地域で輝く企業

東京五輪でも履かれた……現代の生活に合う地下足袋を提案し続ける世界的老舗メーカー

丸五 岡山県倉敷市

丸五の主力商品である「たびりら」は一つひとつ、若い職人たちの手で作られていく。

NHK大河ドラマの主人公の足袋を製作

2021年7月23日に行われた東京オリンピック開会式で、各競技を絵で表す「ピクトグラム」を肉体で表現するパフォーマンスが話題となった。そのパフォーマーたちが履いていたのが、足先が地下足袋のように二つに割れた、丸五の「足袋シューズ」だった。親指と他の指が離れた足袋シューズは、建築現場などで使用される地下足袋と同様、バランスが取りやすく踏ん張りが利く、という特徴がある。激しい動きをするパフォーマンスにぴったりの履物が「足袋シューズ」だったのだ。

「足袋シューズ」は履き心地の良さと激しい動きへの対応力で注目され、ミュージカルの舞台や、アイドルグループの公演、数々の映画やドラマなどで、出演者たちの足下を支えている、という一面もある。また、2019年に放送されたNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では、中村勘九郎さんが演じた主人公・金栗四三が劇中で使用した、マラソンを走るための足袋の製作を丸五が担当した。

創業は1919年。老舗地下足袋メーカーとして、働く人々の足元を支えてきた。もともと、岡山県倉敷市を中心とした地域は、綿産業が盛んで、明治時代に入ってから、布を固定するための「こはぜ」を付けた足袋製造の工業化、大衆化が進んだ。折からゴム工業も進展し始め、創業者の藤木伊太郎が、足袋の底にゴムをはりつけた地下足袋を考案した。藤木茂彦会長は「コンバースがゴム底のスニーカーの生産を始めたのが1917年です。丸五が地下足袋を開発した、というより、世界で同時多発的に、ゴムを履物の底に使うことが広まり始めたのだと思います」と語る。

「社名には、円満で勢いよく、世界の5大陸へ飛躍しよう、という願いが込められています」と語る藤木会長。

足を守りながら成長を促す子ども用足袋シューズも開発

丸五の地下足袋は、農業や土木作業、建設現場など、働く人の足を守ってきた。また1992年から始まった札幌市の「YOSAKOIソーラン祭り」などの躍動的な踊りを披露する全国各地のお祭りでも、丸五の足袋が動きやすいと次第に広まり、お祭り用足袋では約6割のシェアを誇っている。ただし、地下足袋自体の需要は次第に先細りになっていた。そこで手掛けたのが、カラフルなデザインの「ASSABOOTS(アサブーツ)」。海外のユーザーからの「オシャレな地下足袋がほしい」という要望に応え、2009年にヨーロッパで販売開始。2012年から日本でも販売開始した。

さらに2014年、「バランスがとりやすい地下足袋の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」との思いから、足袋に特有のコハゼをなくした新感覚シューズ「たびりら」を開発。子どもの足を守りながら正しい成長を促す子ども用足袋シューズ「たびりらKIDS」、ランニング用の「hitoe」、スニーカー感覚の「SPORTS JOG」シリーズなど、さまざまな用途の足袋シューズを発売、現代の生活に合う新しい地下足袋を提案し続けている。

丸五の商品ラインナップ。左から、歩きやすくて足の健康に良いカジュアルな「たびりら」、スニーカー感覚の「SPORTS JOG AIR」、足本来の力を最大限に引き出す、はだし感覚のランニングシューズ「hitoe」

このほか、従来は無骨なイメージがあった、つま先に金属などを装着した「安全靴」でも、スニーカーのように洗煉されたカラーとデザインでタウンシューズとしても違和感がなく、安全性の基準も満たした「プロスニーカー」を発売し、若い働き手から支持を集めている。

創業100年を迎えた2019年8月、東京駅からほど近い東京・京橋に、直営店「MARUGO TOKYO」(電話03-3566-6105)をオープン。今年2022年4月には、地元・倉敷市の観光地「倉敷美観地区」に、「MARUGO KURASHIKI」(電話086-489-6948)がオープンした。いずれも、丸五のさまざまな足袋シューズの魅力を伝える発信拠点となっている。

倉敷美観地区にオープンした直営店「MARUGO KURASHIKI」。

「幅広い年代の人たちに向け、商品のすばらしさを伝えていきたい」

福田正彦社長は、一見、ビジネスシューズのようだが、つま先が割れた足袋シューズを愛用している。「履いていてとても楽なんです。この靴なら踏ん張りが利くので、電車でもつり革を持たずに立っても安定していられます。ゴルフでも良いショットが打てるんですよ」と教えてくれた。

「はだし感覚で足の発達につながりますので幼児にお勧め。足の指を圧迫することがありませんから、多くの女性たちが悩む外反母趾を防ぐこともできます。さらに足の力が衰え始めた高齢者は転びやすく、骨折などのけがにつながりかねませんが、この靴なら転びにくくなります。フェンシングや野球、ウェイトリフティングなどのスポーツをする人たちからも支持されています。ファッション性だけでなく、履くと気持ちよく、インナーマッスルが鍛えられて転びにくくなる。幼児からお年寄りまで、幅広い年代の人たちに向けて、この商品のすばらしさを伝えていきたいと思っています」と福田社長は話している。

ファッショナブルな安全靴(左)と「たびりら」を手にする福田社長。

【企業情報】

▽所在地=岡山県倉敷市茶屋町1680-1▽代表者=代表取締役社長 福田正彦▽売上高=47億円▽設立=1919(大正8)年5月