アドベンチャーワールドの運営を通じ、社員、ゲスト、社会のSmileを創り出す
アワーズ 大阪府松原市
独自の理念経営を推進する
南紀白浜の風光明媚な立地に、動物園・水族館・遊園地の3つを併せ持つ日本でも数少ない複合型テーマパーク「アドベンチャーワールド」。2020年11月に生まれた最年少のメスのジャイアントパンダ、「楓浜(ふうひん)」を始め、国内最多の7頭のパンダが過ごす同パークを運営するアワーズでは、山本雅史社長が2015年の就任以来、次の3つの柱に基づいた独自の理念経営を推し進めている。
企業使命 笑顔溢れる明るい豊かな社会の実現
企業理念 こころでときを創るSmileカンパニー
ビジョン 未来のSmile(しあわせ)創造企業
山本社長は、これら3つの関わりについて、次のように語る。
「企業としての存在意義、それが企業使命です。社会に必要とされなければ、企業が存在している意味はないと考えます。未来の社会に価値を残す企業でありたい、それがわれわれの企業使命です。
事業を進める際や接客の際の価値判断基準となるのが、企業理念です。これによって、社員、ゲスト、社会といった3つのSmileを創り出していきます。
私たちがなりたい姿がビジョンで、子どもたちにより良い社会を贈り継ぐために、未来のSmile(しあわせ)を創造しています。Smileをあえて『しあわせ』と謳っているのは、うわべだけの笑顔ではなく、心からの幸せが生み出す笑顔を実現したいとの願いからです」
社長就任後、最初に取り組んだオフィスの統合
企業理念で創り出す3つのSmileの重みに違いはないものの、取り組む際の順番はあって、山本社長は「池に石を投げ込んだ時をイメージしてもらえるとよいでしょう」と説明する。つまり、投げ込まれる石が私たち社員で、それによって、ゲスト、社会へと波が広がっていく、その石の重みが重いほど波紋は大きくなる、というのだ。
山本社長が就任後、最初に取り組んだのが、それまで園内に散在していた各部署の事務所の統合で、構想から2年かけ、人と未来を育む「麗しの我が家」として、2018年1月に新オフィス完成。メインフロアの1階部分は、「人を育む」「未来を育む」「コミュニケーション」の3つのスペースにゾーニングされ、基本フリーアドレスで、部署・役職の枠を超えた自由なコミュニケーションを可能にしている。
福利厚生ではなく、達成感を感じてもらうためのアシスト制度
安価で栄養バランスのとれた食事で社員の健康に配慮した社員食堂「KOKORO」、企業内保育園「キラボシ」といったハード面のみならず、企業理念に沿った書籍をリクエストすることで、会社が蔵書として購入する読書アシスト制度や、他のアミューズメントパーク視察の際の半額補助など、ソフト面の「福利厚生」も充実している。
「そうはいっても、私たちは、『福利厚生』という言葉は使っていないのですよ。社員が幸せになるためには何が必要かというと、自立、成長できることだと思うのです。社員の成長、自己実現に活かすための『アシスト』制度で、あくまで社員が自ら進んで利用してくれることを前提にしています。
同じように、社員の成長を促す仕組みとして、入社3年目以降の社員から立候補が可能な任期1年のチームリーダー制度も導入しています。リーダーに就くことで、成功・失敗の経験値を高め、成長することができます。職制、プロジェクトごとにリーダーがいるので、全部で数十人にのぼり、社内はリーダーであふれています」(山本社長)
ゲストのSmileに繋がるアトラクションの数々
ゲストのSmile(=しあわせ)のために同社が進めているのが、ブルーオーシャン戦略だ。つまり、同業他社との差別化を図る、時代のトレンドに流されることなく、これまでアワーズで続けてきた取り組みに、より磨きをかけることに力を注いでいる。
列車型車両の「ケニア号」や自転車、カートなどで回るサファリツアーや、できる限りガラスの仕切りをなくした展示施設など、動物がより身近に感じられる仕組みに加え、イルカやアシカが登場するライブにおいても、他の施設のようにMCを使うのではなく、映像と音楽を駆使したライブパフォーマンスになっており、その独自性は際立っている。
「ナイトマリンライブ『LOVES』は、光と音楽に包まれた水のステージで、心が結ばれたイルカ・クジラとトレーナーが繰り広げる『愛』のパフォーマンスです。たとえば、このライブをご覧いただいたご夫婦が、ふだんは気がつかないでいたけれど、互いに大切なパートナーであることに気づいてもらえるようなストーリー仕立てになっています。それぞれが、ゲストの皆様のしあわせに繋がる構成になっているのが、当パークのライブの最大の特長です」(山本社長)
公式YouTubeアカウントは、登録者数16万人超
社会貢献の面では、ジャイアントパンダやペンギンといった飼育動物の繁殖や生活の質の向上のための研究、講演などを通じた啓発活動に加え、ジャイアントパンダの主食の竹の供給元である岸和田市とパートナーシップ協定を結び、里山の環境保全に協力したり、パンダが食べない竹の幹の部分を竹あかりやパークのお土産に再利用したりするなど、経営の軸に据えているSDGsへの取り組みにも力を入れている。
コロナ禍により、臨時休業、入場者・収入の減少など、苦難に向き合った中で、得るものもあった。臨時休業中に行ったYouTubeの24時間オンラインライブ配信イベントでは、「お客様にご来場いただけないと付加価値を提供できない」というそれまでの考えから、「バーチャルで自分たちから発信、提供できる」という考えに改まった。公式YouTubeのアカウントは現在では、登録者数16万人を超える人気コンテンツに成長した。
アドベンチャーワールドでは、障がいのある子どもとその家族に気兼ねなく楽しんでもらうイベント「ドリームナイト・アット・ザ・ズー」を2017年以降、夜間の営業時間外に実施していたのを、2021年は11月3日に日中のパークを貸し切り、「ドリームデイ・アット・ザ・ズー」として実施し、1003組、4213人が参加した。
「夜の時間帯に、遠く白浜町までお越しいただくことに、ずっと心苦しい思いをしていたので、昼間の時間帯に実施できてよかったと思っています。障がいのあるお子様とそのご家族の方々に、気兼ねなく動物園、水族館を楽しんでいただいたことに加え、約400人のボランティアの方からも、『よい機会をつくってくれて、ありがとう』と言ってもらえました。笑顔があふれる1日でした。これから先も長く続けていきたいと思っています」(山本社長)
「社員1人1人が成長し、幸せになれる仕組みを作り上げたい」
建設業を営む祖父が、前身のワールドサファリの経営を引き継いでから3代目にあたる山本社長。最後に、これから先の会社経営について、次のように話してくれた。
「未来のSmile創造に向け、アワーズという会社を、自動的に付加価値を生み出すと同時に、社員1人1人が成長し、幸せになれる仕組みを作り上げていきたいと思っています。それが実現できるなら、パーク事業に止まっている必要はないと思うのです。ホテル事業でもよいし、まったく畑違いのIT事業でもよい。アワーズという会社を舞台に、自身の強みを活かし、自在に活躍できるような環境づくりをしていきたいですね」
【企業情報】
▽所在地=大阪府松原市丹南3丁目2番15号▽代表者=代表取締役会長 山本良継、代表取締役社長 山本雅史社長▽売上高=53億円(2021年5月期)▽設立=1977年(昭和52)年9月