ユニコーンが少ない日本。スタートアップに海外展開のすすめ
日本からも多彩なスタートアップが活躍するようになった。ただ、海外と比べれば、ユニコーン※と呼ばれる企業は少なく、経済をリードする存在にまでは至っていないのが現実である。
身近なサービスを提供するスタートアップを見ると、日本で最も成功したともいえるメルカリの時価総額は約4400億円。これに対し、米国のウーバーテクノロジーズは約770億ドル(約10.7兆円)、Airbnbは約680億ドル(約9.5兆円)。グローバルにどこまで利用者に浸透したかどうかが、この桁外れの規模の違いの大きな要因である。
日本のスタートアップは、人口減少や高齢化もあり、国内市場を主力にしていると、成長の余地が限られる恐れが強い。メガスタートアップを目指していくには、早くから世界で勝負することが求められる。
こうした問題意識から、経済産業省と経団連は4月、「スタートアップの海外展開に向けた官民連携カンファレンス」と題したイベントを開いた。海外市場の攻略に力を入れるスタートアップと、スタートアップとの連携に熱心な大手企業、さらには、行政機関の関係者が一堂に会し、それぞれの戦略や課題を披露するとともに、交流を深めた。
※ユニコーン…評価額が10億ドル(約1400億円)を超え、設立10年未満の非上場企業を指す
エイターリンク…ワイヤレス給電で国内外のルール作りに関与
どれもが勢いを感じさせるスタートアップが10社登壇した。
2020年に設立された米スタンフォード大学発のスタートアップ「エイターリンク」は、スマートフォンでもおなじみのワイヤレス給電で、傑出した技術を持っている。マイクロ波を利用し、離れたまま最大17m先の給電を可能にするもので、特許を取得済みである。
岩佐凌代表取締役CEOは「ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を実現するというミッションを掲げている」と力を込めた。
ファクトリーオートメーション(FA、生産工程の自動化)の分野では、ワイヤレス給電により、断線による生産ラインの停止を回避できるようになるとの期待が大きい。ロボットの手の部分の先端に取り付けるセンサーなどは、特に断線しやすい箇所だという。
エイターリンクは大手企業と研究開発を続けてきた。岩佐氏は「本年度から量産品を市場投入していく」と述べた。
このほか、空調や照明などビル管理での応用や、心臓ペースメーカーのような埋め込み型医療機器などでの実用化を目標にしている。
エイターリンクが事業拡大で重視しているのが、ルール作りへの関与である。
実は起業した時点では、国内の規制が厳しく、実用化できない技術だった。しかし、電波を所管する総務省と交渉を重ね、省令の改正を実現した。現在は、世界各地で必要な認証の取得を進め、日本を含め30か国・地域で製品を展開する予定にしている。
グローバル市場を狙っていくうえでは、国際標準を握ることが戦略の要となる。岩佐氏は、ワイヤレス給電に関する国際学会に参加するなどして、有識者らとの関係構築に尽力していることを明らかにした。
HOMMA Group…スマートホームを米国市場から世界に展開
集中的に支援するべき有望なスタートアップとして経済産業省が認定する「J-Startup」に、この春新たに加わった企業の中から、5社がスピーチに臨んだ。
スマートハウスを手がける「HOMMA Group」は2016年に米シリコンバレーで設立された。本間毅Founder & CEOは、「テスラやiPhoneのようなイノベーションが住宅には起きていない。これをわれわれは作ろうとしている」と力説した。
HOMMAの住宅は実にユニークである。外観はとてもスタイリッシュ。住宅のあちらこちらに、IoTデバイスをあらかじめ備え付けていて、たとえば、人のいる場所、あるいは時間帯や天気によって、照明が自動的に調整される。専用アプリからドアロック、照明、空調は簡単にコントロールできる。機器のソフトウェアは、電気自動車などと同じように常に最新状態に更新されるので、質の高い空間を提供し続けることができる。
米国ではすでに販売を始めている。今後はノウハウを不動産デベロッパーに提供することで、事業の成長スピードを加速させることを計画している。
米国の住宅市場はかつて中古住宅の流通が大半を占めていたが、近年は新築の割合が上昇している。新規住宅着工数は日本より多く、ビジネスチャンスは十分にある。本間氏は「米国で誕生したわれわれはボーンクローバル※であり、米国から日本を含む世界へと展開していく」と宣言した。
ボーングローバル…英語でborn global。創業初期から世界市場を対象に事業展開をすること
東京海上ホールディングス…スタートアップに世界中のネットワークを提供
技術だけでなく、経済や社会も大きな変革期を迎えている現在、大企業の間では、自社にないアイデアを持つスタートアップとの連携が企業価値向上にとって不可欠との認識は広まっている。経団連から参加した5社はそろって、スタートアップの協業拡大に意欲を示した。
東京海上ホールディングスの生田目雅史常務執行役員が強調したのは、これまで世界各地で培ってきたスタートアップに関する知見や人脈の蓄積である。世界7か所にデジタル戦略を推進する基盤となるラボを設置し、専門スタッフが最新情報を収集。世界有数のベンチャーキャピタルにも出資しているという。
スタートアップとビジネスで実績を重ねてきた。保険金の支払い業務や、他社の商品・サービスに保険商品を組み込むエンベデッド・インシュアランスの開発などで、成果を挙げている。
生田目氏は、「さまざまな領域で情報を集めているので、われわれのネットワークをぜひ活用していただきたい」と呼びかけた。
NEDO…ディープテックの海外実証で補助拡大
政府が経済政策の中心にスタートアップ育成を位置づけたことから、行政機関も関連の施策を相次いで強化している。登壇した5者は、いずれもが海外展開を促すメニューを多く用意していた。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の斎藤保理事長が紹介したのが、社会に与えるインパクトは大きいものの事業化までに長い時間を要するディープテックに挑むスタートアップへの支援事業である。
スタートアップの事業を実用化研究開発の前期・後期、それに量産化実証の3段階に分け、最大計30億円を補助する。特に、海外市場を対象にした製品開発では、規制に関する調査や現地での実験など、費用が膨らみがちだ。このため、実用化の前期・後期については、海外での技術実証を行う場合は、上限額を引き上げて対応するという。
斎藤氏は「長期でスタートアップの成長に伴走できる制度であると自負している」と語った。
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プレゼンテーション終了後に開かれた交流会には、西村康稔経済産業大臣も参加。立場や業種などの違いを乗り越えて、スタートアップの未来について意見を交換した。
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