政策特集繊維が紡ぐ未来 2030年に向けた繊維産業の展望 vol.4

オールジャパンで繊維産業反転、輸出倍増へ。全国の産地がフォーラムで知恵を結集

「ファッション・ビジネス・フォーラム2023」開催

繊維産業における新たな稼ぐ力の創出を目指す「ファッション・ビジネス・フォーラム2023」が2023年1月31日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された。国内で進む少子高齢化をはじめ、世界的なサステナビリティへの関心の高まりやデジタル化など繊維産業をめぐる環境は大きく変化している。

こうした中、繊維企業の成長のカギとなるのは、新たなビジネスモデルの構築や業種を超えたマッチングなど従来にない発想で市場を開拓する「新たな稼ぐ力」だ。フォーラムでは繊維産地や繊維企業の先進的な取り組みが紹介され、繊維産業の未来に期待が高まった。当日の会場の模様をレポートする。

繊維産地サミットには、繊維産地の自治体トップがオンラインで参加した。写真手前は太田房江経済産業副大臣(左)と中野正康一宮市長。

繊維産業の新しい時代をつくる 「繊維産地サミット」

フォーラムのはじめに、太田房江経済産業副大臣が「繊維産業は産地に根差した地域経済の立役者であり各地域が持つ多様な価値を生かして発展していくうえで重要な産業。歴史ある繊維産業の新しい時代をつくる意気込みで頑張りたい」と参加者に呼びかけ、会場は拍手に包まれた。

「繊維産地サミット」では、国と主な繊維産地を有する33の地方公共団体が連携し、繊維企業の支援に取り組む共同宣言を採択した。繊維産地サミットは、繊維産地が海外進出など共通の課題に対する有効な取り組みを共有し、解決を目指すねらいがある。宣言には、国内市場が頭打ちとなる中、有望な海外市場に向けて繊維産地企業の輸出額の倍増を目指すことなどを盛り込んだ。

会場では、産地を代表して愛知県一宮市の中野正康市長が登壇した。一宮市は「尾張の国、尾州」として毛織物のブランディングに注力する。2022年には、尾州産地の企業後継者らが毛織物などの魅力を知ってもらう産業観光イベント「ひつじサミット尾州」を開催し、繊維工場を見学できるオープンファクトリーを実施した。市内の中学校の制服に尾州産の生地も使用している。中野市長は「元気な繊維産業としてその地域の誇りとして発展できるようにしたい」と決意表明した。

続いてオンラインで会場と各自治体をつなぎ、リレー方式で繊維産地の自治体トップが登場した。大阪府泉大津市は毛布の国内生産で約90%以上のシェアを誇る。南出賢一市長は「モノをつくれば売れる時代ではない。毛布の生産技術を活かしてカーペットから人工芝をつくるなど、事業者は新たな取り組みにも着手している。繊維産地が協力して新しい価値を生み出したい」と繊維サミットの取り組みに期待を込めた。

大阪府泉佐野市の千代松大耕市長は「泉佐野市は130年以上の歴史を持つ泉州タオルの産地。2025年の大阪万博に向けて世界に通用する地域ブランドの確立を目指している」と語り、市職員を米サンフランシスコに派遣するなど「泉州タオル」の世界での販路拡大への取り組みを明らかにした。

「播州織」の産地、兵庫県西脇市の片山象三市長は「これまで生地が主流だったが、『西脇ファッション都市構想』を掲げてショールなど最終製品の生産にも力を入れている。オールジャパンで日本の繊維産業を世界に向けて発信していきたい」と意気込みを語った。最後を締めくくったのは、愛媛県今治市の徳永繁樹市長だ。「今治タオル」のブランド戦略に触れ、「かつて産地として存亡の危機にあったが、今は世界中で今治タオルを愛用して頂いている。人材確保や技術の伝承といった課題はあるが、産地のみなさんと連携しながら『今治モデル』を日本全国、さらに世界に発信していきたい」と繊維産地への思いを伝えた。

繊維産地サミットでは自治体トップがリレー方式で決意表明を行った。会場スクリーンには「今治モデルを日本全国、世界に発信したい」と語る徳永繁樹・今治市長が映し出された。

