METI解体新書

JETROを通じて、対外経済政策を考える

池園 京佳:経済産業省 通商政策局 総務課 課長補佐。貿易・投資促進の政策の実施機関である独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)に関する業務を担当。

【通商政策局総務課】
経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。
今回は、通商政策局総務課の池園京佳さんに話を聞きました。

対外経済政策とJETRO

――― 池園さんが所属する部署ではどんな政策を行っていますか?

池園:経済産業省の通商政策局は、日本と諸外国との経済交流、日本企業の海外経済活動の円滑化に貢献するために、対外経済政策の企画立案、国際的な枠組み・ルール整備、国際交渉・対話を担っている部署です。
そんな通商政策局では、日本貿易振興機構(JETRO)という独立行政法人を所管しています。私は、通商政策局総務課のJETRO班で、JETROの中長期的なミッション設定、予算、業務実績の評価など、JETROに関する業務を担当しています。

――― 日本貿易振興機構(JETRO)とは、どのような組織なのでしょうか?

池園:JETROは、貿易の振興に関する事業や調査研究を通じて、日本の貿易の拡大と経済協力の促進に貢献することを目的として設置された独立行政法人、つまり貿易促進の政策の実施機関です。世界に70か所を超える海外拠点と、47都道府県全てに国内拠点を持っており、これらの国内外のネットワークを活かして、日本企業の海外展開や海外ビジネス活動、外国企業の日本への誘致などの支援を行っています。また、政府の外交活動への貢献や諸外国政府への働きかけ、政情不安地域を含む世界各地での情報収集や企業支援など、色々な役割を果たしています。

現地企業との商談の様子(2022年10月、メキシコ・レオン)

――― 通商政策局では、JETROに関してどのような役割を担っているのですか?

池園:私たちJETRO班は、JETROを所管する立場として、また、JETROと経済産業省との結節点として、両者のコミュニケーションや業務が円滑に進むよう調整をしたり、JETROが安定的・効果的に業務運営を行えるよう財源を確保したりしています。

JETROは、4年間の「中期目標」に沿って活動しており、ちょうど今年4月から「第六期中期目標」期間がスタートしたところです。この新しい目標は、私たちJETRO班が主導して策定しました。JETROの中長期的なミッションを定めることは、日本を取り巻く経済・社会・国際情勢が変化する中で、今後日本が貿易・投資の促進に向けた政策や企業支援をどのように進めていくのか、JETROがどのような役割を果たしていくべきかといった方向性を決めることであり、とても大事です。

日本が直面する構造的課題、地政学的リスクの高まり

池園:日本国内では人口減少・少子高齢化といった経済社会構造上の課題が深刻化する一方、海外では新興国・途上国を中心に人口増加や経済成長が進んでいます。そのため、日本と海外との貿易・投資を促進し、日本が海外で稼ぐこと、あるいは日本が海外の経済活力や市場を取り込むことにより、経済成長や生産性の向上につなげていく重要性は増していると考えています。

また、新型コロナウイルスの感染拡大やロシア・ウクライナ情勢が世界経済に与えた影響は大きく、エネルギー、食糧価格の高騰や、サプライチェーンの混乱をもたらしています。こうした中、世界的に経済安全保障の重要性が再認識されるとともに、米欧を中心として人権や環境といった基本的価値を重視する動きも強まっています。

JETROの活動や役割も広がってきています。例えば、JETROはコロナ禍で、電子商取引(Eコマース)やオンライン商談など、デジタル技術を活用した新たな手法を導入しました。これにより企業の海外展開への参画のハードルが下がり、新たに海外展開に挑戦する企業が増えるというポジティブな結果も出ています。

更に、「経済安全保障」や「人権」といった分野でも、JETROは、海外ビジネスを行う日本企業が、国内外の法制度に抵触したりサプライチェーン上のリスクにさらされたりすることのないよう、相談対応や情報提供、普及啓発を強化しています。

資本・技術・人材が国内外で循環する社会を目指して

――― JETROの新しい中期目標の内容を教えてください。

池園:第六期中期目標では、資本・技術・人材が国内外で絶え間なく循環するようなイノベーション・エコシステムを形成・強化することを重要な柱に据えました。「資本」、「技術」の観点では、対日直接投資や協業・連携の促進、スタートアップの海外展開支援においてより日本経済・社会へのインパクトの大きな成果を創出すること、「人材」の観点では、高度外国人材が日本企業で活躍するための取組を推進することを目指しています。

また、日本企業の海外展開の支援も引き続き重要です。第六期中期目標では、新たに海外展開や輸出にチャレンジする企業を増やすこと、海外市場で勝てる企業を育成することを目指しています。

このほか、「経済安全保障」、「人権」、「グリーン」などの重要性を増す政策課題への対応の強化や、デジタル技術やデータの活用によるサービスの高度化・効率化などを新たに盛り込んでいます。

――― 中期目標を作る過程で、大変だったことや意識したことはありますか。

池園:一番大変だったのは、政府内の数多くの関係部局やJETRO自身の思いを受け止め、目標に落とし込んでいくことです。JETROのカバーする政策は幅広いため政府内の関係部局は多岐にわたっており、それぞれの部署が「この政策は大事だから、今後JETROにこんな取組をしてほしい」といった思いや期待を持っています。そして、JETROからも、ビジネス支援の現場としての視点や「もっとJETROをこうしていきたい」といった思いがあります。私の役割は、これら全てを束ね、調整をし、中期目標という一つの形にしていく、いわば全体のコーディネーターです。私は、JETROと政府内関係部局との間に立ち、これらの関係部局全てと直接議論をしてきました。「経済産業省として、貿易投資促進に向けた政策をどのように実現していくべきか」、「その中でJETROに求める役割は何か」、そして「この目標設定が、ビジネス支援の最前線に具体的にどのような影響を与えるのか」。常にこれらのバランスを考えながら目標を作り上げていく過程では、困難なことも多々ありましたが、代えがたい経験となりました。

また、中期目標中のKPIの設定にあたって特に意識したのは、定量的な指標(数値目標)だけでなく、質的要素も重点的に目標に位置付けるということです。今後JETROがより高度かつ多様な役割・機能を発揮しやすくなるための、一つの後押しになればと思っています。

――― 最後に、今後の目標を教えてください!

池園:私は、日本をより豊かな国にすること、日本から世界に貢献することに携わりたくて経済産業省に入りました。入省後、貿易・投資に関する政策やJETROに関する業務を担当してきましたが、日本国内の課題や日本を取り巻く世界の不確実性が高まる中で、対外経済政策やJETROの役割はますます重要になっていると感じています。今後も、国内と世界の動きに目を向け、「世界の中で日本がどうあるべきか」、「いかにして日本と世界がともに成長できるのか」ということを自分自身のキャリアの軸にして、貢献していきたいです。

また、企業の方々には是非JETROの活動を知っていただき、今後新たに海外ビジネスにチャレンジされたい場合や、海外ビジネスを進めるにあたり困ったことがある場合には、是非相談していただければと思います。

【関連情報】
日本貿易振興機構(JETRO)
JETRO第六期中期目標