統計は語る

国内旅行の回復動向を見る

新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)拡大の影響で大きなダメージを受けている観光業だが、2022年10月の宿泊旅行統計調査によると、日本人宿泊者数(延べ)は感染症拡大前を上回る結果となるなど、10月から開始された全国旅行支援を追い風に回復傾向が見られる。

今回は、「国内旅行」の動向について統計から見ていく。

観光関連産業は着実に回復

経済解析室では、サービス業などを含む第3次産業の活発さを表す指標として、「第3次産業活動指数」を毎月公表している。

その中から「観光関連産業」として再編加工した系列の動きを見ると、2020年1月以前は100を上回る指数水準で推移していたものの、感染症拡大の影響が出始めてから急低下した。初めて緊急事態宣言が発出された2020年5月を底として、感染が落ち着き、またGO TOトラベル事業実施の後押しも受けた2020年後半、そして2021年第4四半期には一時的に持ち直しの動きがみられたものの、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返される中で停滞が続いていた。

2022年に入り、3月下旬に行動制限が解除となって以降は上昇傾向にあり、大型連休のあった9月には指数値87.8と感染症拡大以降で最高水準となるなど、着実に回復していることがうかがえる。

この「観光関連産業」は、前述のとおり観光に関係の深い様々な産業を統合したもので、「旅行業」、「宿泊業」、「遊園地・テーマパーク」から、鉄道、バス、タクシー、飛行機等の旅客運送業、道路施設提供業(高速道路)等で構成されている。

このうち、「旅行業」、「宿泊業」の個別の動きを見ると、観光関連産業の中でもダメージが大きかったものの、「リベンジ旅行」といった言葉が聞かれたように、国内旅行は回復途上にあることが見てとれる。

久しぶりの「リベンジ旅行」は宿泊が人気

観光や帰省といった、目的別の日本人国内旅行者数(延べ)の推移を見ていくと、感染症拡大の影響のあった2020年から2021年にかけて、感染症拡大以前(2018、2019年)と比較して「観光・レクリエーション」、「帰省・知人訪問等」、「出張・業務」の全ての目的で旅行者数は大幅に減少した。

GO TOトラベル事業実施期間(2020年第3、第4四半期)や、緊急事態宣言等の全面解除後の2021年第4四半期に持ち直しの動きが見られ、なかでも「観光・レクリエーション」に注目すると、「宿泊」が「日帰り」を上回るのは、2018年及び2019年では夏季期間の第3四半期のみであったのに対し、2020年及び2021年は第4四半期にも上回る結果となった。GO TOトラベル事業による追い風や、「リベンジ旅行」として宿泊旅行を志向した人が多かったことが考えられる。

また、2022年に入り、行動制限の無い大型連休のあった第2四半期を見ると、「宿泊」と「日帰り」の差が感染症拡大前と比較して小さくなっており、宿泊旅行を志向する傾向が続いているのかもしれない。

国内旅行者数の回復をけん引するのは20代

このように着実に回復しつつある国内旅行者数だが、世代別ではどのようになっているのだろうか。

全ての年代において、感染症の拡大とそれに伴う行動制限等に合わせて減少・増加しており、2021年第3四半期以降回復傾向にあるのは共通した動きである。しかしながら、回復の度合いは年代によって異なっており、20代は2022年第2四半期に2019年同期比で上回るなど最も回復が進んでいることが見てとれる。次に回復が進んでいるのは50代であり、これらの世代は子育てや介護などの家族的要因が比較的少ないことも回復が進む要因のひとつであると考えられる。他方、60代以上は2019年同期比でマイナス20%を下回る状態が続いており、国内旅行に慎重な傾向がうかがえる。

国内旅行の移動手段にも変化が

次に、交通手段別の構成比の変化を見ると、感染症拡大以降、「自動車」の構成比が拡大していることが見てとれる。航空機や、新幹線などの「鉄道」を利用した旅行に比べ、感染防止の観点から家族や個人の空間を維持できる自家用車やレンタカー・カーシェアリングを利用した旅行を選択する人が多かったことが考えられる。また、遠方への移動を控え、自動車での近距離の移動が好まれたことも考えられる。

感染症拡大以降、構成比が縮小していた「鉄道」は、2022年に入り第2四半期は2019年同期と同程度まで拡大するなど、回復傾向がみられる。他方で「バス」は回復が遅れているようである。民間の調査では、「行動制限解除後には車で近隣の旅行を志向する人が多い」という結果もあり、当面はその傾向が続くということなのかもしれない。

以上、国内旅行の動向を見てきたが、国内の観光需要は回復途上にあり、久しぶりの国内旅行で地域の魅力、旅行の魅力を改めて発見した、という人もいるかもしれない。2023年の年明け以降も全国旅行支援の実施が公表されるなど、今後も回復傾向が続くことが予測される。

一方で、日本の観光業を盛り上げてきた柱のひとつであるインバウンド需要の回復には時間が見込まれること、観光業における人手不足など課題もある。今後の回復動向に注目していく。

(本解説に関する注意事項)
本解説は、公に入手可能で、経済産業省経済解析室が信頼できると判断した情報を用いて作成している。ただし、使用した情報を全て、個別に検証しているものではないため、これらの情報が全て、完全かつ正確であることを保証するものではない。
また、本解説は、統計等の利活用促進を目的に、経済解析室の分析、見解を示したものであり、経済産業省を代表した見解ではない。

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