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アフリカビジネスにハマり専門コンサル起業。「不確実性を乗りこなす」が成功の秘策

アフリカビジネスパートナーズ合同会社 代表パートナー 梅本優香里さん

アフリカビジネスを拓く」。アフリカビジネスパートナーズ合同会社代表パートナー梅本優香里さんインタビュー

「貧困」「紛争」のイメージも色濃いアフリカだが、近年は「最後のフロンティア」としてビジネスにも注目も集まる。

「アフリカビジネスパートナーズ合同会社」の代表パートナー・梅本優香里さんは、日本で唯一というアフリカに特化したコンサルティングファームを経営する。

コンサルタントとして都内でキャリアを積んだ後、あるきっかけから大学院へ進学。修了して数ヶ月後、2012年に起業した。アフリカ進出を目指す日本企業やすでにアフリカで事業展開している企業を対象に、アドバイスや事業支援を行っている。

アフリカ大陸の40か国が領域で、自ら各国を飛び回る。1年の大半はアフリカを拠点としているそうだ。梅本さんにケニア・ナイロビから、アフリカの魅力や「ゼロからビジネスを作る」面白さを語っていただいた。

「経済発展とはなにかを知りたい」と大学院へ。アフリカビジネスパートナーズ創業

―――なぜ、アフリカに興味をもったのでしょうか。

10年以上前、友人と食事をしていた時の会話がきっかけです。「アフリカがなかなか経済発展しないのは、なぜだろう」とふと話題に上ったのです。その会話で「そもそも、国の経済はどう発展していくのか」に興味が湧いて、調べるようになりました。

当時は、都内でコンサルティング会社の一員として働いていました。企業を相手に、海外進出や新規事業に助言をするのが仕事です。長く続けていると、相談を受けても「この事業をするなら、関係先はここで、こういう選択肢がある」などと予測できる仕事ばかりになってしまっていました。日本の経済が成熟している証しだと思います。

日本が経済成長し大きく変わっていく時代を自分は経験していません。アフリカに興味をもったことで、「経済とはどうやって成長するのか」を知りたくなり、2010年に大学院に進みました。

そして、論文を書くため、初めてアフリカに足を踏み入れたのです。

―――初めてのアフリカはどんな印象でしたか。

何もかもが新鮮でした。8か国ほど回ったのですが、コンサルタントの視点で見ると、知りたいことだらけ。商習慣はどうなっているのか、マージンはどうなっているのか、サプライチェーンはどうなっているのか。流通の現場のプレイヤーは企業だけでなく、個人もたくさんいて、とても複雑です。

しかしよく見ると、事情にあわせて実に合理的に取引が行われています。そういった、いままで知らなかった取引形態、事業環境を見て、その背景を知っていくのがとても楽しかった。日本では、流通や取引条件、競争環境はほぼ固定化されています。それが当たり前だと思っていたのですが、アフリカの場合だと何も「固まっていない」のです。知識としてしか知らなかった経済成長を、自分の目で見られる場所でした。

アフリカビジネス研究のため、アフリカ各地にある小さな雑貨店「パパママショップ」を調査して回る梅本優香里さん(2013年、コンゴ民主共和国で)

アフリカ各地にある小さな雑貨店「パパママショップ」を調査して回る梅本優香里さん(2013年、コンゴ民主共和国で)

アフリカで仕事をすれば、決まったプレイヤーの中で小さな差分をどう生み出すかという提案ではなく、ゼロからダイナミックに事業を組み立てるような提案ができるのではと感じました。仕組みができあがっているが成長機会が見つけづらい日本と、成長余地があるけど仕組みが整っていないアフリカは、互いに補完しあえて相性が良いのではないかという考えもありました。

