地域で輝く企業

日本中の歯医者が頼る名脇役。高知を本社にするには理由があった

YAMAKIN 高知県香南市

貴金属地金、貴金属精錬、貴金属加工、歯科材料と事業を拡大しながら、 技術力を誇る「ヤマキンのものづくり」で優れた製品群を生み出している。

事業も、拠点もシフト。高知で加速したYAMAKINの挑戦

高知県東部に位置し、土佐湾に面する香南市。貴金属地金の販売・加工、歯科用材料の開発・製造・販売を手掛けるYAMAKINは、自然ゆたかなこの地に1991年から製造拠点を構え、地域とともに成長してきた。創業65周年を迎えた2022年7月には、本社登記も大阪から香南市に移転。名実ともに高知の地域企業として、「ヤマキンのものづくり」をより深耕させている。

創業は1957年。大阪市天王寺区で山本商店として、貴金属地金の売買・製造加工を開始した。その後、金の輸入自由化の流れを転機として、1976年に株式会社化するとともに、歯科用貴金属合金、歯科用有機・無機材料や工業用貴金属材料などの製造販売へと事業を拡大させてきた。創業から4人目の社長として経営を担う山本樹育氏は、事業の歩みをこう振り返る。

「歯科材料に参入した当時、扱われる材料は輸入物の貴金属が主流で、メーカーから問屋、二次卸、顧客である歯科医師・歯科技工士へと“モノが流れるだけ”の流通でした。当社はどう差別化したかというと、“技術フォローが必要な製品”であることに着目し、歯科技工士に鋳造技術などのフォローを一件一件、行なっていきました」。

誠意と熱意が実り、1995年には、歯科メタルセラミック修復用合金でシェア率日本一に。以降、毎年日本一を続けている。

歯科材料を広くカバーする製品群で強みを発揮

YAMAKINはその次に、貴金属合金と一緒に差し歯の製作に使われるセラミックスを開発し、2001年に歯科用セラミックス「ゼオセライト」を発売。「ゼオセライト」の輸出も開始し、海外展開を本格化させた。2006年には、保険適用の差し歯に広く使われている有機材料として歯冠用硬質レジン「ルナウィング」を発売。この時点で、歯科材料の主な素材である貴金属、セラミックス(無機材料)、レジン(有機材料)の3つの領域で自社開発し、製品化する体制が整った。

「YAMAKINが今、とくに強みを発揮しているのがレジンです。従来、歯科技工士は、レジンを貴金属合金の土台の上で手技によって加工し、歯をつくっていましたが、今はデジタルシフトが進み、CAD/CAMシステムを用いてデザイン・切削加工するようになっています。その素材となるハイブリッドレジンブロック(CAD/CAM冠用材料)において、YAMAKINはメーカーシェア日本一です。YAMAKINのレジンブロックは、強度と耐久性を両立するなど物性的に優れているうえ、100種類以上の色やサイズのバリエーションを揃えて、一人ひとりの自然歯に近い再現性を可能にしています」(山本社長)。

ハイブリッドレジンブロックを利用する「CAD/CAM冠」は、もともと厚生労働省が定める先進医療のひとつだったが、2014年から保険適用され、以後も適用範囲が広がった。これも追い風となり、業績は右肩上がりで推移しているという。

CAD/CAM加工用ディスク・ブロック CAD/CAM(コンピュータのデジタルデータをもとにした設計・加工支援技術)で歯科修復物をつくるための材料を、ディスクやブロック状に加工し提供している。

地域での“顔の見える関係”が成長を支えた

YAMAKINの成長を支えてきた開発・製造の歩みは、大阪から創業者の故郷である高知への拠点シフトによって大きく進展した。1991年、高知工場(現 高知第一山南工場)第1期建設から貴金属リサイクル工場として操業を開始。2001年には全ての生産業務を大阪から高知へ移し、工場を増設するとともに研究部門も拡充させていった。

「なぜ高知に移転したのですかとよく聞かれますが、一番大きいのは自然環境。とくに海外のお客様をここに招くと、創造性が担保された環境でものづくりができていることを肌で感じていただけます。私は今、大学院にも入って『地方の優位性と企業戦略』というテーマで研究を進めていますが、地方で“尖った”ほうが中小企業は伸びると考えています。YAMAKINの場合も、高知に来た当初は人が集まりませんでしたが、30年間、いろいろな取り組みをする中で知名度も上がり、多様な人材を採用できるようになっています。高知県からも手厚い支援を受け、大学とも共同研究を行うなど、高知の方々と顔の見える関係があったからこそ成長することができた。そう実感しています」(山本社長)。

製造工場では、歯科用貴金属合金部門として主に歯冠修復材料を生産。また、 貴金属加工部門として宝飾品、電子部品用の材料加工を行っている。

デジタル技術を活かし、地域医療の未来に貢献

事業を通じ、いかに地域へ貢献するか。そんなYAMAKINの活動の一つに、地域医療を守るために共同研究を進めている高知大学医学部とのプロジェクトがある。

「デジタル技術を使って歯科医療を効率化する実証実験を5年間行うプロジェクトで、県内でも過疎化が進んでいる大月町で2021年から実施しています。歯科技工士も派遣して常駐させ、現地からデータをYAMAKINの総合技術研究所に送って地域の歯科医療をサポートしています」と話す山本社長。総合技術研究所の中には放送スタジオも設け、テレビ局に負けないような機材を導入して、遠隔コミュニケーションに注力しているという。

「地域医療を守ることに加えて、日本の歯科技工士に貢献したいという思いもあります。歯科技工士は長時間労働、低賃金できつい仕事と思われ、成り手も学校も減っている。この現状を、デジタル技術を使って変革し、歯科技工士の仕事を魅力あるものにしていきたいのです。あとは海外に目を向けると、利益ベースでは輸出の占める割合はまだ1割以下なので、ここをどんどん伸ばしていって、“世界のYAMAKIN”をめざしていきたいと思います」(山本社長)。

ものづくりとデジタル技術を融合させ、地域とともに、お客様が存在価値を必要とする企業へ。変化に挑み続けるYAMAKINに今後も注目してみたい。

「ものをつくって売るだけではなく、技術を売る。技術を媒体としてお客さまとコミュニケーションを取る。これをずっと基本にしています」と話す山本社長。

【企業情報】
▽公式サイト =https://www.yamakin-gold.co.jp/ ▽所在地=高知県香南市香我美町上分1090番地3 ▽代表取締役 山本 樹育氏 ▽売上高=210.8億円(2022年6月期) ▽創業=1957(昭和32)年/会社設立1976(昭和51)年