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【兵庫発】自動ドアで業界標準確立! センシング技術、「次はIoT」攻勢へ大転換

兵庫県神戸市 旭光電機

オフィスビルや銀行、ホテル、あるいは新幹線の車両内通路などで当たり前のように見かける自動ドア。この安全なドア開閉の仕組みは、「電子工作少年」だった一人の技術者、旭光電機を率いる3代目社長の和田貴志氏(61)のアイデアから生まれ、業界のスタンダードになった。

自動ドアから電車や大型船舶の制御盤、生ビールサーバー、人工衛星の撮像装置に至るまで、長年蓄積したセンシング技術(センサーで様々な情報を計測・数値化する技術の総称)を生かして顧客からの困りごとに向き合ってきた旭光電機。社会の動きに「センサー」を巡らせて新製品を開発し、発信し続ける技術力の実像に迫った。

原点は回路キット、「電子の世界で生きていきたい」と入社決める

和田社長の技術者としての原点は、小学5年生の頃に夢中になった電子回路の実験キット「マイキット」だという。木箱に収まった数々の電子部品につながったスプリング式端子をリード線でつないでいくと、ラジオ、アンプ、電子ブザー、電子オルガンなど様々な電子回路が作れるキットで、1970年代に多くの子どもたちの心を魅了した。

「マイキットでいろんな実験をしながら『電子の世界は面白い。自分のやりたいことを実現できる』と感動しました。その時、『この世界で生きていきたい』と強く思いました」

高校卒業後、専門学校で電子工学を専攻。学校から旭光電機を紹介され、「学んだことが生かせそう」と入社を決めた。「人生が夢の通りになったことは幸いでした」と笑顔を見せる。

「電子の世界で生きたい」との子どもの頃からの夢を実現し、旭光電機を率いる和田貴志社長。現在も技術部長を兼ねている

デジタル方式への転換で自動ドアの安全性が飛躍的に向上

旭光電機は、初代・畠田忠彦社長が1947年に「旭光ラジオ商会」として創業。1959年に現在の社名となり、自動ドア用センサーを始め、鉄道や大型船舶用の電子制御機器などをOEM(相手先ブランドによる生産)供給してきた。

和田社長が入社した1981年、旭光電機は、東海道・山陽新幹線の自動ドア用のアナログ式近赤外線反射式センサーで既に高いシェアを得ていた。ただ、この方式は車両内の狭い通路では有効だったが、人の通行を検知する範囲を広く取ることが求められるビルなどの建築物での使用には難があった。

当時、建物用の自動ドアのセンサーは、人の重さで反応する「床踏み式」や近づいてくる人の体温と周囲の温度との差を検知する「熱線検知方式」が一般的だった。しかし、夏の暑い時期には検知機能が作動しない、立ち止まった人を検知できないという欠点があり、衝突事故や挟まれ事故がしばしば起きていた。

「『自動ドアは危ない』というのが当時の人々の認識でした。安全性の面で大きな課題を残したままだったのです」

本社内にある自動ドア用センサーの試験装置。床は10cm四方のマス目に区切られており、検知状況を確認する。スーツケースや扇風機もセンサーへの影響を調べる実験道具だ

入社5年目の1986年、念願の技術部に配属されると、建物用の安全な自動ドア用センサーを実現する、マイコンを使ったデジタル方式による人体検知を考案した。床面に常に当てている近赤外線の量を基準値としてマイコンのメモリーに保存し、検知範囲に人や物が入った際の変化と比較することで、人が動く方向や静止している物体の検出が可能となった。これにより、自動ドアの安全性が飛躍的に向上した。

1989年に発売された、デジタル式近赤外線反射式センサー「パルサーチ」は業界のスタンダードとなった。和田社長は「東海道・山陽新幹線でのシェアは100%、ビル向けのシェアも60%程度です。他社の自動ドア用センサーも同じ方式を取り入れており、オリジナルを考案した我々に一日の長があると感じています」と胸を張る。

親子のような関係はアカン! 顧客探しで悪戦苦闘、産学連携に活路

1994年、日本エヤーブレーキから社名変更したナブコが資本参加することにより、旭光電機は持ち分法適用会社として、生産体制の強化や品質管理システムの導入など、近代化を進めることとなった。

その頃、受注はナブコからの案件がほとんどで、旭光電機の社内に営業マンはおらず、ナブコを訪問して注文伝票を持ち帰るだけだった。だが、2003年にナブコと精密機器メーカーの帝人製機が経営統合し、ナブテスコが誕生すると、これまでの依存体制からの脱却を迫られた。「互いの関係がぬるま湯になり、いつまでも同じ仕事をしていたら技術は伸びない。そんな親子のような関係はアカン」と厳しく指摘され、競争力強化のため、受注の3割を新規顧客から取ってくるよう指示を受けた。

しかし新しい顧客を訪問しても実績や経験がないことから受注できず、受注できないから実績や技術がいつまでも得られないという八方塞がりの状況がしばらく続いた。

活路を見出そうとしたのは、産学連携だった。東京大学から委託を受けた超小型衛星用撮像装置の開発プロジェクトに参加。最終的に宇宙航空研究開発機構(JAXA)との話がまとまり、新たに開発した撮像装置TDI(タイム・ディレイ・インテグレーション)と小型高分解能光学センサーが超低高度衛星技術試験機「つばめ」に搭載された。この撮像装置は、CCD(撮像素子)のラインを一つずつずらしながら多重撮影できる仕組みで、高速で飛ぶ人工衛星から、ぶれずに明るく地上を撮影することを可能にした。

