政策特集新社会人必見 経済政策5つのキーワード vol.3

「GX」 カーボンニュートラルに向けた新たな巨大市場

世界共通の課題として、地球の温暖化による気候変動に歯止めをかけるためのカーボンニュートラル(CN)が求められている。温暖化対策は、電力などエネルギーに関わる問題と切り離して考えることはできない。2023年4月15、16日には、日本が議長国を務める「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」が開催された。気候変動とエネルギー問題を解決するカギとなるのが、「GX」、グリーントランスフォーメーションだ。

Q GXとは?
A CNに向けた経済や社会システムの大変革です

GXは、CO2などの温室効果ガスを排出する化石燃料をできるだけ使わず、太陽光や風力などクリーンなエネルギーを活用する経済や社会システムへの変革を意味する。

温室効果ガスが排出されて大気中の濃度が上がり、太陽光の放熱を妨げることで起こるのが地球温暖化だ。温暖化が進むと気候変動が引き起こされ、大雨による洪水などの自然災害が頻発し、氷河が溶けることによる海面上昇などが生態系にも影響を及ぼすことが懸念されている。

2015年に採択された気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」は、産業革命前からの気温上昇幅を1.5度に抑えることを事実上の目標としている。世界各国が脱炭素社会の構築に向けた政策の推進に大きく舵を切っており、日本も2050年にCO2排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を目標に掲げている。

産業革命以降、石炭をエネルギー源とする蒸気機関が工場で利用されるなど工業化の進展に伴い石炭の消費量が急速に増加し、1960年代から石油が主役の時代に移った。しかし、化石燃料の石油や石炭、天然ガスが燃焼時に排出するCO2が環境にもたらす弊害が深刻化している。化石燃料に過度に依存した経済や社会のシステムを変えることが急務となっている。

Q GX推進で重要なことは?
A エネルギーの安定供給とCNを両立し、経済成長につなげることです

2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を契機に天然ガスや石油などの資源価格が高騰し、十分なエネルギー源を確保できなくなるリスクが顕在化した。日本は、石油、天然ガス、石炭などの資源のほぼ全量を海外からの輸入に頼っている。資源調達の海外依存度が高い国ほど自国の経済が不安定になる要素を多く抱えているという現実を突きつけられた。

エネルギーの安定供給体制を維持するためには石油、天然ガス、石炭の海外依存の割合を減らし、多様なエネルギー源を確保する必要がある。こうした施策は化石燃料への依存度合いを減らすことになり、脱炭素社会の実現にもつながる。

現在、太陽光、水力、風力など繰り返し使える資源を利用した再生可能エネルギーによる発電を主力電源とする取り組みが進められている。再生可能エネルギーには、このほか木の廃材などを使うバイオマス発電、火山や温泉などの地熱地帯の蒸気を使ってタービンを回す地熱発電などがある。また発電時にCO2を排出しない原子力発電も「脱炭素社会実現に役立つベースロード(基幹)電源」と位置付けている。GXは、脱炭素とエネルギーの安定供給を同時に実現し、経済成長を促す狙いがある。

一方、世界各国のエネルギー資源の自給率は、アメリカは、2020年に消費するエネルギーを自国で全て賄うことができる自給率100%を達成している。シェールと呼ばれる地中の岩石層に溜まった石油や天然ガスの掘削が技術革新によって可能になったためだ。2013年にはエネルギー輸出国となった米政府は中東産油国への関心が薄れ、中東の政情不安が増しているとの見方もある。日本の2020年のエネルギー自給率は11%と先進国の中でも極めて低く、中東情勢の不安定化に無関心ではいられない。資源調達ルートの多様化や中東産油国などとの良好な関係を維持することが求められている。

Q 日本が2050年のCNの目標を達成するには
A 150兆円のGX投資の実現がカギを握ります

政府は今後10年間で官民合わせて150兆円を超えるGX投資を行う計画だ。

製造業や電力会社などの脱炭素化に向けた技術開発を支援するため、まずは、政府がGX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行し、今後10年間で20兆円規模の資金を調達する。調達した資金は、燃料としての水素・アンモニアの活用、高性能な蓄電池、安全性を抜本的に強化した次世代型の原子力発電などの開発支援に充てられる。

GX債は、企業などに二酸化炭素の排出量に見合った負担を求める「カーボンプライシング(CP)制度」を設けることで将来の償還財源をしっかりと確保する。具体的には2028年度から石油元売り会社など化石燃料を輸入する企業などに対し、化石燃料賦課金を導入し、2033年度から発電事業者に対し、有償でCO2排出枠を割り当てて排出量に応じた負担金を徴収する。

Q GXはどんなビジネスチャンスになる?
A 日本の技術を生かし、環境分野で世界をリードする新産業の創出が期待されます

GXは産業革命以来の化石燃料に由来する経済、社会システムの大転換を目指している。この過程で新技術や市場が生まれ、ビジネスチャンスの広がりが期待される。

日本企業は、水素関連や電池、原発などカーボンニュートラルに役立つ技術で優位性を持っている。特に日本政府は、水素とアンモニアをCNの達成に必要不可欠なエネルギー源と位置付ける。水素とアンモニアは燃焼時にCO2を排出しない脱炭素燃料だ。

既に石炭や天然ガスに混ぜて発電用燃料としての利用が始まっている。将来的に全量を水素、アンモニアに切り替えるための技術開発は、政府のGX戦略の目玉の一つだ。また、水素は、鉄鋼業界の脱炭素対策として水素還元製鉄の実現が期待されているほか、自動車や列車などの燃料としての利用拡大も見込まれる。こうした分野の技術開発が進めば、新たな産業が創出され雇用の増大も期待できる。