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脱炭素時代を勝ち抜く-新・素材産業ビジョン

 鉄鋼、化学、非鉄金属、セメント、紙パルプといった「素材産業」は、自動車など様々な産業に部素材を供給し、国内の雇用と地域経済を支えています。また、日本の素材産業は、高付加価値品を中心に高い製造技術を持つことで知られ、日本の産業競争力の源泉の1つとなっています。
 そんな素材産業が直面する課題の1つが、カーボンニュートラル。国内の産業部門のCO2排出のうち、約8割が素材産業に由来しているのです。

我が国の産業部門のCO2排出状況(出典:国立研究開発法人国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」2019年度確報値)

 

 経済産業省では、こうした状況の中、日本の素材産業が今後も国際競争を勝ち抜いていくために必要な取組を、「新・素材産業ビジョン」にとりまとめました。

脱炭素化へ舵を切る素材の生産プロセス

 カーボンニュートラル目標の達成へ、これまでにないクリーンな生産技術の開発・実装が始まっています。2兆円のグリーンイノベーション基金の一部を活用し、炭素の代わりに水素を利用することでCO2発生を抑制する製鉄プロセスの開発や、原料の石灰石由来のCO2をほぼ全量回収するセメント製造プロセスの開発など、素材分野でも革新的な研究が進んでいます。
 生産プロセスの脱炭素化は、製品の国際競争力にも直結します。EUでは、十分な削減努力が行われていない国からの輸入品に課徴金を賦課する規制を導入する検討が進んでいますが、こうした国際的なルール形成の議論にも乗り遅れてはなりません。政府においても、新たな技術開発だけでなく、その国際標準化を強力に推進します。
 既存の生産プロセスについても、設備の省エネ化投資はもとより、電化や燃料の転換で脱炭素化を目指します。その際、国際的に高い水準にある産業用電気料金を抑制する方策の検討や、ゼロエミッション電気、水素やアンモニアといった新しい燃料を安価で安定的に供給する体制の構築も併せて推進することが必要です。

 素材産業の脱炭素化の実現に、2050年までに必要な投資は約20兆円と見積もられています。積極的な投資を促すため、素材の需要家がグリーンな製品を積極的に調達するなど、素材産業が投資を回収し、更なる脱炭素投資に前向きに取り組む環境の構築も目指していきます。

大胆な変革を、国家戦略として

 脱炭素化のほかにも、素材産業をとりまく課題は様々です。例えば、日本が優位性をもつ高付加価値品の領域でも、技術のキャッチアップによりグローバル競争が激化していること。国内外の生産体制の再構築が求められていること。足下のロシア・ウクライナ情勢などに伴って、エネルギーや原材料の価格が高騰していること。そして、デジタル技術を活用した新しい新材料開発をリードする人材を確保すること。

 こうした課題を克服するためには、現在の市場で着実に収益を確保しながら、投資の実行により将来市場を獲得していく、いわば「両面作戦」のアプローチが必要です。ビジョンに基づいて、官民で連携しながら強い素材産業を維持するよう、国家戦略として幅広く政策支援を行っていきます。

経済産業省 金属課、素材産業課

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