「アフリカ以外の仕事は受けない」で苦境。横浜でのTICADが転機に

―――そして、実際に創業したのですね。

大学院を修了して間もない2012年に、現在の「アフリカビジネスパートナーズ」を創業しました。

事業内容は、アフリカで事業を行いたい日本企業への支援です。調査や戦略立案、事業の立ち上げやパートナーの紹介、営業の改善などのサポートを行っています。創業した10年前はまだ日本においてアフリカビジネスの認知度が低かったので、1年目は依頼が全然来ず、「来月の家賃は払えないかも…」という状況でした。

それでも1年目から、「アフリカ以外の仕事は受けない」と決めていました。他の仕事も受けてしまったら、何年経ってもアフリカのエキスパートにはなれません。

―――軌道に乗ったのはいつからなのでしょうか。

2年目で潮目が変わりました。2013年に横浜で「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」が開かれたのです。アフリカの開発をテーマに議論する大きな国際会議で、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催しています。

そこでアフリカビジネスへの注目が一気に集まりました。会場に相談ブースを設けてアフリカビジネスの相談にのっていたのですが、相談を待つ日本企業の列が途切れず、一度も昼食を取れませんでした。トイレに行くのにも苦労したくらいで、これほどの数の企業がアフリカに関心をもっているのかと感銘を受けました。

アフリカビジネスパートナーズは2014年、エチオピア商工会議所と日本企業のエチオピアビジネス推進の協力に関する覚書を結んだ。右が梅本優香里さん

その後は継続的に仕事が入り、2014年にケニアに、その後南アフリカに現地法人を設立しました。そのほかにも、エチオピア、ナイジェリア、コートジボワール、コンゴ民主共和国など、アフリカ大陸の40か国で企業の支援をしています。

▶METI Journalでの過去の特集「アフリカビジネスの新戦略」

毎年10か月はアフリカを飛び回る。現地で感じる各国の豊かな個性

―――生活の拠点はどちらにあるのですか。

現地法人があるケニアと南アフリカに滞在している時間が長いです。あとはプロジェクトに応じてアフリカ内を飛び回っています。アフリカにいるのが1年のうち10か月で、日本にいる時間は残り2か月ほどでしょうか。

アフリカビジネスの研究のため、アフリカビジネスパートナーズ代表の梅本優香里さんのナイジェリアでの調査の様子(2018年)

梅本優香里さんのナイジェリアでの調査の様子(2018年)

アフリカと一括りにされがちですが、国の成り立ちや経てきた歴史によって、54か国どこも違いがあります。やはり現地に行って、人と話さないと分からないことがいっぱいあるのです。現地に行けばすべてわかるわけではないですが、少なくとも巷で語られている「アフリカ」や机上の思い込みの「アフリカ」に頼っていては、ビジネスは成功しません。

アフリカでは日本の中古車が人気です。新車より中古車が売れるのは価格が安いからですが、人々に聞くと「新車と中古車なら中古車がいい。誰かが乗っていたということは、ちゃんと動くことが保証されているということだから」と言ったりします。買ったものが使えないということはよくあり、その不確実性を減じるための知恵なのです。こういったことは聞いてみないとわからないし、なぜそういう発言になるのかという背景まで理解する必要があります。

創業して11年目となりましたが、アフリカビジネスではいまだに「そうだったのか」という発見が多く、好奇心がかれることがありません。

アフリカ経済は急成長中。ケニアの首都ナイロビ。急速な経済成長で街中は活気にあふれている

ケニアの首都ナイロビ。急速な経済成長で街中は活気にあふれている

―――日本企業からはどのような依頼がありますか。

依頼元は主に大企業で、半数は新規でアフリカに進出したい企業、残り半数はすでにアフリカに進出しているがうまくいっていない企業です。

アフリカに新しく進出したい企業には、まず「どこの国で誰に対して何のビジネスをするか」という戦略を決めるお手伝いをします。その企業の競争力やサービスの特徴を分析し、現地で調査をします。進出が決まれば、法人登記や人材の採用など、事業を始めるための実務も手伝います。営業のマニュアルを作ったり、私たちが代行して売り込みにいったりすることもあります。