世界の繊維市場は今後も拡大 医療用など有望 繊維産地サミット宣言

「繊維産地サミット宣言」は、繊維産業について国内市場の規模が頭打ちとなり、製品の輸入増加や原材料価格の高騰、事業所や就業者数の減少などを背景に産地内のサプライチェーンの維持が難しくなるという見方を示している。一方で海外に目を向けると、世界の繊維市場は今後も拡大が見込まれ、医療用など産業資材分野で繊維の可能性を発揮できる市場が拡大し、成長への期待は極めて大きいとしている。2020年代半ばに向けた繊維産業と産地の展望として海外市場への販路の開拓、新商品開発などによる輸出額の倍増に向けた取り組みをはじめ、医療分野など産業資材の進出が重要であるとしている。

新たな稼ぐ力のモデルに 「次代を担う繊維産業企業100選」

「次代を担う繊維産業企業100選」が発表された。受賞者を代表して太田房江経済産業副大臣から賞状を授与された辻雄策・丸和ニット社長(写真右)

フォーラムでは、経済産業省の「次代を担う繊維産業企業100選」として全国の繊維産業企業109社が発表された。繊維企業が取り組むべき課題として、「サステナビリティ」「デジタル化」「技術力やデザイン力による付加価値の創出」「新規性のある事業・サービスの展開」「海外展開」の5分野を定義し、先進的に取り組んでいる企業を「100選」という形で「見える化」した。審査委員長の新宅純二郎・東京大学大学院経済学研究科教授は「過去20年、30年の逆境の中で日本の繊維産業は新しい技術の開発や市場の開拓に取り組んでおり、能力を構築されている。その成果として日本と海外の市場で花を咲かせていただきたい」と講評を述べた。「100選」企業は、166社の応募の中から109社を選定した。

福島県双葉町から世界へ 日本の繊維素材の技術に自信

パネルディスカッションでは、「次代を担う繊維産業企業100選」の企業を代表して浅野撚糸(岐阜県)の浅野雅己社長と丸和ニット(和歌山県)の辻雄策社長が海外展開や繊維産業の未来を語った。

浅野撚糸は2023年春、福島県双葉町に撚糸工場とオフィス、タオルショップ、カフェを備えた複合施設「フタバスーパーゼロミル」の開業を予定している。浅野社長は「双葉町から『スーパーゼロ』という糸で世界に打って出たい」と構想を明らかにした。浅野社長は、海外展開について「繊維産業で一つの企業が糸から最終製品までつくるのは難しい状況になっているが、今、残っている日本の繊維企業が徹底的に手を組むととんでもない力になる」と期待を寄せた。さらに「繊維素材で日本は世界的に優位な位置にいる。素材の製造工程をもっと表に出すなどしていくと強みを発揮できると思う」と提案した。また将来的に双葉町の工場でスーパーゼロの生産量を引き上げて地域の雇用を増やすという。浅野撚糸は、2003年に独自の撚糸工法で作った糸「スーパーゼロ」を開発した。2007年発売のスーパーゼロで織ったタオル「エアーかおる」がヒットし、これまでに1500万枚を販売している。

「福島県双葉町から『スーパーゼロ』という糸で世界に打って出たい」と語る浅野雅己・浅野撚糸社長。

丸和ニットは1934年に創業し、メリヤス生地の製造から始まり、量産衣料品向けのテキスタイルで売り上げを伸ばした。1990年代以降、企業の生産拠点が海外に移り、自社で生産まで行うSPA業態の台頭で変革を求められたという。2000年代に入って商品の高付加価値化を図り、独自製法でニット生地「バランサーキュラー」を開発した。2000年代後半に大手百貨店で使われたのを契機に取引が増え、海外有名ブランドでも使用されている。バランサーキュラーを使ってつくるアパレルブランドも立ち上げた。辻社長は「バランサーキュラーは世界で当社にしかない技術でつくっている。補助金などの支援も活用しながらバランサーキュラーを日本の技術として世界に発信していきたい」と抱負を語った。

「『バランサーキュラー』を日本の技術として世界に発信していきたい」と語る辻雄策・丸和ニット社長。

【関連情報】
「次代を担う繊維産業企業100選」を選定しました(経済産業省プレスリリース)