政策特集今、福島は vol.3

難しい課題への挑戦

廃炉・汚染水対策2


 燃料デブリを安全に取り出すため、原発事故の核心に迫る調査が進められている。東京電力福島第一原子力発電所は1-3号機の三つの原子炉でメルトダウン(炉心溶融)が起きた。事故の状況によって1-3号機の状況はそれぞれ異なる中、格納容器内部に調査ロボットが投入され、核燃料の溶け広がり方が明らかになりつつある。

燃料デブリの可能性高い溶融物を撮影

 2017年7月、3号機で初めて燃料デブリの可能性が高い溶融物をカメラでとらえることに成功した。これまで東京電力は1号機と2号機にヘビ型やサソリ型などの調査ロボットを投入してきたが、撮影できた塊や堆積物を燃料デブリとまでは推定できなかった。3号機は核燃料棒を収容した圧力容器の下に複数の溶融物を確認。状況から溶け落ちた核燃料が、下にあった構造物を巻き込んで溶かし、固まっていると考えられた。東京電力が「燃料デブリの可能性が高い」と認めるのは初めてだった。東電福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏代表は「コンピューターシミュレーションでの推定と、実際にロボットで見てみるのでは情報量が違う。デブリ取り出しに向けた次の一手を考えられる」と手応えを説明する。

 どの号機も調査は困難だった。格納容器の中に通じる配管が細く、小さなロボットや細長い調査装置しか入れられなかったためだ。そこで1号機はヘビ型の変形調査ロボットを投入し、デブリが溶け広がったと考えられる格納容器地下階を撮影した。結果、地下階は広く堆積物で覆われていた。堆積物の下に燃料デブリが存在するか分からず、デブリの正確な分布や物質性状を調べるには堆積物を取り除く必要がある。

 2号機は圧力容器の真下に伸縮式のガイドパイプを挿入。その先端から地下階にカメラをつり降ろして調査した。地下階では核燃料の部品の一部や、核燃料が溶け固まったと考えられる堆積物が見つかった。

3号機には水中遊泳ロボット

 3号機は地下階が水没しているため、水中遊泳ロボットを投入した。このロボットは圧力容器の下を広く撮影することに成功した。核燃料が溶けて落下したとみられる残骸や岩状の塊を確認している。

 2号機と3号機で撮影できた塊や堆積物は物質試験を経ないと燃料デブリとはまだ確定できないものの、溶融物の姿をとらえられた。同時に広い範囲を撮影できたため、画像処理を施すことで炉内の溶融物の広がりや装置の破損状況など、より詳細な情報が得られると期待されている。

 調査が成功して新しい情報が得られると、新しい課題が見えてくる。状況がわかるにつれ、わからないことが明確になる。例えば2号機では圧力容器の真下、中心部は損傷が少なかった。圧力容器下の縁に核燃料が溶け落ちたとみられる穴や残骸があった。一般に、核燃料が溶けるなら、その中心に熱が集まり圧力容器の中心を貫いたと考えがちだ。だが溶融燃料が配管や構造物を伝ったのか、縁に損傷が確認された。圧力容器の真下の様子だけでは圧力容器の中の状況を推測しきれない。増田代表は「燃料デブリの取り出しに向けて圧力容器の中をみたい」という。

オープンイノベーションがカギ

 ここからが調査の本番だ。得られた情報をもとに次の調査案が検討されている。カギとなるのがオープンイノベーションだ。調査結果や技術課題を広く発信し、世界から技術や知恵を集める必要がある。

 実は東京電力は事故後初期からオープンイノベーションに取り組んできた。企業や大学から多くの技術提案があったものの、なかなか実を結ばなかった。その原因の一つが半導体の放射線耐性だ。半導体に放射線があたると材料が劣化し、ノイズ信号が発生する。センサー用の半導体は数日で劣化し、制御用の半導体は大量のノイズで誤動作を起こすリスクがあった。オープンイノベーションで集まった提案の多くが通常の半導体を使っていたため、内部調査には使えなかった。

 一連の内部調査では半導体をできる限り原子炉建屋の外に配置した。ロボットと操作室をケーブルでつないで遠隔で操作するなどして対応した。今後の調査や監視のためには放射線に強い半導体材料やノイズ処理法などが求められる。

 またデブリを取り出すためには、大型の装置を投入し、デブリを取り出しに適した大きさにする必要がある。このときに格納容器から放射性物質が漏れないよう、全体の気圧をマイナスに維持する必要がある。格納容器の気圧が周囲より低ければ、外から空気が入るだけで漏れ出さない。この気圧管理は日本が得意な分野だ。半導体工場のクリーンルームなど気流を精密に制御する技術も高効率真空ポンプ技術もすでに確立している。

 問題は格納容器のどこに穴が空いているかわからない点だ。原子炉建屋の規模で一度リークテストする必要がある。ただすべての穴を防ぐことは難しい。一度マイナス気圧管理システムが稼働すると、穴を見つけてふさぐたびにランニングコストを削減できることになる。現場で持ち運べるリークテスターや簡単に施工できる封止部材はニーズが大きくなるだろう。

 そして格納容器から採取したサンプルを分析施設に安全に輸送する技術も必要だ。デブリ取り出しが軌道に載ると分析サンプルを運ぶ回数が増えるため、簡単な手順で確実に放射性物質を封止できる仕組みが必要だ。精密機器の輸送や簡易密封技術など異分野の知恵が求められている。

画像処理やAIで成果も

 オープンイノベーションですでに成果を挙げつつあるのが画像処理や人工知能(AI)などの技術だ。データを大学などに提供して、映像データを3D化する研究が進んでいる。映像や画像などのデータは機械に比べて外部に提供しやすい。多くの研究室に提供し、たくさんの画像処理手法を試しやすい。すでに東電の画像処理技術で、原画ではほぼ見えなかった画像から細いケーブルの破断が見つかるなど成果が上がっている。このケーブルは炉内の温度計測の一つに使われていたため、炉内の監視体制が見直された。増田代表は「内部調査で得られたデータからできるだけ、多くの情報を引き出したい。全国から知恵を借りたい」という。日本の科学技術力が試されている。