スタートアップ大集合! 国と本音をぶつけ合う「パブ☆スタ」が政策を動かす
「スタートアップ創出元年」の2022年、政府のスタートアップ支援に向けた施策が注目されている。スタートアップを中心に、投資家、大学・研究機関、大企業、そして政府などのステークホルダーが一堂に会し、スタートアップの成長を支えるエコシステム発展のための次の一手を協創する場である「パブ☆スタ」もその一つ。
スタートアップを創出するエコシステムづくりに必要なものとは何か。CIC Tokyoの名倉勝ゼネラルマネージャー、経済産業省の柳真裕氏(経済産業政策局産業創造課)と菊池春歌氏(同・新規事業創造推進室)の3人が語り合った。(肩書は2022年6月取材当時、敬称略)
スタートアップ最前線と経産省が生トーク! それが「パブ☆スタ」だ
柳 「パブ☆スタ」は「パブリック×スタートアップ」の意味で、経済産業省がCIC Tokyoさんと共同で2022年1月から6月末まで計4回のシリーズセッションとして対話イベントなどを実施しました。バイオベンチャー、大学発スタートアップなどをテーマにCIC Tokyoさんが運営する「CIC Tokyo」を会場として使わせてもらいました。
名倉 「CIC Tokyo」は、スタートアップ向けのイノベーション拠点で、日本一の集積度になります。現在、入居企業は200社超でその多くがスタートアップです。2022年1月に開かれた「パブ☆スタ」第1回は、参加希望者も300人を超え、会場も満席でした。バイオベンチャーの経営者が資金調達で苦労された体験談などをもとに、経済産業省の方々と政策立案につながる本質的な議論ができたと思います。
菊池 「パブ☆スタ」を通じて、経済産業省内部でも、「スタートアップコミュニティー」についての関心の高さを感じました。課長級を含めて内部で「ちょっと話を聞かせてほしい」といった反響がありました。
名倉 日本はスタートアップのビジネスにかかわる人たち同士の連携が弱いとされていますが、「CIC Tokyo」は、スタートアップを1か所に集めることで、投資家をはじめ、イノベーションに関心のある事業会社などによる「イノベーションコミュニティー」が生まれています。「パブ☆スタ」のようなイノベーションやスタートアップ関係のプログラムを実施することで、1年間でオンライン視聴も含めて約5万人の「参加者」を集めることができています。
生きたスタートアップを研修で体感 「未来の主役」の声を届けたい
柳 2021年11月に研修で、CICさんで3週間、勉強しました。スタートアップの人たちが自分の足で立って必死に考えてゼロから何かを生み出していく姿を目の当たりにして意識が変わりました。そして「自分も何かを作りたい」と思って生まれたのが、「パブ☆スタ」です。経済産業省に戻って「こういうイベントをしたい」と、2020年入省同期の菊池さんらに話しました。
菊池 柳君と廊下で一緒に話をしたのを覚えています。「パブ☆スタ」は、政策形成の過程でよく行われる「ヒアリング」ではなく、スタートアップ関係者と私たちが「カジュアル」に対話ができた点も、とても良い効果を生んでいると思います。現場の生の声の受け止め方や集約の仕方、政策への反映についても経験値を上げる必要があると思います。
名倉 「パブ☆スタ」は、パブリックに、経済産業省とスタートアップの現場の声の「ヒアリング」を行う場になっていますね。「パブ☆スタ」のような形で、関係者が活発に議論することは、政策を立案するとともに必要な人に届けることができる点でも、大きな意味があると思います。一方通行ではなく双方向となることで、意見を受け取る側の解釈の質も上がっていきますね。
柳 業界団体を通して現場の声を聞いて、政策に反映するという方法もあります。ただ、新興企業は、こうした業界団体のメンバーでないケースが少なくなく、「未来の主役」となり得る産業の現場の声を吸い上げる機会をつくる意味もあります。
「失敗を恐れずに挑戦できる社会観」 スタートアップカルチャーに不可欠
名倉 日本のスタートアップのエコシステムについては、スタートアップ関係者のコミュニティーができていない点が課題とされており、CICでは、スタートアップ関係者をつなげる役割も重視しています。これまでやり尽くしたことをやっているだけでは新しい産業はつくれません。先行きの分からない時代の中で、とりあえず試してみる、間違えを恐れずに行動に移す「スタートアップカルチャー」が重要です。国内市場がシュリンクする前提で、新しいことをしていかなければなりません。
菊池 スタートアップカルチャーにはちょっと挑戦しようということも含まれますね。
柳 失敗を許容してくれる社会観が必要です。スタートアップが融資を受ける際、創業時の個人保証なしの融資を推進していくという動きも、「失敗を恐れないでいける社会観をつくり出していければ」との背景から生まれました。
名倉 長期的な場を持つことでコミュニティーとしてクローズな話を誘発して政策形成に結び付きやすくなると思います。そういう意味で、「パブ☆スタ」の登壇者同士のつながりが生まれています。スタートアップと経済産業省、文部科学省、ベンチャーキャピタルで現在、仕事のやりとりがあります。会ってみると「これができる」という関係を構築できています。「パブ☆スタ」で、スタートアップ的なカルチャーを浸透させて新しいこと取り組んでほしいです。
柳 実際、「パブ☆スタ」で、いろいろなスタートアップの方と話し、施策のアイデアのタネをいただきました。「補助金など政府の支援策は、ニーズはあるものの知られていないものが多い」と感じ、経済産業省でスタートアップが使える支援策を探すと合計で69ありました。支援策は今後も増えていくことが予想されますが、 「経済産業省スタートアップ支援策一覧」 として現状で探しやすいようにまとめました。支援内容を把握しやすいように「キャッチコピー」も付けています。
菊池 7月中にスタートアップ支援策をまとめたデータベースが完成します。データベースから検索して必要な施策を導くことができます。常に最新版に更新していきます。経済産業省及びその関係独立行政法人等が2022年5月時点で用意している補助金や税制、アクセラレーションプログラムなどのスタートアップ向けの支援策の概要を紹介しています。
名倉 利用者側の目線で言うと、経済産業省をはじめ他省庁も含めた横断的なフォーマットができるといいですね。「CIC Tokyo」を東京・虎ノ門に開設してちょうど1年半が経ちましたが、「こういうものが求められていた」と実感しています。経済産業省をはじめ霞ヶ関の近くという立地に対するニーズもあります。日本のスタートアップは世界と隔たりがあり、もっと世界を見て考えていく必要があります。大企業の集積度、経済圏、研究者の数など東京という都市が持つポテンシャルを生かした政策も期待しています。
柳 CICのイベントの熱気は驚くべきものがあります。対面で会うからこその良さがあります。実際に会ってお互いの「心理的障壁」を崩す経験ができることの価値を学びました。次は、さらに本気で議論できる場をどうつくるか。これからもスタートアップカルチャーを盛り上げながら、議論の場を設計していきたいです。
菊池 「パブ☆スタ」では、組織ではなく人物として話す機会を持てたこともよかったです。経済産業省内でも、もともとスタートアップに関心がない人が今後、入ってきて一緒に議論したら新しいことができると思います。私たち自身も、「パブ☆スタ」での対話で感じたことを今後、どのように政策に生かしていくかを真剣に考える段階に入ります。
【関連情報】
「経済産業省スタートアップ支援策一覧」