進出済みの企業では、営業がうまくいかないケースが大半です。日本企業は販売代理店には一体となって顧客開拓や販促を行うことを期待しますが、アフリカの商習慣ではそれは代理店の仕事ではない。営業の方法も違います。お互いの「やり方」にすれ違いがあり、コミュニケーションもうまくいっていないケースが目立ちます。

アフリカ経済は日本でも地位を高めている。日本で販売されているエチオピアで縫製された衣料。日本とアフリカとの連携は深まっている象徴

日本で販売されているエチオピアで縫製された衣料。日本とアフリカとの連携は深まりつつある

その場合は、代理店へのコミュニケーションを代行したり、トレーニングを実施したり、場合によっては別の代理店を探す、アフリカビジネスパートナーズが組成した営業部隊が顧客開拓を行うといった対策をとります。特に消費財の場合は、口コミや対面の販売が有効です。

求められる「ゼロから切り拓く力」。日本企業は経験を積む大きなチャンス

―――日本企業にとって「アフリカならではの難しさ」はあると感じますか。

「アフリカならでは」というよりも、新しい市場で新しい事業を作る経験値が日本企業にあまりないことが、難しさの原因であると感じています。いまや上場企業は売上の半分以上が海外である企業が大半ですが、中国や東南アジア、欧米に相手国が限定されています。これらの地域と違ってアフリカの場合、現地に日本企業も少なく、ネットワークや歴史的な関係、政府間の関係性が強くないなかで、ゼロから開拓して事業を作らなければなりません。

新しい市場に進出する時は、その国の事業環境や顧客を理解し、考え方や商習慣を適応させていく必要があります。かつ、こちらの考えも相手に理解してもらわなければならない。市場や顧客について何も分からないところから出発し、ゼロから戦略を立てて切り拓いていく力は、会社を継続して成長させるには重要な要素です。

アフリカで事業をすることで、事業をつくり成長させる経験を積み、切り拓いていくスキルをもった人材を社内に増やすことができます。アフリカでの事業という観点のみならず、組織のレベルアップという意味で、アフリカビジネスはチャンスだと思います。

―――アフリカで仕事をしていて、ご自身で変化したことはありますか。

「不確実性に対処できる方法が分かってきた」のは大きいですね。アフリカ進出のリスクとしてよく語られるのは、結局は不確実性です。治安の面や、ビジネス上の慣行で予想していなかったことが起こります。

新型コロナウイルスの感染拡大ではアフリカ経済も大きな影響を受けました。ただ、このような誰も予想していなかった事態が起こることへの耐性は強く、人々は淡々と対応していました。アフリカではふだんから予想外のことが起こるので、「不確実性を乗りこなす」のは日常です。

確実だということは、変化しないということ。変化しないということは、成長しないということでもあります。「その時々にできる対応をしていく」のがアフリカの強さです。変化に対応し自ら変化していくことは、日本企業にとっても必要なことかと考えます。

―――今後の目標を教えてください。

アフリカの事業理解を深め、日本企業にフィードバックするために、コンサルティングのみならずアフリカビジネスパートナーズ自身でアフリカでの事業運営やスタートアップへの投資を行っています。これらの経験を、日本企業へのより的確なアドバイスや情報提供に繋げたいです。ポジティブ過ぎず、ネガティブ過ぎない、等身大のアフリカビジネスを日本企業に正確に伝えていければと思います。

ケニア・ナイロビからインタビューに応じたアフリカビジネスパートナーズ代表梅本優香里さん。等身大のアフリカビジネスについて積極的に情報を発信している

ケニア・ナイロビからインタビューに応じた梅本優香里さん。等身大のアフリカビジネスについて積極的に情報を発信している

【プロフィール】
梅本 優香里(うめもと・ゆかり)
アフリカビジネスパートナーズ合同会社 代表パートナー
日本でコンサルティングファームに勤務し、日本企業の海外進出、新規事業開発などに携わった後、2012年アフリカビジネスパートナーズを創業。開発学修士。https://abp.co.jp/