最大10言語対応のポータルサイトで外国人留学生の生活・就職を支援
森興産 大阪市中央区
グループ創業80周年を機に外国人留学生の支援事業を加速化
ステンレス鋼材流通の豫洲短板産業(大阪市西淀川区)を中核とするYOSHU GROUPの国内アライアンスである森興産は、元々はグループの総務・教育に関わる業務を担当していたものの、80周年である2013年に「LOVE THE EARTH(自然共創態)」という新しい企業理念を掲げたのをきっかけに、人材育成事業、とくに外国人留学生の支援事業に大きく舵をきった。
現在、同社が運営している外国人向けの生活・教育・就職情報ポータルサイト「WA.SA.Bi.(わさび)」は、日本語を含め、英語、中国語、タイ語など最大で10の言語に対応しており、この分野のサイトとしては最大規模で、9300人以上が登録している。これまでの経緯について、代表取締役の森隼人さんは、こう説明する。
「2013年はグループの創業から80年目にあたり、120年後の200周年に向けて、達成すべき目標とグループの成長チャートを描きました。その柱のひとつが人材育成(ヒトづくり)です。われわれのような中小の企業では、人材確保が容易ではありません。それまでも弊社で、グループの人材採用・育成を手がけていたのですが、少子化で国内の労働人口が減っていく中、外国人の採用増は避けて通れないと考えたこと、また、グループの海外展開を加速するタイミングとの関係もあり、外国人の人材育成を手がけることにしました」
大学、自治体や企業を対象に留学生採用のためのセミナー開催
自社の採用・育成活動で蓄積した知見を活かす形で、まず大学や専門学校といった学校現場からアプローチを始め、今では学校のみならず、大阪府や京都府といった自治体や企業を対象に、留学生採用のためのセミナー、インターンシップ、イベントなどを提供している。
また、ビジネス現場における日本語のコミュニケーション能力を測定する試験として評価の高い「BJTビジネス日本語能力テスト」の全世界における唯一の販売代理店として、ビジネス日本語教育の海外普及も手がけている。
日本人向け、外国人向け、それぞれで異文化理解や多様性をテーマにした研修も行っているが、「日本人の方により意識が変わってほしいと思うことが多い」そうだ。
「多様性=ダイバーシティという言葉がよく聞かれるようになったものの、日本の企業では、そういった考えが、まだ深く浸透していないように感じます。外国人労働者を低く見る傾向はありますし、そもそも中小企業だと外国人を採用したことがないので、そのような考えが広まる下地がありません。産官学が連携して取り組んでいかないと、この状況はなかなか変わっていかないのではないでしょうか。そう思って、本来行政にしてほしいことも、代わって持ち出しで行っています」(森さん)
個別に依頼を受けて、企業と外国人留学生のマッチングをすることもあり、その場合も、「『外国人』と一括りにして、同じ対応はできません。それぞれの出身国の文化や習慣を踏まえた対応ができるように心がけている」という。
日本ではまだ、「やる気」を重視するポテンシャル採用をする企業も多く、専門家意識の高い外国人留学生とのマッチングに苦労も少なくないそうだ。
「不法就労」防止に役立つアルバイト就労管理も開発
外国人留学生が日本で就職するには、留学生ビザから就労ビザへの切り替えが必要で、出入国在留管理庁に在留資格変更許可申請をし、許可を得なくてはならない。2019年には、3万8711人が申請を行い、3万947人が許可されている。約2割が不許可で、学歴と職務内容のミスマッチングなど大きな理由がある中で、学生時代のアルバイト時間(28時間制限)への抵触もその一つにあるという。
この問題の解決を目的に、外国人留学生向けの支援事業として前出のWA.SA.Bi.による情報支援に加え、アルバイト就労管理が容易にできるアプリ「28 – Twenty eight」(beta版)を2020年にリリースした。
1週間で28時間を超えて就労できないことは、どの留学生も知っているが、では、その1週間をどう区切るかまで、わかっている人は多くないそうだ。実際は、任意の7日間のどこをとっても、28時間を超えていないことが求められている。「28 – Twenty eight」を使うことで、知らない間に「不法就労」になることを避けることができるわけだ。
同アプリは現在、改良に向けての作業中で、「将来的には、外国人の方の信用保証に使えるアプリにしていきたい」と森さんは話す。
「日本人と外国人の区別がない社会になってほしい」
学生時代、オーストラリアでの1年間の留学経験によって多様性への気づきと出会えたという森さん。若い人たちに向け、「もっと海外に出て行ってほしい」とエールを送る一方で、この先の国の展望について、次のように話してくれた。
「『多様性』はまだよいのですが、正直、『異文化』という言葉には違和感を覚えています。何かを分けるようなことは、やめないといけない。われわれの仕事を通じて、この国に日本人と外国人の区別がなくなってくれることを願いながら、事業に取り組んでいます。時代がそれを求めているのですから、いずれそうなると信じています」
【企業情報】
▽所在地=大阪府大阪市中央区南船場1-4-11▽代表者=代表取締役 森 隼人▽売上高=非公表▽設立=1987(昭和62)年 4月