2017年12月23日に打ち上げられた「つばめ」は、世界記録となる167.4 kmの高度保持に成功、ギネス世界記録「地球観測衛星の最低高度」に認定された。「つばめ」から撮影された写真は、米国ボストンそして日本の浜松市の街並みを鮮明に映し出していた。

洗車のホースが折れてひらめいた、ビールサーバーの泡の噴き出し防止技術

宇宙に向けられたセンシングの技術は、居酒屋の景色をも変えていった。飲食店の主人から「サーバー内のビールが残りわずかになると、注ぐときに泡が噴き出してお客さんに迷惑がかかる。解決できないか」と相談を受け、2006年、茨城県守谷市にあるアサヒビール研究所を訪問。自動ドア用センサーで確立したセンサーの技術を生かして、共同開発を進めた。

右下の黒い四角いハコが「ハッピーエンド君」。「スーパードライのシェア拡大に貢献した」とアサヒビール経営陣に感謝された

解決策が手詰まりになっていたある休日、自宅で洗車していると、ホースが折れ曲がって水が出なくなった。それを見て、思わず「これだ」と叫んだ。ホースがねじれたり、折れ曲がったりすると、力が小さくても簡単に水が止まることに気付いた。そこから、ビールの残量がわずかになると、センサーが検知して、チューブが折れ曲がるようにする構造を実現、2009年にビールサーバーの噴き出しを防止する装置「ハッピーエンド君」として発売し、これまでに約13万台出荷された。

人とロボットの接触事故を防ぐことが、工場の人手不足解消につながる

中小企業の一員として、ものづくりの現場の生産性や安全性の向上を目指す工夫は常に忘れない。2017年には、工場などで人と一緒に働くロボットに取り付ける接触回避用のバンド式センサーを開発した。

当時、人手不足の食品工場などで、既存の生産ラインに産業ロボットを組み込む動きが拡大した。安全確保のため、ロボットを柵で囲うことが多かったが、実際には柵の空間を確保できなかったり、囲うことで作業の連携がうまくいかなかったりする問題があり、ロボットのアームの折れ曲がる部分に作業員の指が挟まるといった事故が起きていた。開発したシステムは、ロボットに取り付けたセンサーが近赤外線を照射し、反射状況の変化を捉えて、人の接近を検知する。和田社長は「少子高齢化の中、ロボットの安全性強化で人手不足は緩和できる。その技術を今後も提案したい」と意気込む。

ロボットのアーム部分に取り付けられたいバンド式センサー。手を近づけるとロボットが自動停止する仕組み

住宅、オフィスのIoT化を支援。CO2排出量の算定技術も開発

「IoT元年」と呼ばれた2010年代の後半になると、スマホで家電を操作するといった技術が広まり始める。和田社長は当時、「IoTは測って伝えるということ。センサーからの信号を有線、無線で届ける仕事をずっとやってきた我々にとって大きなチャンス」と意欲を強くした。他方、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大で、鉄道関連やビールサーバーの売り上げが落ち込んでいた。こうした理由から、旭光電機は新規事業のIoTへと一気に舵を切ることを決断した。

2021年から、本格的に工場のIoT化に目を向けた。だが、IoT化に対応した設備に買い替えるほどの余裕はないのが中小の製造業の現実だ。よくあるのは、一部だけIoTデバイスを導入するケース。だが、これでは、従業員が巡回して、不具合があれば駆けつけるという「昭和のような」手間は減らないまま、IoTデバイスの管理の手間が増えるため、現場の人たちから激しく抵抗される。

その様な状況を目の当たりにして、「長く大切に使われてきた設備に『すべて』後付けできて、フィットするIoTデバイスが必要だ」と学んだ。こうした「レトロフィット」の考え方をキーワードに、現場の標準的な出力手段をすべてカバーする無線・有線の通信モジュールを備えた「スマートフィットプロ」「Pico3」、生産ラインのすべての積層表示灯に対応する「シグナルック」を開発した。

住宅や事務所のIoT化へも注力している。2022年には、在室センサー「快適君」とドアや窓用の施錠センサー「LOCK LOOK」の試験販売を始めた。「快適君」は室内の温度、湿度、気圧、二酸化炭素濃度、照度、電流値などが一覧でき、エアコンのON/OFFを遠隔で操作できる。また生活の中で無駄な電力使用に気づいてもらうことで節電、二酸化炭素(CO2)排出量の削減につなげてもらいたいと考えている。2023年からは、企業向けに、産業廃棄物の重量を計測してCO2排出量を算定できるシステムの開発に着手した。排出量の数値算定を手がける業者と連携し、2025年の事業化を目指す。

在室センサー「快適君」(上)が計測したデータはスマホに表示され、電力使用量などの部屋の状態が一目で分かる

創業家から事業承継、DX分野の拡大で売上100億円を目標に成長続ける

和田社長が3代目の社長に就任したのは2023年2月。創業者の畠田忠彦社長が築き上げた会社は、2代目の真一社長(現会長)が2013年に引き継いだが、その次を任せる同族がいなかった。そこで、2004年から技術部長として、研究開発部門を率いてきた実績から、3代目として指名を受け、事業承継することになった。

2代目が毎年40億円を維持してきた売上高は、2023年には50億円を超える見込みで、2027年にはDX事業を中心に、プラス40億円の計画を立てている。和田社長は「さらに数年後には売上高100億円を超える形で会社を発展させる。ものづくりを続け、役に立つことを提供できたら、国内だけでなく世界の多くの人を幸せにできる。そういう思いで成長を続けたい」と、静かに燃える闘志をのぞかせた。

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.kyokko.co.jp/▽社長=和田貴志▽資本金=8500万円▽売上高=47億円(2022年11月)▽社員数=208人▽創業=1947年▽会社設立=1952年