宇宙開発を巡る産業の動向について
ここ数年、国内では、宇宙開発関連のイベントの発生により、宇宙への関心が高まっている。
日本の民間ロケットが初めて宇宙空間への打ち上げに成功(2019年)、小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した、サンプル入りカプセルの地球への帰還(2020年)、日本の民間人が初めて国際宇宙ステーションへ滞在(2021年)と、政府だけでなく民間による取り組みも活発になっている。
そこで今回は、国内の宇宙開発を巡る産業の動向について見ていく。
人工衛星を活用した事業の拡大
2021年に日本の民間人が初めて国際宇宙ステーションに滞在した。滞在期間は12日間でその費用は100憶円以上(1人当たり約50億円)とも言われている。そのため、一般には宇宙はまだ遠い世界と思われがちだが、実際には、日常生活でも、人工衛星から送られてくる情報が活用されるなど、宇宙空間の利用が身近になっている。
人工衛星は、1957年にソビエト連邦が打ち上げたスプートニク1号を皮切りに、現在までに、世界で約1.3万機が打ち上げられている。
人工衛星は、その目的により分類することができ、地球観測衛星は気象予報の利用に、通信衛星はBS放送などの放送事業の利用に、航行衛星はカーナビゲーションシステムや携帯電話のGPS機能に利用されている。
例えば、現在、気象予報は、民間機関でも行われているが、予報業務を担う気象予報士の登録者数は、この10年間で毎年平均2.8%増加している。
また、NHK・民間放送による衛星放送の契約者数は、この10年間で毎年平均2.6%の増加、携帯電話の契約者数は、この10年間で毎年平均4.8%の増加となっており、人工衛星を利用した事業は拡大し続けている。
世界的にも増加する人工衛星の打ち上げ
人工衛星の活用は、日本だけでなく、世界的にも拡大をしている。2021年、世界で打ち上げられた人工衛星の数は、1,809機となるが、この数は、10年前の2011年の打ち上げ数(129機)と比較すると14倍にもなる。
これまで世界で約1.3万機の人工衛星が打ち上げられているが、国別に見ると、アメリカが6,198機と全体の半数を占め、次いでロシアが3,620機と約3割を占めている。
日本はこれまで301機の打ち上げを行っており、中国(781機)、イギリス(533機)に次いで、世界で5番目の打ち上げ数となっている。ただし、比率で示すと、日本の打ち上げ数は世界全体の2.3%と小さく、大きく伸ばす余地があると考えられる。
人工衛星製造の国内市場規模
日本の人工衛星の打ち上げ数を年別で見ると、2000年以降、一桁台の年が多いが、最近5年間の推移は、感染症拡大の影響を受けた2020年を除くと、毎年20機前後の打ち上げ数となっており、増加傾向にある。
一方、人工衛星等(ロケット、宇宙ステーションを含む)の製造について、国内市場規模を推計すると、2,000~3,000億円程度とみられ、直近10年間は、年によって変動はあるものの、市場規模に大きな変化はないようだ。
なお、国内航空機産業の市場規模は3兆円弱あるが、完成機のみを対象としてみると6,000億円程度とみられる。人工衛星の市場規模は、その半分程度はあると考えると、予想以上に大きな市場と言えそうだ。
また、人工衛星の直近10年間の輸出について見ると、年による変動が非常に大きく、2018年の424億円を最大に、輸出額が1桁の年もあり、海外市場への進出には苦戦している状況が伺える。ただし、航空機の完成品輸出が年数億円程度であることと比較すると、人工衛星の海外市場への進出は航空機よりも進んでいると考えられる。(我が国の航空機産業は、米国向けの航空機機体部品や発動機部品が主であるため、航空機の完成品輸出は少なくなっている。)
宇宙空間の範囲は、国際法では明確に定められてはいないが、一般的には上空100km以上を宇宙空間と定義する場合が多いようだ。また、国際宇宙ステーションは、上空400kmに位置している。人工衛星は目的によって高度が異なり、静止衛星と呼ばれる地球の自転周期と同じ気象衛星や通信・放送衛星は上空36,000㎞に位置している。
地球1周が40,000㎞だから、高度の衛星は遠い存在だが、100km、400kmという距離は、東京を起点に考えると、それぞれ熱海(静岡県)や大阪までの距離に匹敵する。今後、更に、宇宙空間の利活用が進み、宇宙がより身近になることで、東京から熱海や大阪に行くように気軽に宇宙に行く時代がやってくるのかもしれない。
そのような時代が来るには、宇宙開発に関する技術の進展が不可欠であり、今後、日本の宇宙技術に関する発展を大いに期待したいところだ。
※ 本記事は、経済産業省調査統計G経済解析室が作成した統計分析記事を一部修正して転載したものです。記事中のデータの取り扱い等については、出典元の記事の注意事項等をご参照ください
出典元 【ひと言解説】
宇宙開発を巡る産業の動向について