政策特集新社会人必見 経済政策5つのキーワード vol.1

ビジネスの常識に?「DX」が日本を変えるワケ

巷にあふれる新たな言葉として、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」がある。スマートフォンやインターネットを当たり前のように使う若者にとって、「何をいまさら」感がありそうだが、デジタルが社会を変える伸びしろは、まだまだ残っている。今回はDXがなぜ重要なのか、政府は推進のために何を重視し、実行しようとしているかを解説する。

Q そもそもDXとは?
A デジタル技術で便利な社会にし、経済を活性化させる概念です

一言で言えば、デジタル化によって社会のいたるところに様々な変化をもたらすという意味がある。特にビジネスの分野でデジタル化は、これからのグローバルな経済成長には欠かせないとされている。

世界のデジタル市場を席捲しているのはグーグル、アップル、フェイスブック(現社名はメタ)、アマゾンの頭文字を取った米国の「GAFA」だ。これに中国などの巨大企業が加わり世界でデジタルを巡る「覇権」が争われている。日常生活でも、例えばグーグルかアップルの基本ソフト(OS)が搭載されたスマホを使い、アマゾンでいつでもどこでも買い物するなど、GAFAは広く深く浸透している。巨大IT企業はデジタル技術で世界的な競争力を持ち、デジタル社会での確固としたプラットフォーム(基盤)を築いたからだ。

つまり、デジタル技術は新たなスマホや電子商取引をはじめビジネスモデルを創造し、これまでなかった新しい価値を生み出してきたといえる。こうしたことから、DXは今後も世界的に加速度的な進展をみせると予想されており、今後の日本の国際競争力の強化には、DXに対応することが不可欠な状況にある。経済産業省はDX浸透のための重要な要素として、①デジタル産業基盤②デジタルライフライン③デジタル人材基盤を掲げている。

Q 国が産業のデジタル化で重視しているのは?
A 一つは基盤となる半導体の強化です

デジタル社会の進展は人々の生活を豊かにし、利便性を高めてきた。
最近話題となっている画像や文章などを自動でつくる「生成AI(人工知能)」をはじめ、生活をさらに一変させる技術革新が起こっている。これらの根底にあるのは、半導体をはじめとしたデジタル産業基盤だ。半導体が進化すれば、より大量な情報を、より少ないエネルギーで、より高速に処理できる。あらゆる産業がデジタル技術を活用した発展を目指す中で、半導体は日本においても極めて重要な物資となっている。

半導体はかつて、日本の「お家芸」であり、1980年代には世界の製造シェアの50%以上を占めていた。それが1990年代から次第にシェアを落とし、今や10%程度となっている。この間に台湾と韓国、米国が力をつけ、特にデータ処理などで電子機器の頭脳を担い、スマホや自動運転車に使われる「先端ロジック半導体」については、台湾のTSMCと韓国のサムスン電子、米国のインテルの3社による寡占状態にある。新型コロナウイルスのパンデミックで半導体の供給が途絶したことは、国内産業に大きな影響をもたらした。これらの事態を踏まえて、サプライチェーン(供給網)を強靭化する必要性が改めて認識されるようになっている。

他方、日本の半導体業界が競争力を低下させる中で、技術開発も停滞した。先端ロジック半導体については、国内に製造する能力も技術も持っていない。これを埋めるべく実施したのがTSMCの熊本県への誘致。日本企業と共同で半導体工場を建設し、2024年末までの生産開始を予定する。先端分野の誘致にとどまらず、欧米と連携しながら次世代半導体の製造・量産の実現にも挑戦する。2022年末には、次世代半導体の設計・製造基盤の確立に向けた研究開発拠点として「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」が設立された。同時にソニーグループやトヨタ自動車など国内8社の出資で設立した半導体製造企業「ラピダス」を先端半導体の量産を担う立場と位置付けた。

Q 企業活動や生活の中にDXを浸透させるには?
A ハード・ソフト・ルールといったインフラが重要です

ドローン、自動運転、AIなどを活用する際には、現実世界と仮想世界を融合することが重要となる

ドローンを使った点検・配送、自動運転車による移動といった、人手に頼らないデジタルサービスを普及させるためには、空間情報などのデータを連携し、衝突などのリスクを回避することで、安全性・信頼性を担保することが重要となる。このため、空間情報などを収集するためのセンサーや通信機器といった物理インフラのほか、データ連携のためのシステム、ルールなどを整備し、インフラ面からデジタルサービスの実装を支援することが検討されている。

経済産業省は、関係省庁と連携して、こうした「デジタルライフライン」ともいえるインフラの整備を今後10年間かけて行う計画の策定を進める。2024年度が目標の先行プロジェクトの実施も進んでいく。例えば、埼玉県秩父エリアでは150km以上のドローンが飛ぶ航路が、新東名高速道路の駿河湾沼津-浜松間には100km以上の自動運転車用レーンが設定される。これらを通じて、より安全で高速なドローンや自動運転トラックなどの運航を目指していく。

【関連情報】デジタルライフライン全国総合整備計画

ドローン航路のイメージ(出典:グリッドスカイウェイ)

自動運転車に対する、道路インフラからの支援のイメージ

デジタルライフラインを整備することにより、社会課題解決への貢献が期待される。一部の過疎地は近くの商店が閉店したり、採算性から地域の足である公共交通が撤退したりして、車に乗れない高齢者を中心に通常の生活が難しい状況になりつつある。ドローンを使った生活必需品の配送、自動運転による乗り合いバスなど人手に頼らないデジタルサービスが実現すれば、過疎化対策などの一助となる。

Q DX推進に欠かせない人材って?
A もともとのデジタル人材にとどまらない全てのビジネスパーソンです

DXは支える人材がいなければ進まないため、「デジタル人材基盤」の整備も欠かせない。しかし、複数の調査によると、「日本人労働者のデジタル/テクノロジーのスキルは64か国中62位」(IMD「デジタル競争力ランキング」2021)、「デジタル人材の7割強がIT企業内に偏在」(IPA「IT人材白書2017」)という状況で、デジタル人材が質・量ともに充実しているとは言いがたい。DXを推進する専門人材をこれまで以上に育成すると共に、全てのビジネスパーソンがDXを理解し、使いこなす力(DXリテラシー)を身に着けるべきスキルとして得る基盤を作ることが大切だ。

こうした考え方をもとに作成されたのが「DX推進スキル標準」「DXリテラシー標準」。DX推進スキル標準はDX推進に長けた人材を役割やスキルによって5分類に定義し、企業が本当に求めるDX人材を採用しやすくする狙いがある。DXリテラシー標準は、デジタル技術の一般的な理解と、新たな価値を生み出すための意識や姿勢を定義。ビジネスパーソン一人ひとりがDXを自分事と捉え、変革に向けて行動できるための指針とした。

DX人材を育成するための仕組みがデジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」で、経済産業省、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が中心となって2022年3月に開設した。DX推進スキル標準と各教育講座が紐づいているのが特徴だ。例えば、「データサイエンティスト」になるための教育講座だけを抽出して受講し、効率的に専門知識を身に着けることができる。すでにビジネスパーソンとして活躍している人たちだけでなく、新社会人や学生が新たなデジタル技術を習得するためにも役立つだろう。