世にないモノを創る
特殊精密バルブのフジキン
バルブと聞いて多くの人が思い浮かべるのは水道やガス給湯などの家庭用設備機器。しかし流通量が多いこれら一般バルブとは一線を画しながら、フジキンはバルブ業界大手に成長した。小川洋史CEO(最高経営責任者)は「狙う市場は小型・精密・特殊」と明快に語る。重要機能部品であるが内部部品であるため人目に触れることは極めて少ないが、ロケットや半導体製造装置、水素ステーションなどに組み込まれ産業やインフラを支えている。
問屋からメーカーへ
フジキンは1930年に配管材料および機械金属製品を扱う問屋として創業し、競争力と経営基盤を強化するため1954年に“メーカー”へ参入。「当初から、先発メーカーが手がけていない隙間市場に的をしぼった」(小川CEO)。他社が製造していないということは多くの場合、つくりにくいか、市場がまだないということでもある。必然として“創る”ことがフジキンの風土として根付くことになった。ブラウン管テレビ工場から相談を受け、蛍光管や真空管製造装置の火力微調整を可能にした精密バルブは、青銅鋳造が一般的だった1962年に真鍮鍛造で作製することで実現。一方、空気漏れが許容されていた1960年代の小型コンプレッサーのコックをバルブに切り替える省エネ提案によってコンプレッサー分野で新たなバルブ需要を育成した。
提案力と設計力、それを具現化する製造ノウハウを蓄積したことで、後に数々の国産化プロジェクトに携わるようになる。化学プラント用精密高圧計装弁をはじめ1967年には複数の原子力発電メーカーからステンレス鍛造の要望を受け、計装用の小型ステンレスバルブ開発に着手。従来とは桁違いの金型摩耗に苦しめられながらも量産技術を確立した。次に舞い込んだのは宇宙ロケット国産プロジェクト。ロケットに必要な低温・高圧対応を試行錯誤で繰り返す実験には、当時新入社員だった野島新也社長も参加。液体窒素に漬けた状態での漏れ試験を徹夜で見張り番し「(漏れの)泡が出るたびに『アカン』と叫んだ」と当時の苦労を振り返る。1976年に宇宙ロケット用バルブ機器を初めて国産化したメーカーとして名を馳せ、現在はロケット基地とロケット本体への搭載合わせ、6000台以上という圧倒的なバルブ納入実績を誇る。
半導体装置用バルブ機器で国内シェア70%
一方、半導体国産化の流れに伴って市場が生まれた装置部品需要を取り込み、現在の主力製品に成長したのが半導体プロセスガス流量を調整するバルブ機器だ。宇宙ロケット用バルブでクリーンルーム設置を経験したフジキンは、半導体プロセスの高度化を見越し、早期に半導体バルブ向けでもクラス1のクリーンルームを設置し、加工、組み立て、検査の仕組みで最先端の体制を整備した。現在、同分野の国内シェアは70%。「たかがバルブであろうと(分子サイズの小さい)ヘリウムでリーク試験し、クリーンルームで擦り込み組立を行った後、耐久回数を計る。そこまでやるから、これ以上にいいものはないと言える」とフジキン技術者は自負する。
半導体分野では、バルブ単体のメーカーとしてだけではなく、集積化ガス供給システム「IGS」や流量制御装置(マスフローコントローラ)「FCS」としての顔を持つようになり、さらにレギュレーターやフィルターを組み込んだガスユニット全体を受注する事例も出始めた。半導体とそのプロセスの進化は極めて速い。装置メーカーがより高度な装置を安定した品質で半導体メーカーに提供するには、コア部品技術を持つ企業にユニット発注する方式は合理的であり、この流れは今後加速しそうだ。電気自動車やIoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など半導体需要拡大のピッチは大きい。フジキンは過去2年で計1000人以上を採用し国内3工場をそれぞれ約2倍の人員規模に拡大している。
新規分野にも種蒔き
ただ半導体装置需要には浮き沈みが付きもの。IoTやAIのアプリケーションは中長期で拡大すると見られ、半導体そのものの需要は安定成長の予測が一般的ではあるが、装置は一度設置されれば需要が動き出すのは次の需要急拡大期かプロセス進化を待たなければならない。この谷間を埋めるために計画しているのが「半導体を使う側に回る」策だ。既にIoTを使った生産革命を進めている。また新規分野の種も既に蒔かれている。フジキンは来たるべき水素社会に備え業界でいち早く水素ステーション用バルブを開発。大阪工場 柏原で生産する水素ステーション用バルブは既に国内シェア80%にのぼり、競合他社の追随を許さない。
【企業情報】
▽所在地=大阪府大阪市西区立売堀2-3-2▽代表取締役兼CEO=小川洋史氏、代表取締役兼COO=野島新也氏▽創業=1930年5月▽売上高(国内)=約630億円(2018年3月期)