“資源循環”でこれからの経済・社会をデザインする
【資源循環経済課】
経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。
第11回は、産業技術環境局 資源循環経済課の吉川 泰弘課長補佐に話を聞きました。
‘資源循環経済’ってなに?
世界で「海洋プラスチックごみ問題」が社会課題となっています。プラスチックはとても便利ですが、管理を間違えると生態系に悪い影響を与えます。日本では、2019年5月にプラスチックの資源循環を進めていこうと「プラスチック資源循環戦略」をまとめました。2020年7月から、ライフスタイルの変革を目的として始めた「レジ袋の有料化」は皆さんの生活にも定着してきていると思います。
「資源循環」とは、使い終わった製品を、廃棄物ではなく資源として捉え、付加価値を付けて素材や製品にまた戻していくという考え方です。
資源循環が必要なのはプラスチックだけではありません。金属、紙、繊維などの素材、家電、自動車、食品などの製品も循環させていくことが重要です。かつてのように、大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行の経済ではなく、資源を効率よく循環させて使い、付加価値の最大化を図る経済を循環経済(サーキュラーエコノミー)といいます。このサーキュラーエコノミーへの移行を進めるのが、資源循環経済課の仕事です。
プラスチック資源循環 規制ではなく、後押しをしたい
プラスチックの資源循環については、2022年4月1日に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(通称プラ法)が施行されました。海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化等への対応のため、製品の設計から廃棄物の排出・回収・リサイクルに至るまでのライフサイクル全般で、プラスチック資源循環の取組(3R+Renewable)を促すことが目的です。
この法律は、厳しい規制をかけるのではなく、関係主体の自主的な取組を促したいという想いで制定しました。法律の施行に至るまでの過程で多くの関係主体と意見交換をしました。厳しいご意見をいただくこともありましたが、目指すところは同じ。企業の皆さんから、プラスチック資源循環に取り組むことにより、環境問題の解決に貢献するだけでなく、SDGsに代表されるサステナビリティにつながる取り組みとして国内外から評価を受けることにつながるため、前向きに取り組みたいと言っていただきました。この法律をきっかけに、実際に製品のプラスチックの使用量を減らす、パッケージを簡素化するなど、メーカー側の積極的なアクションが起こっています。ホテルで提供されるアメニティやコンビニやスーパーのカトラリーなど、みなさんも日々の生活の中で変化を実感することがあるのではないでしょうか。
ただ、こうしたパッケージを1つ変えるにも、企業には設備投資を行うなどのコストがかかります。そこでプラスチック資源循環の取組に一歩踏み出すことをためらう企業のために、初期投資を補助金でサポートする仕組みも用意しました。また、今後は環境配慮設計の優れた製品を認定する制度により認定製品を公表していきます。こうした施策を通じ、企業の自主的なアクションを後押ししていきたいです。
東京オリパラのメダルも‘循環’した資源から作られた
最近はプラスチックが特に注目されていますが、半導体や自動車部品などに使われる貴金属や希少金属の資源循環も重要です。実は東京オリンピック・パラリンピックの金・銀・銅メダルは、約5,000個全てがパソコンや携帯電話などの「都市鉱山」から集められた貴金属で作られました。これはオリパラ史上初めてのことです。
日本は、資源は少ないですが、資源を循環させるための技術力を持っています。そのため、今の市場にあるもの自体が資源になります。潤沢に資源が取れる時代は終わっており、資源をいかに循環させるか、ということを考えていく必要があります。
‘資源自律経済’の確立へ
こういった問題意識から、資源循環経済をさらに発展させた「資源自律経済」という考えを2022年5月の産業構造審議会総会で打ち出しました。簡単にいうと、資源を海外に頼りすぎずに今の市場にある資源をできるだけ循環させて使うこと、物を作って売って終わりではなく、資源として戻ってくることを前提としたビジネスモデルに世界に先駆けて転換しよう、ということです。ロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰などにより、日本は物資や資源の供給制約に直面しています。今後も同様の供給リスクが高まる可能性があり、一刻も早く日本の資源循環システムを強靭化しなければならないことは明らかです。
日本には、都市鉱山や都市油田と言われる金属資源や石油資源を利用した製品が行き渡っています。その製品に使われている資源のうち、循環できるものはリユース・リサイクルなどを通じてメーカーに戻してもう一度使う。また、工場から出てきたCO2を細菌に食べさせてプラスチックを作る、廃繊維を細菌に食べさせて高品質なバイオ繊維を作るという資源を生み出す技術もあります。シェアリングサービスで物を共有するビジネスも盛んです。日本では、自分で全ての資源を供給すること(自立・自給)は難しいですが、今の市場にある資源をコントロールして使う(自律)ことならできるのではないでしょうか。そういった日本ならではの取り組みがグローバルで評価を受けられるように国際標準をつくり投資を呼び込んでいく。そんな想いで、これから成長志向型の「資源自律経済」の確立に向けた戦略について議論し、まとめていく予定です。
私たちの仕事は、「次の社会をデザインすること」です。資源循環・資源自律の考えを社会の仕組みに組み込んでいく。そのために、次の社会の主役である子ども達と対話する機会も大事にしています。子ども向けのメディアで情報を発信したり、企業と連携して出張授業を行ったりすることで、子ども達に、「君たちの意識や行動がより良い社会を作ることになるんだよ」と伝えていきたいと思います。「伝える」というのは大変ですが、とても大事なことです。そして現状を変えることは簡単なことではありません。だけどその先に未来があるんだと思います。だからこそ法律を作って終わりではなく、若い世代を含め多くの人に伝えて一緒に考え、多くの力でより良い社会をデザインしたいと思っています。
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