「人と人とのつながり」の経済的な価値、明らかに
~RIETIレポート~
少子高齢化やコロナ禍などを背景に、人と人とのつながりに対する関心や政策対応の必要性に対する認識が高まっています。日本でも、2021年に英国に次いで世界で2番目となる孤独・孤立担当大臣が任命され、孤立した人や孤独な人に対するソーシャル・サポートの提供を政策的に進めようという動きが大きくなりつつあります。
ソーシャル・サポートってなに?
ソーシャル・サポートとは、「人と人とのつながりの中に生まれる相互扶助の関係」です。社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の1つとして、近年注目が集まっています。サポートの形は様々で、形のある物やサービスの提供だけでなく、共感や愛情の提供や、問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供なども、ソーシャル・サポートに含まれます。
英国では、かかりつけ医が必要に応じて心身の不調を訴える患者をリンクワーカー※に紹介して、地域の文化・芸術活動や同じ病気の患者団体などにつなぎ、治療や生活の質の向上につなげる「社会的処方」も実施されています。
※リンクワーカー:かかりつけ医等の医療従事者とボランタリーセクターなどのサービス提供を行う組織の間に介在して、支援対象者に地域の活動やサービスを紹介する役割を担う
人と人とのつながりをお金に換算すると?
これまで、ソーシャル・サポートを得ることの経済的な価値は、明らかになっていませんでした。そこで、要藤正任京都大学特定教授らは、生活満足度アプローチと呼ばれる手法を用いて、ソーシャル・サポートの金銭価値を求め、定量化することを試みました。
その結果、「病気や災難にあった際に助けてくれる」隣人によるサポート(道具的ソーシャル・サポート)は89.7~113.8万円/年、「落ち込んでいると元気づけてくれる」「嬉しいことが起きたときに喜んでくれる」身近な人のサポート(情緒的ソーシャル・サポート)については273.9~300.8万円/年と試算されました。後者の場合に得られる金銭価値は、一年間の世帯の平均消費支出(305.3万円)に相当します。
さらに、独居高齢者がソーシャル・サポートから得る生活満足度の金銭価値については、病気や災難にあった際に助けてくれる隣人によるサポート(道具的ソーシャル・サポート)は約3,300億円、「落ち込んでいると元気づけてくれる」「嬉しいことが起きたときに喜んでくれる」身近な人のサポート(情緒的ソーシャル・サポート)は約1兆円と試算されました。これは、2020年度の高齢社会対策関係予算22兆4,810億円(一般会計)の約6%に相当します。
「助け合い」には経済的な価値がある
この結果から、落ち込んだ時に気遣ってくれる人の存在は、生活満足度に大きな影響を与え、その金銭価値も大きいことがわかります。また、地域コミュニティにおける助け合いのネットワークが構築され、いざという場合に助け合えるという安心感があることは、災害時における被害の軽減やレジリエンスという視点だけではなく、生活満足度の向上という観点からも効果があることがわかります。
ソーシャル・サポートの提供は、大きな社会的利益が得られる可能性を秘めているのです。
【独立行政法人経済産業研究所(RIETI)】
RIETIは、理論的・実証的な研究とともに政策現場とのシナジー効果を発揮して、エビデンスに基づく政策提言を行う政策シンクタンク。詳細は経済産業研究所HP参照。
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RIETI ノンテクニカルサマリー:独りではないことにどれだけの価値があるか?:生活満足度アプローチによる我が国におけるソーシャル・サポートの実証的価値評価