動いてくれて、少なくとも『食べチョク』は味方でいてくれると思って安心した」とか「応援の声が多く、少し気持ちが楽になった」といった反応が多かったと思います。消費者の方からは「なるべく応援したい」という一方で、「情報開示はしっかりしてほしい」という声がありました。そこは「食べチョク」としても、しっかりと情報発信していきたいと思っています。

とにかく早く――。「社会全体が動き出すきっかけ作りたい」

―――今後の展望は。

短期的には、生産者さんの販売拡大を支援していきたい。既存の「食べチョク」に加えて、法人向けのプランも作りました。ふるさと納税にも力を入れています。生産者さんを介して寄付することで、その地域に愛着を持ってもらえるようになると思っています。

「食べチョク」は現在、産直販売サイトとしてはナンバーワンの規模ですが、一次産業に与える影響ということでは、まだまだ微々たるものです。多くの生産者に使ってもらい、販売以外でも困りごとがあったら「食べチョク」に相談しようと思ってもらえる会社にしたいと思っています。

今も多忙な日程の中、週末などを利用して農家に足を運んでいる

―――行政などに求めるものは。

私たちは、スタートアップだからこそ早く動ける。私たちが、トライアルでいろいろな事を試みて、それが良い事だとなったら、どんどん国や大企業も参考にしてほしいと思います。それによって、生産者支援という私たちの本来の目的が、より大きな形で達成できると思います。とにかく早く動いて、社会全体が動き出すきっかけを作れたらと思っています。

―――起業を目指す後輩にメッセージを。

やりたいことがあるのであれば、経験がないからとか、やらない理由を探すのではなく、挑戦した方がいい。起業なのか副業なのか会社の新規事業なのかその手段はいろいろあると思います。

チャレンジすることで、出会えない人に会え、見えない世界が見えてきます。私は20代にそれを経験できました。当時は、今の自分の姿を想像さえしていませんでした。これから、35歳、40歳になった時、今は想像もしていないところに、自分はいたいと思っています。

 

【プロフィール】
秋元里奈(あきもと・りな)
ビビッドガーデン 代表取締役社長
1991年神奈川県相模原市生まれ。慶応義塾大学理工学部卒業。DeNAに入社し、Webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の企画、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーなどを歴任。2016年にビビッドガーデンを創業し、2017年には農家や漁業者が消費者に直接、農作物や魚介類を販売できる産直通販サイト「食べチョク」をスタートさせる。「食べチョク」は「イノベーションネットアワード2023」「日本スタートアップ大賞2023」で、いずれも農林水産大臣賞を受賞。著書に「365日#Tシャツ起業家『食べチョク』で食を豊かにする農家の娘」(KADOKAWA)https://www.tabechoku.com/