統計は語る

アフターコロナの中で、どこまで回復したか -旅行・観光-

2020年4月に新型コロナウイルス感染症(以降、新型コロナ)の感染拡大に対する緊急事態宣言が発出されてから3年を経過し、この3年間に8回の感染拡大と縮小を繰り返し、経済活動の変化や国民生活の行動変化が、経済指標に少なからず影響を与えている。この指標が新型コロナ前と比較してどの程度回復したかを確認した。

今回のテーマは、行動制限等の影響を強く受けていると言われる一つの事例として旅行・観光関連をあげる。

鉄道旅客は90%までに回復し、航空旅客は新型コロナ前を15%も超える

第3次産業活動指数から、鉄道旅客運送業と航空旅客運送業について新型コロナの影響がなかった2019年12月からの推移をみると、鉄道旅客輸送業は、2020年5月を底にして“Go Toトラベル”(実施期間:2020年7月22日から12月27日)の実施効果もあり緩やかな上昇傾向を見せ、新型コロナ前の2019年12月と比較して90%程度までに回復している。

一方、航空旅客輸送業は、2021年1月を境に緩やかな回復傾向が続いた後、2022年10月に始まった“全国旅行支援”の効果もあり、足元では新型コロナ前の2019年12月を15%ほど超えるまでに回復している。国内航空旅客運送業は2019年12月の水準を25%超えるまでに回復しているが、国際航空旅客運送業は、回復傾向を続けているものの2019年12月に比べて61%にとどまっている。

インバウンドの影響をみるために国際収支統計の旅行収支をみると、2022年10月から入国制限が緩和され受取(外国人の日本での支出)は急激に増加しているが、支払(日本人の海外での支出)は海外旅行の回復の足どりが重く、国際旅客運送業はコロナ禍からの回復途上にある姿がうかがえる。

家計の交通費への支出は、7割の水準にとどまる。

次に需要側の統計である家計調査から2人以上の世帯の1年間の旅行を含む交通費への支出を確認してみると、2019年73,218円から2022年52,860円と年間の支出額が約3割減少し、72%にとどまっている。

定期券以外の移動手段としての鉄道利用や旅行のための交通費を含む鉄道運賃は、2019年24,418円から2022年16,706円と31.6%減少している。鉄道通勤定期代は、在宅勤務が普及し、内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(2022年7月)」によると、就業者のテレワーク実施率は全国平均で2019年12月の10.3%から2022年6月は30.6%に上昇していることもあり、2019年と比較して2022年は20.4%減少している。有料道路料は、いわゆる高速道路料金が含まれており、その休日割引の一時停止があったため土日祝日の自動車を利用した旅行が控えられたと考えられ、2019年と比較して2022年は30.6%減少している。長距離の移動を目的とした航空運賃は、前述の第3次産業活動指数の航空旅客運送業と似た傾向となっていることが確認できた。

宿泊業と旅行業はコロナ前を上回る水準まで回復

第3次産業活動指数から、宿泊業と旅行業についてコロナの影響がなかった2019年12月からの推移をみると、宿泊業は、2020年5月を底にして“Go Toトラベル”実施効果から回復したが、第3波の感染拡大期(2020年12月から2021年1月)とともに低下し、第3波収束以降は緩やかな上昇傾向を見せて、足下では2019年12月を13%上回る水準まで回復しているが、内訳となるホテルに比べて旅館の回復の足取りが重い傾向にある。

旅行業は、回復が遅れていたが2022年10月に始まった“全国旅行支援”の効果などから2019年12月を2%上回る水準まで回復している。

家計の旅行関連の支出に明暗

需要面の家計の旅行関連への支出を2019年と2022年で比較すると、宿泊料とパック旅行費の回復に大きな違いが見える。

家計調査から2人以上の世帯の1年間の支出をみると、宿泊料は、2019年26,810円から2022年23,667円となり、コロナ前の9割程度の水準まで回復している。一方、パック旅行費は、2019年45,999円から2022年19,714円とコロナ前の4割程度にとどまり、回復が遅れている。特に、外国パック旅行費はコロナ前の1割程度の水準であり、国際収支統計の旅行収支と同様な動きになっている。

まとめ

以上の結果から、出張などのビジネス利用も含めた鉄道とホテルの利用は比較的、早期に回復傾向にあるが、個人の旅行は、パック旅行を利用しないで、鉄道あるいは自動車を移動手段として宿泊してきた姿が想像できる。2023年2月以降、新型コロナ新規感染者数が低い水準で推移していることに加えて、2022年10月開始の全国旅行支援が追い風となり、国内航空旅客輸送業や旅行業の回復を後押ししているとみられる。2023年4月以降も全国旅行支援が継続されるため、今後も回復が継続する可能性がある。海外旅行は、2022年3月以降の円安と燃料高からみても回復の足取りは重いと考えられるが、今後は、5月の大型連休や夏休みの旅行によりどこまで回復していくか、注視していく必要がある。

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