【沖縄発】自然、文化まるごと体感して!観光を通し“南の都”の思いを世界へ
沖縄県那覇市 南都
コロナ禍で大きな打撃を受けた観光産業が復活の兆しを見せている。観光統計(速報値)によると2023年4~6月期の日本人国内旅行消費額は前年同期比27.7%増、訪日外国人もコロナ前の8割にまで回復した。
南国の豊かな自然と文化で国内外から多くの観光客を引きつけてきた沖縄も例外ではない。米国統治下での創業にこだわり、スタートした「南都」は、沖縄の自然と文化を観光資源として存分に活用し、沖縄観光を牽引してきた。
ポストコロナの時代、観光のあり方にも変化の兆しが見えている。果たして、沖縄観光のパイオニア企業はどんなビジョンを描いているのだろうか。
本土復帰直前、観光鍾乳洞オープン。「悲劇のイメージ払拭したい」
「私たちが運営している観光施設は、自分たちが作りあげたというよりは、そこにある自然と文化に光を当て、貴重な自然、独特な文化をそのままお客さんに見てもらうというものです。国内では極めて珍しい会社だと思います」
大城宗直社長(48)は、自社と自社が手がける観光施設について、こう表現した。
「南都」は現在、沖縄の自然、文化をテーマにした県内最大級のテーマパーク「おきなわワールド」(南城市)や「ガンガラーの谷」(同)、「大石林山」(国頭村)、「石垣島鍾乳洞」(石垣市)、「石垣島サンセットビーチ」(同)などの観光施設を運営しているほか、クラフトビールや泡盛など酒類を中心とした物販など、沖縄を全国に発信する事業を幅広く手がけている。
沖縄が米国統治下だった1971年、大城社長の父、故宗憲氏が創業。翌1972年4月28日に民間企業で沖縄初となる有料観光施設「玉泉洞」をオープンさせ、本格的に観光事業に乗り出していく。米国統治下での創業に、宗憲氏ら創業者の強い思いが込められているという。
玉泉洞の開業は戦後、宗憲氏が沖縄戦戦没者の遺骨収集活動に参加したことがきっかけだった。県内各地の鍾乳洞(ガマ)を巡るなかで、鍾乳洞の魅力に気づき、愛媛大学・学術探検部によって調査が実施されていた玉泉洞に足を踏み入れた途端、その美しさの虜(とりこ)になったという。
「沖縄本島南部は激戦地でもあった。その悲劇のイメージを払拭(ふっしょく)し、美しい鍾乳洞をたくさんの方に見てもらいたい」と、観光鍾乳洞として開発したのが玉泉洞だった。
あと2週間と少し、5月15日には本土復帰を果たすという、そんなタイミングでのスタート。復帰すれば、通貨も変わり、様々な手続き的な作業も必要になる。それでもこの時期を選んだのは、「『復帰前に沖縄県民の力で、オープンさせる』という創業メンバーの強いこだわりがあったから」(大城社長)だという。
遺跡発掘現場も見学スポットに。「観光と保護」両輪で社会貢献へ
「南都」運営する施設内には、貴重な自然にとどまらず、沖縄特有の信仰の場や学術的にも貴重な遺跡が残されている。その地を守り、価値を伝え続けていくことが「南都」の基本姿勢だ。
鍾乳洞が崩壊してできた谷の中に豊かな森が広がる「ガンガラーの谷」では、2007年より継続的に発掘調査が行われ、古代人の人骨や約2万3000年前の世界最古の釣り針など、貴重な発見が続いている。発掘調査は通常、一般公開されないが、「ガンガラーの谷」では、タイミングが合えばガイドツアーで実際に調査している様子を見ることができる。
大城社長は「観光施設としては極めてユニークだと思います。この場所の価値を伝え続けていくことが『南都』の使命です」と強調する。
老舗泡盛酒造を事業継承。リーディングカンパニーの責任担う
沖縄の観光産業は2001年9月11日の米同時テロや2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)などで、大きな痛手を被ってきた。ただ、2020年からのコロナ禍は、これまでの想像を絶するものだったという。
運営する観光施設が一時閉鎖を余儀なくされる中で、「一番大変だったのは従業員のモチベーションやスキルをどう保っていくかです。国や自治体からの支援について複雑な思いを抱いたり、問題意識を感じたりもしました」
そんな苦しい時期でも、「神泉」「琉刻」などの銘柄で知られる泡盛製造の老舗「上原酒造」を事業承継するなど、地域のリーディングカンパニーとしての役割を果たしてきた。
「我々自身も酒造りを続けている。上原酒造とは長らくお付き合いがありました。泡盛業界も厳しい環境にあるなか、これまでの歴史が失われてしまうことは、あまりに残念だと感じました。泡盛には可能性を感じているし、挑戦する価値はあると思います」
酒類の製造・販売には力を入れている。「南都酒造所」では、ハブ酒をはじめ、レモンサワーなどのリキュール、クラフトビールを製造・販売。なかでもクラフトビールは国内外の品評会で数々の受賞歴がある。
事業承継した「上原酒造」の銘柄も含め、酒類の製造・販売にも力を入れている。
アジアのリゾート地との激しい競争。ナイトマーケット強化で魅力高める
国内外で観光客が動き始めた今、「南都」はどんな展望を持っているのか。
「自然保護と観光の関係は、以前は保護一辺倒で何一つ手を付けてはいけないというような厳しいものでした。しかし、今は世界の潮流に合わせて自然を保護しながら観光資源としても活用していく方向に向かっています。その点については、私たちは先駆的に取り組んできたと自負しています」
ただ、アジアの他のリゾート地も魅力を高める努力を続けており、競争はこれまで以上に激しさを増す。
「世界の観光地には夜市やナイトツアーで人気を集めているところも多い。夜の時間帯の観光をどのように強化していくかは、一つ大きな課題だと思います」と大城社長は指摘。ナイトマーケットの構築にも乗り出している。
「沖縄はよく日本の『南の玄関』だと言われますが、玄関はただの通り過ぎるだけの場所です。『南都』という社名には沖縄が国際的な視点からも日本の『南の都』になるようにという強い願いが込められています」
「南都」は今、改めて社名に込められた思いを追求している。
【企業情報】
▽公式サイト=https://www.nantocorp.com/▽社長=大城宗直▽社員数=247人▽創業=1971年