地域で輝く企業

【山形発】ふぞろいの果物たち、ジュースに搾り“新しい命”吹き込む

山形県南陽市 山形食品

山形県は全国有数の「フルーツ王国」だ。農林水産省が昨年12月に公表した農業産出額のランキングを見てみると、サクランボ、西洋ナシは全国1位、スイカ3位、ブドウ、リンゴ、スモモ4位、メロン5位、桃6位と人気の果物が軒並み上位に名前を連ねている。

しかし、これらの果物がすべて、そのまま食卓にならぶわけではない。山形食品は創業以来、傷や色むらなどの理由で生食用として出荷できなかった果物を「おいしいジュース」に加工し、新しい命を吹き込んできた。

新鮮で安心・安全な食を求める消費者と真心込めて作物を育てている生産者。双方に寄り添ってきた老舗企業の哲学を探った。

主力オリジナル商品「山形代表」。山形県産果物だけを使用した果汁100%ジュース

西洋ナシの加工工場として出発。オリジナル商品も30品目

「色や形が悪いということで生食用に出せないものは、山形県の場合、収穫量全体の10%から15%くらいだと思います。皮をむけば問題なくたべることが出来るにもかかわらずです。それを搾っておいしいジュースとして商品化するのが私たちの使命です」

髙橋徹社長(63)は、自社の使命についてこう語る。

山形食品は1932年(昭和7)、農業団体の西洋ナシ加工工場として発足、今年で91年目を迎えた。1974年(昭和49)には南陽工場(現本社)で、自社ブランド「サン&リブ」や大手飲料メーカーの受託製造を本格化。現在、オリジナル商品と大手飲料メーカーの受託製造を合わせて年間390万ケースを出荷している。オリジナル商品は、ストレート果汁100%ジュースの「山形代表」やサイダー、ジェラートなど30品目に上る。

社長は代々、全農から迎えてきたが、現在の髙橋社長は営業畑一筋でやってきた初のプロパー社長だ。

自社ブランド商品に囲まれた髙橋徹社長。同社初のプロパー社長だ

会社の使命、ベトナム人バイヤーの「あの一言」で確信

髙橋社長には、自らのジュース作りを通して山形県産の果物をアピールし、農家をサポートすることができると、確信する出来事があった。

10年ほど前、日系の大手チェーンストアで「山形代表」をプロモーションするため、髙橋社長はベトナムを訪れた。ベトナムはリンゴ、和ナシなど一部を除いて日本からの果物輸入を禁じている。

そんな状況の中、現地で引き合わされたベトナム人バイヤーに「山形代表」を飲んでもらうと、バイヤーはその味を評価してくれた上で、こう続けたという。

「このジュースを飲めば、輸入解禁された時には、ぜひとも生で食べてみたいと思うでしょう」

髙橋社長は振り返る。「私も愛媛のジュースメーカーを訪れて、試飲させてもらった際に『これは生で食べてみたいな』と同じことを思いました。『山形代表』を飲んで、山形のラ・フランスや桃を食べてみたいと思ってもらえるなら、これは山形県産果物をアピールし、農家のお手伝いをすることができる。これまで漠然と意識していたことが、具体的に見えた瞬間でした」

生食用に出荷できない果物がジュースの原料となる。見た目は悪いが味は決して劣らない

「2024年問題」きっかけに、新工場建設に踏み切る

山形食品にとって近年で最も大きなトピックといえば、ペットボトルの成形から果汁充填(じゅうてん)まで無菌状態で一貫して行う「アセプティック充填システム」を導入した新工場が、2022年に稼働を開始したことだろう。同タイプの工場は、東北ではもう1か所、大手飲料メーカーのものがあるが、OEM(相手先ブランドによる生産)に対応できる工場は初めてとなる。

新工場建設には、「2024年問題」が大きく関わっている。トラック運転手などの年間時間外労働時間の上限が、2024年1月から大幅に制限されるため、輸送能力の不足が懸念されている問題だ。

大手飲料メーカーはこれまで、東北地方で販売するペットボトル飲料について、大部分を関東など他の地方で製造し、トラックで輸送してきた。

2024年以降はトラック輸送に頼れなくなるのではないか。そんな懸念を抱いた大手飲料メーカーからの後押しもあり、山形食品は新工場建設に踏み切った。髙橋社長は「安心・安全な環境でより大量の製品を製造できます。現在、大手飲料メーカー3社の商品を請け負っており、年間出荷量735万ケースが目標です」と話す。

「ペットアセプティック充填システム」を導入した新工場

もっとも、安心・安全への取り組みは以前から徹底しており、2013年には食品の安全を守るための世界共通の仕組みである「FSSC22000」(食品安全システム認証)を取得している。

「施設うんぬんの前に、製造ラインの中で各担当者が『自分から後ろに不良品は流さない』という意識を徹底しています。必ず不良品は発生しますが、1人ひとりが強く意識することで工場内にとどめることができます。『不良品は絶対に市場に出さない』が我々のモットーです」と髙橋社長は強調する。

山形への貢献「圧倒的な使命」。モンテディオ山形、山形交響楽団とも協力

本業以外でも様々な活動を展開している。プロサッカーチームのモンテディオ山形、山形交響楽団とは「三者協定」を締結。山形食品が県内の中高校生を山形交響楽団の公演に招待したり、山形食品のオリジナルスポーツドリンクの売り上げ1本あたり10円をモンテディオ山形の強化費に充てたり、といった取り組みを展開している。

髙橋社長は会社のこれからをどう展望し、どんな手を打っていくつもりなのか。

一つは、原料となる果物を生産する農地の確保だ。山形県内でも農家の後継者不足は深刻だ。人手が足りず、やむを得ず農地を手放す農家も少なくない。髙橋社長は「農地を手放そうと考えている農家と交渉して、生食に比べて手間のかからない加工用に果物を生産してもらう。そして収穫したものを当社がジュースなどの原料として買い取る方法を検討している」と語る。

農家の後継者不足が深刻となるなか、原料となる県産の果物をいかに確保するかが今後の課題だ

もう一つ目標として掲げるのが、自社ブランドの拡大だ。「新工場では今のところ大手飲料メーカーから受託した商品しか作っていません。自社ブランドをもっともっと作っていきたい。そのためには自社の商品を、どんどんと山形から全国に送りだす営業力を身につけなくてはいけません」

髙橋社長は「山形を元気にしたい。山形に貢献することは圧倒的な私たちの使命です」と強調した。

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.ym-foods.co.jp/▽社長=髙橋徹▽社員数=148人▽創業=1932年▽会社設立=1965年