地域で輝く企業

【愛知発】男性偏重の運輸業界で光るダイバーシティ経営。従業員満足がサービス向上の切り札

大橋運輸 愛知県瀬戸市

ES向上のアプローチは
“女性が働きやすい職場”

男性が多い運輸業界にあって、地域課題の解決に取り組むとともに、多様な社員一人ひとりが能力を発揮できる環境づくりを進め、ダイバーシティ経営のモデル企業として注目を集めているのが、1954年創業の老舗・大橋運輸だ。

オフィスを訪れると、輸送会社の一般的なイメージとは異なる柔らかい雰囲気。リラックスルームも設置されており、日常的に社員がバランスボールで休息をとったり、ヨガを楽しんだりしているという。トイレは男女共用タイプが完備され、LGBTQへの配慮もうかがえる。社内には管理栄養士が常駐。社員への健康アドバイスとともに、目の疲労対策にブルーベリー、食物繊維のとれるフルーツ、腸内環境のために乳酸菌飲料など、社員の健康をサポートする数々の食材がフリーで摂れるよう常時用意されている。

大橋運輸が経営の主軸に据えるのが、ES(従業員満足)の向上だ。鍋嶋洋行社長は、「運輸業においては、『人』こそが付加価値。運輸イコール体力ではなく、多様な人材活用にあると考え、まずは“女性が働きやすい職場“であることを大切にしています」と語る。

社内に管理栄養士を採用し、健康情報の発信や社員へのアドバイスなども行っている。

ワーク・ライフ・バランスや
LGBTQ対応も推進

大橋運輸では、働き方改革の担い手として「ES推進者」を設置し、女性のリーダーを起用している。その結果、男性偏重の運輸業界の常識が徐々に覆されてきた。例えば、ワーク・ライフ・バランスに配慮した勤務体制とするため、子育て期の社員には労働時間の短縮や、子どもの病気などでの突発的な勤務時間・勤務日変更にも柔軟な対応をとるなど最大限の配慮でサポート。職種によっては在宅勤務も可能とするなど、男性社員も含めて“みんなが働きやすい職場”づくりが進んでいる。

2019年にはダイバー推進室を立ち上げた。LGBTQへの対応として、コンサルタントを招いて当事者の気持ちやセクシュアリティ理解のための研修を実施しているほか、同性パートナーを配偶者認定して福利厚生の適用対象としたり、採用エントリーシートの性別欄を廃止したりするなど、受け入れ環境を整えてきた。

2022年9月現在、社員構成は女性が約2割、高齢者が約1割、外国籍が約1割(5か国)、障がい者雇用が4.3%になった。

多様な人材が働く大橋運輸。従業員の満足度が高く、サービスの向上につなげている

ダイバーシティ経営が
評価され各賞を受賞

社員の多様化は、顧客サービスでも生かされている。「女性スタッフがいることでお客さまも安心感が増しますし、女性の方が得意な作業もいろいろとあります。そして社内では、女性が増え、活躍することによって、安全はもとより衛生や健康への気遣いができる職場へと変化していきました。また、出来ないところではなく出来ることに目を向ける文化が根づき、ダイバーシティ経営の土壌をつくることができたと考えています」(鍋嶋社長)。
こうした取り組みは評価され、大橋運輸は経済産業省の「新・ダイバーシティ経営100選プライム」や、多様性を尊重し生かす社会の実現を目指す「D&Iアワード2021」での「中小企業部門 D&I Award 大賞」などを受賞している。
「今来てくれている社員は、属性は多様でも、やりたい目的が一緒で集まってくれたメンバーだと思っています。そこが重要であり、また多様な人材がいるからこそ、お互いを認め合い、支え合うチームワークができている。今後、労働人口が減っていく中で、サービスの付加価値を高めるためにもダイバーシティは必要不可欠になると考えています」(鍋嶋社長)。

経営の窮地に見出した
多様な人材の力を強みに

鍋嶋社長がESの大切さに気づいたきっかけとして、苦い思い出がある。30歳で信用金庫を退職し、妻の父親が率いていた大橋運輸を引き継いだのが1998年。当時の運輸業界は、1990年に免許制から許可制に変わって価格競争が激化していた。輸送事業の8割以上が下請けだったが、時代とともに主力だった陶器の需要も減り、利益の出ない体質になっていた。“脱・下請け”を目指し、引っ越しなど個人向けサービス事業を拡大したが、ネットの普及に伴いやはり価格競争が厳しさを増した。現場は疲弊し、人材確保にも負の影響が出ていた。

鍋島社長は「あらためて地域の社会課題に目を向けると、瀬戸市は愛知県の中でも高齢化率が著しく高い地域で、単身高齢者が粗大ごみを集積所に運んだり、家の中を片付けるのに手伝いを必要としていることがわかりました。また、部屋を片付けることは、高齢者のけが予防や震災被害への対策になり、地域の健康寿命を延ばすことにもつながります。そこで開始したのが、生前整理・遺品整理のサービスでした」と振り返る。新しいサービスを成功させるためにも、女性を含め、多様な人材の力をもっともっと引き出す必要がある。この気づきと決意がダイバーシティ経営の原点となった。企業と人の在り方をまっすぐ見すえて、大橋運輸のチャレンジは続いていく。

地域活動にも力を入れ、毎年8月4日には、オオハシ(84)、橋、箸にちなんだ交通安全の「橋渡し運動」を実施。地域では「大橋さん」の愛称で親しまれている

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.0084.co.jp/ ▽所在地=愛知県瀬戸市西松山町2-260 ▽代表取締役 鍋嶋 洋行氏 ▽売上高=11億 ▽創業=1954(昭和29)年