地域で輝く企業

【沖縄発】廃ガラスが生み出す新しい資源!「スーパーソル」で目指す循環型社会とは

沖縄県八重瀬町 トリム

家庭や飲食店から毎日大量に出る瓶などの廃ガラスは、極めて再利用が難しいと言われる。以前は地中に埋めるなどほとんどが廃棄処分されてきた。

この難物を、ゴミではなく新しい資源としてとらえ、建築、土木、園芸などに多目的に利用できる人工軽石「スーパーソル」に生まれ変わらせたのが、沖縄県八重瀬町を拠点にリサイクル事業などを手がける「トリム」だ。SDGs(持続可能な開発目標)の達成が世界的に求められている中、「沖縄発で循環型社会の構築を」と奮闘している。

「スーパーソル」と共に「トリム」が目指す未来とは……。

「トリム」が量産化に成功した人工軽石「スーパーソル」

「多彩なパンを焼き上げるように」多用途の人工軽石が次々に誕生

那覇市の中心部から南へ車で約30分。八重瀬町新城(あらぐすく)の海に臨む高台には青々とサトウキビ畑が広がる。その一角、サトウキビの海に帆を休める船のように「トリム」の本社・工場はたたずんでいる。

「トリム」はノルウェーの造船用語で風力や風向き、波の様子を的確に読み、船体のバランスを取り操舵(そうだ)する技術を意味する。同社が「地球にやさしい土壌還元型資材」であり「資源循環型社会の構築において必要不可欠だ」と自信を示すのが「スーパーソル」だ。

家庭や飲食店などから回収されたガラス瓶を、そのまま「ガラス破砕機」に入れて砕き、8mm以内のガラス粒にする。これを更に「ガラス粉砕機」に掛けて粉々にすると、35ミクロンの小麦粉状のパウダーになる。これを更に細かなふるいに掛けた上で、発泡添加材を加えて、焼き上げると人工軽石「スーパーソル」が出来上がる。

「『スーパーソル』の製造はパン作りに似ています。小麦粉から色々なパンができるように、ガラスを小麦粉のような粉末にすることで、様々に性質の違う『スーパーソル』を製造することができるのです」

全国から訪れる工場見学者には、こうパン作りに例えて解説しているという。

家庭や飲食店などから回収された様々な色のガラス瓶。以前はほとんどが廃棄されていた

土壌改良、屋上緑化、水質浄化…、自在に変わる性質。「防犯対策」にも

「『スーパーソル』技術は昔から研究室の中にはあったものです。うちは、その技術を使って、一貫生産のプラントを開発し、製品として量産できるようにしたのです」「微細な気泡があり、通気性、透水性、保水性に優れています。更に焼き上げる時間、温度などを調整することによって、比重や吸水率など性質を自在に変えることができるのも特徴です」

坪井巖社長(65)は『スーパーソル』の可能性ついて力を込める。

現在、土木の現場では、軽量の盛り土材、かさ上げ材などとして全国的に活躍。排水性、通気性が高く、軽量であることから土壌改良や屋上緑化の資材としても使われている。水の酸化を防ぎ、浄化する性質があることから、海産物の養殖などを行う水槽のろ過材として活用される例もある。

また、地面に敷き詰めると、人が歩いたときにジャリジャリと音がする性質を利用して、防犯用の砂利としても利用されているという。

サンプルを前に「スーパーソル」について語る坪井巖社長

ただ、製品化した当時、反応は鈍いものだった。

「製品開発の段階では国などからバックアップしてもらいました。問題はどうやって売っていくかです。土木の現場には既存の資材があるわけです。これを新しいものに替えるというのは大変なことです。『良いものが必ずしも売れるわけではない』ということを身にしみて経験してきました」(坪井社長)

地道に広げた発信にSDGsが追い風。JIS認定、経産大臣賞も

そこから地道な活動が続いた。サンプルでもいいから使ってほしいと現場を回る。沖縄からでは発信力が弱いとして、東京での展示会にも毎年参加し続けた。そうして、少しずつ仲間を作り、理解を深めてきたという。

「そうしているうちにSDGsが身近に叫ばれるようになり、徐々に軌道に乗ってきたのです」(坪井社長)

2019年には経済産業省の「新市場創造型標準化活用制度」を活用し、「ガラス発泡リサイクル資材」として日本産業規格(JIS)の認定を受け、2021年度の産業標準化事業表彰では沖縄県内企業で初となる経済産業大臣賞を受賞するまでになった。

「スーパーソル」の製造プラント。ガラス瓶を破砕、粉砕した後、発泡添加材を加えて焼き上げる

「日本のリサイクル思想広めたい」。沖縄から全国へ、そして海外へ

今後、「スーパーソル」の普及を通じて、いかにして廃ガラスの資源循環と利活用を進めていくのか。「トリム」が本部となって2016年に全国規模のガラス発泡資材事業協同組合を設立。2023年9月現在、「トリム」を含め15道府県の16社が参加しており、さらに全国に広げていきたいとしている。

海外展開にも積極的だ。現在、プロモーション用の動画を制作するなど、着々と本格展開の準備を進めている。

「日本では、昔から排せつ物を堆肥(たいひ)として活用したり、着物を仕立て直して使い続けたりと、リサイクルが当たり前に実践されていました。この分野では他国に先んじており、現在でも10年15年は他国の先を進んでいると思います」

沖縄から全国、そして海外へ。

坪井社長は、「『スーパーソル』については、水を浄化する性質など、まだまだあまり知られていません。『スーパーソル』を用いた貯水槽を造ることで、災害時の避難場所に安心して使える水が常備されているという状況を作ることもできます。こうしたことも知ってもらって、是非活用してほしい」と話す。

そして、「とにかく地道に継続的に発信を続けて行きます」と強調した。

沖縄県八重瀬町にある「トリム」の工場。全国から見学者が訪れる

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.trims.co.jp/▽社長=坪井巖▽社員数=29人▽創業=1974年▽会社設立=1979年