政策特集今、使える中小企業支援策 vol.4

経営者保証いりません!「スタートアップ創出促進保証制度」は起業家・創業者の味方

日本経済の潜在成長力が低下している中で、経済活性化の起爆剤としてスタートアップと呼ばれる創業間もない企業を後押しする政策が動き出しています。2023年3月15日に始まった創業期の資金調達を支援する「スタートアップ創出促進保証制度」です。

中小企業 スタートアップ創出促進保証制度 中小企業庁 経済産業省

「経営者保証」不要で3500万円まで融資 創業予定者と創業5年未満の法人企業が対象

この新制度は、創業を予定している個人や、創業から5年未満の法人企業に対して、事業が失敗した場合に個人が返済義務を負う「経営者保証」を求めないことが特徴です。3500万円を上限に運転資金や事業に必要な設備資金の融資に対して信用保証協会が100%保証する制度です。

「万が一のリスクを回避できるのは安心」「起業のハードルが下がる」――。スタートアップ創出促進保証制度の創設が発表されると SNS上で話題に上り、制度開始に先立って、受付窓口となる信用保証協会や民間銀行に事前相談が相次いで寄せられました。

スタートアップ創出促進保証制度は、中小企業が民間金融機関から事業資金を調達する際に、公的機関である信用保証協会が保証人となることで融資を受けやすくしています。その際の保証料率は、既存の創業者向け保証制度であり、経営者保証の提供が求められるケースが多い創業関連保証の各信用保証協会所定の保証料率に0.2%上乗せされた料率となります。信用保証料は、金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が債務保証をする信用保証制度の利用料です。

スタートアップ創出促進保証制度 概要 資格要件 保証限度額 保証期間 貸付金 保証料率 ガバナンス

個人の財産を失うリスクも 起業をためらう要因に

経営者保証は個人保証とも呼ばれ、会社が倒産して融資の返済ができなくなった場合には、経営者個人が会社に代わって返済することを求められる場合もあり、個人の財産を失うリスクがあります。

経営者保証には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、起業に関心を持つ層の「起業意欲を阻害する」といったマイナス面が指摘されてきました。海外では事業そのものの価値や成長性を審査して融資を行う手法も浸透しています。現在でも日本の民間金融機関・保証協会の新規融資のうち、経営者保証を求めない案件の比率は約30%にとどまっています。

2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義グランドデザイン及び実行計画」では、起業に関心を持つ層へのアンケート調査で、起業に失敗した時のリスクとして「借金や個人保証を抱えること」をあげた人が76.8%を占めた*1ことが示されました。

経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速 中小企業のガバナンス体制の整備・強化

こうした中、経済産業省は、金融庁・財務省とも連携の下、2022年12月に「経営者保証改革プログラム」を策定し、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させる姿勢を示しました。経営者保証を不要とするスタートアップ創出促進保証制度は、その柱の一つです。

スタートアップへの融資は、リスクが高いと判断されるケースが多く、創業時に信用保証付き融資を含め民間金融機関から借り入れを行う際に、47.1%の経営者が個人保証を求められています*2。

*1 *2 出典:スタートアップに関する基礎資料集(内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局)

スタートアップに関する基礎資料集(内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局) 日本政策金融公庫 2019年起業と起業意識に関する調査

中小企業庁ではスタートアップ創出促進保証制度について「創業時において経営者保証が不要で民間金融機関からの資金調達が可能な制度。窓口となっている金融機関と信用保証協会に相談してほしい」と利用を呼びかけています。

このほか、経営者保証改革プログラムでは、金融機関が経営者保証を求める際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させる方針を打ち出しています。金融庁は監督指針の改正を行い、23年4月から金融機関が経営者保証を求める際、その必要性などを企業に詳しく説明して内容を記録し、件数を報告することなどを義務づけました。金融庁は、個人保証や不動産担保に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組み、事業が生み出すキャッシュフローや将来性などを評価して判断するように促しています。

また、スタートアップ創出促進保証制度では、融資を受けた企業は原則として、創業から3年目と5年目のタイミングで専門家によるガバナンス(企業統治)体制の整備に関するチェックを受けることが必要になります。具体的には「経営の透明性確保」、「法人・個人の資産分離」「財務基盤の強化」について中小企業活性化協議会が確認や助言を行います。

3年目という創業期の中間地点と5年目という卒業時にガバナンス体制の整備状況をチェックすることで、事業と個人の生活の線引きが曖昧になっているとの指摘もあった中小企業のガバナンス体制の強化を図り、将来的にプロパー融資(金融機関が信用保証協会などの第三者機関からの保証を利用せずに融資したもの)や他の保証制度においても経営者保証を提供せずに融資が受けられるようになってもらうことがねらいです。

日本の開業率は、米国、イギリス、フランスなど海外先進国と比較して低くなっています。スタートアップによる新たな製品やサービスの創出力などにより、開業数が多い国は高い経済成長が期待できます。中小企業庁は今後もスタートアップを増やす様々な支援策を通じて、中小企業に新たな事業展開や大胆な事業戦略の転換を促すことで、創造的破壊を通じた日本経済全体のイノベーションにつなげる考えです。

【関連情報】

中小企業庁:経営者の個人保証を不要とする創業時の新しい保証制度(スタートアップ創出促進保証)を開始します。