カラダを見える化し、 生活習慣のミスマッチをゼロにする
ヘルスケアシステムズ 愛知県名古屋市
小さなベンチャーとの出会いから検査を取りまく事業の道へ
日々進歩する、大学などでの学術研究。そこに潜在する研究成果を掘り起こし、新しいビジネスの創出につなげる大学発ベンチャーが「イノベーションの担い手」として期待されている。中でもヘルスケア分野で注目を集めているのが、名古屋大学発のベンチャー企業、ヘルスケアシステムズだ。同社は、体の微量成分と健康の関係を追究した研究データや検査技術をシーズに、郵送検査事業や臨床試験事業などを展開。先進的な取り組みで地域社会の発展にも寄与し、経済産業省『地域未来牽引企業』をはじめとして数々の表彰を受けている。
同社の代表取締役、瀧本陽介氏は、大学で昆虫の生態を研究し、旅行代理店勤務を経て起業を目指したが、目的を失い、三重の実家でいわゆる“ニート”となった経験も持つという。
「当時は行き詰った状況でしたが、小さなベンチャー企業との出会いが転機となりました。その会社に臨床試験の入力補助のパートとして入ると、研究者として培った統計解析のスキルを活かすことができ、次第に企画運営、学術レポート、経理まで関わらせてもらえるようになり、経営についても学ぶことができたのです」と瀧本氏は振り返る。
名古屋大学発ベンチャーとして検査のイノベーションに挑む
2年後、退社することになった瀧本氏だったが、仕事で世話になっていた名古屋大学教授(現、同大名誉教授)の大澤俊彦先生に挨拶に出向くと、『名古屋大学発のベンチャーをつくるから一緒にやらないか』と声をかけてもらった。「大澤先生は食品機能科学の研究における第一人者。その方に誘ってもらえたことがうれしくて、また成功も確信して参加を決めました。それが今の会社、ヘルスケアシステムズです」と語る。
ただ、同社のスタートは、決して順風ではなかった。当初の技術シーズは大澤教授が開発した『抗体チップ』。ガラス基板上にいろいろな試薬をのせ、微量な検体から一度に多くの検査ができるという画期的な技術だ。ところが、創業当時はまだ実用化に課題が残り、採算は全く合わなかった。大きな誤算に苦しむ中、事業が軌道に乗ったきっかけは、大豆イソフラボンの活性本体として注目されている成分「エクオール」の検査キット開発だった。
「テレビ番組でエクオールと豆乳の効果の関係が取り上げられた時、視聴者の方から弊社に問い合わせの電話が何本もあり、『測りたい人がいるんだ』と需要に気づきました。もともと一般向けに検査を提供したいと考えていたので、一番手としてエクオールの検査キット開発に着手。これが最初のヒット商品となったわけです」
「郵送検査」と「臨床試験」、主力事業をリンクさせてめざすもの
そこから、ヘルスケアシステムズのビジネスモデルが確立していった。柱となるのは、一人ひとりの健康状態を”見える化“して最適な健康プランの提供につなげる「郵送検査」と、企業・産学官連携の臨床・モニター試験を受託して実施する「臨床試験」。それぞれの事業について瀧本氏が説明してくれた。
「郵送検査は、自宅で尿などを採取し、郵送すると後日、検査結果が届くサービスで、約20商品をラインナップしています。一般ユーザーの需要が比較的多い商品は、大豆イソフラボンからエクオールがどれくらい作られているかを測る尿検査『ソイチェック』、腸内環境の健康度を測る尿検査『腸活チェック』、免疫状態を測る唾液検査『バリアチェック』など。この他、健康支援に取り組む企業・自治体様からは、減塩検定や、タンパク質充足検査のキットを保健指導などでよく使ってもらっています」
「一方、臨床試験事業は、食品メーカーからの受託が多く、新しい健康食品の開発やトクホに関する研究を動物実験の段階までは自社で進めて、ヒト対象の臨床試験は弊社のような外部の第3者機関に委託するという形が一般的になっています。2つの事業は密接にリンクしていて、郵送検査の結果を届けた方が健康になるためのいろいろな解決策を、臨床試験を通して支え、さらに効果を調べることで郵送検査でのレコメンドに活かすことができる。そういうシナジーを発揮していきたいと考えています」
一人ひとりの持続可能な健康づくりへの貢献をめざして
最後に、「生活習慣のミスマッチをゼロにする」をミッションとして掲げる同社の取り組みについて、瀧本氏に思いを語ってもらった。
「健康食品や運動サービスをはじめ、健康に良いものはたくさんありますが、皆さんがどう選んでいるかというと、特売だからとか、クチコミで聞いたからとか、あまりにもエモーショナルな直感・体感に左右されています。でも、例えばお医者さんが病院で薬を処方する際にはそんな選び方は絶対にしないはずで、必ず検査をして、『あなたに必要なものはこれです』とお医者さんが言ったものから選ぶわけです」
「つまり、マッチングが上手くできていないわけです。なぜかというと、自分の体の状態がわかっていないから。ですから私は、検査を通じて、生活習慣のミスマッチを無くし、健康への解決策につなげていくことが弊社の使命だと考えています。そのためにいろいろな解決策を持った方々と協業して、一人ひとりの健康づくりにつなげ、継続して行動していただくように導く取り組みと、それを支えるDXの構築及び活用にチャレンジしていきたいと思います」
【企業情報】
▽公式サイト =https://hc-sys.com/ ▽所在地=愛知県名古屋市昭和区白金一丁目14番18号 ▽代表取締役 瀧本 陽介氏 ▽売上高=非公開 ▽創業=2009(平成21)年