日本の明るい未来を切り拓くための雇用システムや教育とは何か
あらゆる場所でデジタル技術が活用され、脱炭素が世界的な潮流となる中で、雇用・労働から教育システムまで、社会システム全体の見直しが迫られています。2030年、2050年の未来を見据え、必要となる能力やスキルは何か。今働いている方、学生、教育機関などが変わっていくべき方向性は何か?
こうした問題意識の下、昨年12月に設置した未来人材会議において議論を重ね、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示すものとして、今年5月に「未来人材ビジョン」を公表しました。
将来必要となるのは「問題発見力」「的確な予測」「革新性」
デジタル化や脱炭素化を受けた能力等の需要変化を仮定し、2030年、2050年にどの能力が求められるかを試算すると、現在は「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」が重視されるのに対し、将来は「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」が一層求められます。
また、主な産業ごとの必要となる労働者数については、医療・福祉や教育・学習支援などで相対的に増加する一方、農林水産業や鉱業・建設業では相対的に減少します。2050 年には、現在の産業を構成する職種のバランスが大きく変わり、産業分類別にみた労働需要も3割増から5割減という大きなインパクトで変化する可能性があります。
こうした変化に対処するため、産業界と教育機関が一体となって、今後必要とされる能力等を備えた人材を育成することが求められています。
雇用・人材育成システムの聖域なき見直しが求められる
日本企業の従業員エンゲージメント※は世界全体で見て最低水準にあるとの民間調査があります。別の調査によると、「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない一方で、「転職や起業」の意向を持つ人も多くありません。4割以上の企業は、「技術革新により必要となるスキル」と「現在の従業員のスキル」との間のギャップを認識していますが、人に投資している企業は少なく、個人も社外学習や自己啓発を行っていません。
多様性がイノベーション創出に不可欠と言われる中、役員・管理職に占める女性比率も未だ低いままです。世界的に見て、日本の人材の競争力は下がり、国際競争力はこの30年で1位から31位に落ちています。
このような中、雇用・人材育成システムの聖域なき見直しが求められています。人材戦略を経営戦略に結びつけ、人的資本経営を行うことが重要です。キャリアや人生設計の複線化が当たり前で、多様な人材が活躍できる社会に転換していく必要があります。
※「エンゲージメント」は、人事領域においては、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」といった意味で用いられる。
産業界と教育機関が二人三脚で、未来を牽引する人材を育成する
日本の 15 歳の数学的・科学的リテラシーは世界でもトップレベルです。しかし、「数学や理科を使う職業につきたい」と思う子どもの割合は国際平均よりも低い、「社会への当事者意識」も低い、といった課題があります。新たな未来を牽引する人材を育成するため、場所、時間、年齢を問わず、誰であっても世界に広がる「本物」の社会課題に向き合い、探究学習を始められる環境が必要です。
学校だけに多くの役割を求めるのは現実的ではありません。学校の外で多様な才能を開花させる「サードプレイス」を広げること、企業が教育に主体的に参画し、現場と二人三脚で「あるべき姿」へと変革していくことが求められています。
向かうべき2つの方向性
これらを踏まえ、未来人材ビジョンはこれから向かうべき2つの方向性を示しました。
1つは「旧来の日本型雇用システムからの転換」です。人的資本経営に取り組む企業が集まる「場」の創設や、学生の就業観を養うインターンシップを皮切りに、新卒一括採用だけではない多様なルートで社会に出られるようにすることを検討していく必要があります。
もう1つは「好きなことに夢中になれる教育への転換」です。子供たちがそれぞれの好奇心に基づいて学び、挑戦したくなるように、カリキュラムや現場を支える人材など、より一層柔軟化された仕組みにすることや、大学・高専等における企業による共同講座の設置等を通じ、産業界の求める人材を育成していく等の取組を進めていくことが重要です。
今回の未来人材ビジョンは、あくまでも変革の出発点に過ぎないものであり、今後関係省庁とも連携しつつ検討を深め、具体的な変革に繋げていきます。
経済産業省 産業人材課
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