【徳島発】4割軽くて5倍強い「最先端のセメント瓦」が 挑み続けるサスティナブルなモノ作り
富士スレート 徳島県北島町
「グローバルな視野+ローカルな視点」、家族経営の強み生かす
瓦には大きく言って3種類ある。一つ目が石瓦。これは粘板岩などを加工して使う。JR東京駅の丸の内駅舎には、宮城県石巻市で採取される雄勝石が屋根材として葺かれている。もう一つが粘土瓦。文字通り、粘土を焼き固めて作る瓦で、全国に産地がある。それに釉薬をかけて焼くと陶器瓦なる。そして三つ目がセメント瓦。一般的にはセメントと川砂を混ぜたモルタルを型に入れ、成型したものを塗装して作る。
富士スレートは、そのセメント瓦の製造販売を行っている。終戦直後の1945年9月、徳島県庄町で創業。家族経営を基本とした事業が、日本の戦後復興とも重なってきた。セメント瓦以外にも住宅環境などの変化に応じて、瓦製造機械の設計製造やバルコニーの床材開発、そして太陽光パネルの設置なども手がけてきた。屋根瓦の国内需要の将来的な先細りを見越して2008年にはベトナムに進出し、東南アジアでの市場開拓にも力を入れる。
「グローバルな視野でビジネスを見渡し、ローカルな視点できめ細やかな対応のできることが我が社の強み」と馬渕祐三社長(51)は話す。阪神大震災のあった1995年、富士スレートに入社し、2017年、3代目の社長を先代の父親から引き継いだ。そして経営の要所を親族が固める。先代の父親から見て、現社長が長男。ベトナム現地法人のフジスタールーフ社長として2018年より駐在しているのが専務の次男。徳島県の北島工業団地内にある、敷地約2万3100平方メートルの広さの北島工場の工場長が三男。
「家族経営によって、短期的な利益に振り回されることなく、長期的な見通しに立って、社会にいかに貢献できるかということにじっくり取り組むことができる」と馬渕社長。実際、経営理念にも「世の中から必要とされる企業を目指す」ことを掲げる。ビジネスは海外にも広がるが、生まれ育った徳島を拠点にビジネスを続けているのも家族経営という要素が影響しているのかもしれない。
最大時間雨量200ミリ、最大風速60メートルにも耐えるFRC瓦
粘土瓦に比べて、均一な製品を量産できるセメント瓦は戦後から高度経済成長期にかけて大量に生産された。ところが重い上、経年劣化が進むのが弱点だった。実際、1995年の阪神淡路大震災では劣化した屋根瓦が割れ落ち、深刻な被害をもたらした。近年は温暖化の影響もあり、台風などによる暴風雨の被害も目立つようになってきた。
そうした課題を克服する目的で開発したのが、高分子繊維強化セメント(FRC)瓦「エアルーフ」。大手化学メーカーのクラレ(東京)と協力して1998年から発売している。漁網などに使われる丈夫な高分子繊維をセメントに練り込み、150トンの高圧で成型することで、一般的な陶器瓦と比べて約4割軽くなった。一般的な住宅の場合、屋根に使われる瓦の重さは計約7.5トン。自動車約7台分の重さに相当するという。それがエアルーフだと計3トンも軽量化でき、結果として住宅の耐震力アップにつながっている。
さらに耐衝撃性能でも、530グラムの鉄球を落とす試験で、陶器瓦は40センチの高さから鉄球を落とすと割れてしまうが、エアルーフは2メートルの高さから落としても破損しない。さらに釘留めの留める位置を対角2点で留めることで暴風にも強い仕様になった。工場内に実証試験場を独自に設け、最大時間雨量200ミリ、最大風速60メートルの環境を再現し、ほとんど漏水しないことも確認している。
都美術館改修、トキワ荘プロジェクト・・・公共施設でも高い評価
熱や紫外線も瓦の維持管理には深刻な影響をもたらす。特に2008年にベトナムに進出してからは、徳島に比べて紫外線量が約1.8倍あるマレーシアの日差しにも耐えられる仕様にする必要があった。そこで国内で実績のある塗料をもとに、総合塗料メーカーの大日本塗料(大阪)と海外向けの過酷な耐候性を有する塗料を開発。異なる塗料を3層塗り重ねて焼き付けることで、30年以上補修塗装を必要としないグローバル仕様としてバージョンアップした。
「瓦は安いだけでなく、大切なものを守るものに変わりつつある」と馬渕社長は話す。環境の変化による自然災害の多発によって、瓦の軽量化を図ることで地震の際の耐震性が増し、耐風圧能力や漏水性能を向上させることで台風にも強く、不燃性を増すことで火災にも強くなる。こうした条件を満たし、防災や減災を目的に開発されたエアルーフは住宅以外の公共施設でも使われるようになってきた。東京都美術館の断熱屋上防水改修やトキワ荘改修プロジェクト(東京都豊島区)でも、富士スレートの商品が選ばれたのもその一例だ。2022年には、経済産業省の実施する製品安全対策優良企業表彰の中小企業部門で優秀賞(審査委員会賞)も受賞している。
クラレ、慶大とタッグ。「防災と環境の両輪」で役立つ企業目指す
もっとも、馬渕社長はさらに先を見ている。これからのサスティナブルに資する製品開発を目的に、クラレや慶応義塾大学大学院サーキュラデザイン研究室と共同研究を始めている。さらに、住宅リフォームの際に出る廃材や川底の堆積土砂を撤去したものを瓦の材料として再利用することができないか、独自に試行錯誤を重ねている。防災に加え、環境に役立つもの作りも、これからの私たちの大きな目標――。四国・徳島から大きく変わろうとする社会を見つめ、経営理念に掲げた「世の中から必要とされる企業を目指す」ための挑戦が続いている。
【企業情報】
▽公式サイト=https://fujislate.com/▽社長=馬渕祐三▽資本金=5000万円▽売上高=20億円▽社員数=86人▽創業=1945年▽会社設立=1968年