地域で輝く企業

【広島発】経費35%減!中小企業の視察が絶えないDX工場の内側

東洋電装 広島県広島市

東洋電装の可部事業所で主力製品となる制御盤を組み立てている様子

1年あまりで見学者500人超。「DX工場」の狙いを社長に直撃

広島市安佐北区の青々とした山に囲まれた一角に、全国の中小企業からの視察が相次ぐ工場がある。2022年2月の開設以来、すでに500人を超えたという。

機械や設備を動かすための電気部品を組み込んだ制御盤の製造や通信ネットワークの構築などを手掛ける東洋電装の「可部事業所」は、「DX工場」と銘打ち、最先端のデジタル技術が導入されている。土地取得なども含め総費用は約4億円を要したという。

広島市の山々に囲まれた一角にある東洋電装「可部事業所」

一歩中に入ると、扉という扉は、静脈センサーで開錠・施錠。駐車場やお手洗いの利用状況はモニターで一目瞭然となっていた。桑原弘明社長(55)の案内を受けながら、DX工場に込めた狙いについてお話を伺った。

父から継いだ会社のゆるさに衝撃。デジタル化に突き進む

東洋電装は、サラリーマンだった桑原社長の父が1973年に設立した。

桑原社長は高等専門学校を卒業し、三菱電機に就職。19年間エンジニアとして腕を磨いた。父から継いでほしいと言われたことはなかったというが、「もっといろんなことに挑戦したい」と考え、東洋電装に入社。2015年に会社を引き継いだ。

当時は従業員15名ほどのいわゆる零細企業。従業員が良かれと思って会社に自分の冷蔵庫を持ってきたこともあるなど、大企業とは異なるゆるい社内の雰囲気にカルチャーショックを受けたこともあった。「もっと大きくするためには、きちんとした会社にしたいと思っていたのです」と語る。

社長就任以降は、デジタル化をコツコツと進めてきた。「僕が働き始めた頃は、工場にある機械の図面がダンボールに山積みになっていました。図面は技術者にとって資産。それが燃えたらどうするんだと思いました」と振り返る。作業に必要な図案や報告書、請求書などはすべて電子化した。社員間の情報共有やコミュニケーションのためのアプリや、勤怠管理システムなども導入していった。

DXの道のりをまとめた桑原社長のスライド

新工場は天井カメラが動作を解析。仕事分担や備品配置を見直す

事業は拡大し、本社工場が手狭になったことから、桑原社長は制御盤などを生産する新工場の設立に乗り出した。

「どうせ作るなら、DX工場だ!」と考え、もともと縁があった広島工業大学の濱﨑利彦教授に相談。半導体のグローバル企業で働いた経験を持つ濱崎教授は、その部門の第一人者ともいえる存在だ。教授に工場のイメージを伝えると、意気投合。その後、広島工業大学とタッグを組み、仕組みを完成させた。

「大学との共同研究のいいところは、先生が理論をしっかり作ってくださることです。教科書がないまま仕組みを作るのはなかなか大変ですから」と桑原社長

生産効率の改善に向けて、「ロボットでできる」「一般の従業員ができる」「技術者しかできない」という3つに作業を分類することを重視した。そのために、製造工程での動作を徹底的に分析した。絶大な効果を発揮したのが、工場内の天井に設置したカメラだ。従業員それぞれの作業を録画し、製品ごとの作業進捗をチェック。想定していたよりも時間がかっている作業は赤色で表示され、画像解析のソフトを使って課題を検証した。

作業効率を分析するための天井カメラ

人員の配置を最適化したうえで、備品置き場への導線やゴミ箱の場所などの細かな見直しも重ねた。結果として、2か月で35%の経費削減に成功した。今はカメラを6台に増やし、分析の精度を高めているという。

「カメラを設置したことで、黙々と作業する人もいれば、誰かと相談する時間を設けて取り組む人もいるなど、『ひとりひとり、やりやすい形があるんだな』と気がついたのも収穫でした」と桑原社長。

新たに採用した生産管理システムでは、発注情報や設計データなどを1か所で管理する。作業進捗も従業員の誰もが把握できるようになった。技術者はPCですべての情報を閲覧し、図案の変更や課題の記録などはタブレットに直接記入することで、情報の共有がスムーズに行われている。

桑原社長が「職人」と呼ぶ技術者たち

QRコードつき金具が誕生。「カイゼン」チームがデジタル化で活躍

現場での改善・提案を行う「カイゼン」チームも、デジタルに焦点を絞ることで、成果を挙げている。

一般的に会社でプロジェクトを作ると他部門の人に関心がなくなる”タコツボ化“が起きやすい。そうならないよう組織横断的なチームを作った。メンバーは生産管理、設計と製造、製品検査部門から4人を選抜した。

「週1回の報告会があるのですが、いいアイデアが生まれるんです! 経営者が『これをやりたい』と言っても、現場から反対されるというのは結構あることだと思います。それがこういう形で進めると、現場から提案がどんどん出てくるんです」

チームが考案したものの中で特に目を引くのが、「金具QRコード」だ。部品にQRコードを記載することで、それを読み込めば図面上のどのパーツなのかを確認できるというものだ。制御盤の組み立て時間は、約2時間短縮できたという。

「カイゼン」チームが考案した「金具QRコード」で作業効率アップ

DXでものづくりを「カッコいい」にする

現在、桑原社長は、広島県全域の中小製造業のデジタル化を底上げすることに情熱を燃やしている。今年、全国で広島県が「人口流出ナンバー1」になったことも危機感を抱く。県内の他企業にノウハウを提供し、DXを積極的に支援している。

「製造業でのモノづくりって、なんとなく汚くて、古い体制のままのイメージがあると思います。それをデジタル化で払拭したいんです。広島にDXを進める会社が増加して若い世代に『カッコいい』と思ってもらえたら、担い手も残ります。長きにわたり技術を守ってきた職人のためにも、『カッコいい』と言われるような会社を増やしたい。そのサポートもこれからやっていくつもりです」

 

【企業情報】

▽公式サイト=https://t-denso.com/▽社長=桑原弘明▽売上高=16億円▽社員数=123人▽会社設立=1973年