地域で輝く企業

耳鼻咽喉科向け医療機器で独自の地歩築く

医療現場のニーズを具現化する第一医科

眼球運動検査装置「ワイボーグ・グラス」

 4月に開かれたアジア最大級の医療機器製造・設計に関する展示会「Medtec Japan 2018」。ここで開催された日本発の革新的な医療機器を表彰する第7回「Medtecイノベーション大賞」に、第一医科(東京都文京区)の眼球運動検査装置「ワイボーグ・グラス」が選ばれた。山口大学医学部とYOODS(山口市)、山口県産業技術センターと連携し、リアルタイムで水平・垂直・回旋など眼球運動を測定できる機器を開発した。三半規管に異常が発生し、難聴や耳鳴り、立ちくらみなどを引き起こす「メニエール病」の診断にもつながる。

メニエール病の診断に

林正晃社長

 メニエール病は国内患者数5万人と推定される特定疾患の難病の一種。脳梗塞など他の病気と区別が難しい。検査ソフトウエア「ワイボーグ」は、めまいが生じた際の眼球位置や回旋を検出することで、疾病箇所を見極めるのに役立つ。後述する「中耳加圧装置」の開発と合わせ、2代目社長の林正晃氏は、「中小医療機器メーカーでもこのように診断と治療の両方で病気に対してアプローチできた」と誇らしげだ。
 林正晃社長の父で創業者の林重昭氏が、耳鼻咽喉科の医師から機器製造を依頼されたのが、1953年の創業のきっかけだった。もともと第2次大戦中に軍事用品の松葉づえや車いすを作る医療関係企業で活躍していた重昭氏。戦後は軍需のなくなったことから、この依頼に応えた。当時は耳鼻咽喉科領域のメーカーは、ほぼ1社独占の状態であったという。
 製造第1号は耳鼻咽喉科向けの吸引やスプレー装置などがついた診察ユニット。57年からは社名にちなんだ「First」というブランド名で、全国販売を始めた。

あらゆる機器を取り揃える

 同社の大きな特徴は耳鼻咽喉科に特化し、それに関わるあらゆる機器を取り揃えることにある。耳鼻咽喉科は耳、鼻、のど、めまいなどが対象領域。それぞれの診察、検査、治療、処置、手術に対応する、検査関連の大型機器から鉗子など小型機器、福祉機器までにも幅広く製品のラインアップを広げてきた。
 68年から組み立て製造所を自社内に構えたが、外部企業への製造委託も積極的に活用している。医療現場からのさまざまなニーズに対応できる背景には、60年以上にわたり構築してきた大学やモノづくり企業との緊密な関係がある。林社長は「第一種医療機器製造販売業などの許可をもつ法的責任者としての弊社と、医師、モノづくり企業の3者が連携することで、開発ニーズの発掘から始める開発ができる」と医工連携の重要性を語る。
 長年本社を構える東京・文京区には医療関係の企業や教育機関も集積する。東京大学や順天堂大学はもとより、地元の小・中学校とのコミュニケーションも重視している。子ども向け医療機器の展示会にも参画。地域の子どもたちに医療機器への興味を持ってもらう狙いだ。

世界になかった技術の開発に挑む

 今後は、さらなる技術の向上やアフターサポートにも力を注ぐ構えだ。本社近くには「ENT+(イーエヌティプラス)」と称するショールームを開設している。ここでは同社の最新機器製品を体感できるほか、仮想現実(VR)を使い、3Dシミュレーションで院内レイアウト空間を体感できる。林社長は「ドクターや医療関係者への情報発信拠点となれば」と医療の発展に貢献したいと考えている。
 メニエール病に関しては、今後も研究・開発を継続する方針だ。富山大学と河西医療電機製作所(東京都文京区)、ハイメック(富山市)、富山県新世紀産業機構と連携し、医療機器の開発を進めてきた。これまで生活習慣の見直しや薬で効果が見られない場合には、手術をすることが選択肢だったが、海外では「中耳加圧治療」という手術をしない選択肢がある。しかし、そのための機器は日本では未承認の上、鼓膜切開の必要があり、高コストな点が課題だった。
 同社が開発した新型の「中耳加圧装置」は海外製機器と同等の効果が得られる上、鼓膜の切開をすることなく使用が可能だ。同装置を使用した治療に関しては2018年に準用点数が適用され、保険が使えることになった。これにより治療の普及が期待される。
 2015年には「耳鼻咽喉科(Ear、Nose、Throat)ファースト」を目指す意味を込めたブランド名「ENT First」を立ち上げ、海外でのブランド展開にも力を注いでいる。世界になかった技術開発を進め、日本の医療技術を世界に発信する。

企業情報
▽所在地=東京都文京区本郷2の27の16▽社長=林正晃氏▽設立=1955年▽売上高=31億円(18年8月期)