政策特集その答えは、事業承継 ~つなぐ・変える・育む vol.1

「大廃業時代」に待った。中小企業の承継・成長に手厚い支援

中小企業の事業承継がうまくいくかどうかに、日本経済の将来がかかっている

中小企業の事業承継がうまくいくかどうかに、日本経済の将来がかかっている

日本を代表するアパレルチェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング。柳井正会長兼社長は創業者ではない。実父が創業した小郡商事は、柳井氏が入社した1972年当時、一地方の紳士洋品店だった。柳井氏がカジュアル衣料にSPA(製造小売業)の概念を持ち込み、業態を大きく転換。成長を加速させた。

こうした事業承継への注目が今高まっている。

「家業を継ぐ」というと、ツラくて苦しく、そして、古くさいというイメージを抱く人が多かった。しかし、経営者の交代をきっかけに、事業の中身を大胆に見直すなどして、勢いを得た中小企業が相次いでいる。第2、第3のユニクロの出現をも期待させる。

一方で、現在の中小企業全体を取り巻く環境は厳しい。後継者を見つけられないまま、高齢となった経営者が増え、空前の「大廃業時代」の到来を懸念する声もある。

中小企業は日本経済を支える大黒柱。そのスムーズな代替わりを進めていくために、さまざまな対策が打たれているが、意外と知られていないものも多い。

初回は、事業承継に関する政策のとりまとめ役を担う中小企業庁財務課の日原正視課長に話を聞いた。

 

「黒字なのに休廃業」が半数超  社長の高齢化でやむなく…

事業承継の重要さを強調する中小企業庁財務課の日原正視課長

事業承継の重要さを強調する中小企業庁財務課の日原正視課長

――中小企業の現状は?

日本の企業全体の99.7%が中小企業です。従業者数では全体の約7割、生み出す付加価値額では約5割を占めています。地方では、中小企業の存在感はより大きいものがあります。

中小企業 日本経済  2022年版 「中小企業白書」

中小企業が日本経済で果たす役割は大きい (2022年版「中小企業白書」より)

 

 

一口に中小企業といっても多種多様であり、抱える課題は異なりますが、経営者の高齢化に直面しているという点は多くの中小企業に共通しています。

東京商工リサーチの調査によると、社長の全国平均年齢は2021年に62.77歳となり、70歳代以上が3割を超えるなど、高齢化が進んでいます。一方で、企業が休廃業・解散した件数は2020年に4万9698件と過去最多となり、2021年は4万4377件と高水準が続いています。ただ、休廃業した中小企業の半数以上は、直近でも黒字を維持していました。多くの経営者が年齢を重ねながらも、後継者を見つけられず、価値のある事業をやむなく畳んでいるのです。日本経済にとっても地域経済にとっても、「もったいない」ことが起きています。

親族以外へのバトンタッチが増加  代替わりこそ経営改革のチャンス

――経済の活性化には新しく事業を立ち上げる起業もあるが。

もちろん、起業もとても大切であり、中小企業庁はさまざま形で応援しています。しかし、例えば、製造業の企業をゼロから始めようとすると、工場や設備などを準備したり、職人を集めたり、コストも含めて難しい問題に直面します。事業承継により、今ある経営資源のうち使える部分を引き継ぐ方が優れている面もあるのです。

また、長引くコロナ禍や、デジタル・グリーン化の要請の高まりなども踏まえて臨機応変に企業の経営を変えていく必要があります。全ての人に当てはまるわけではありませんが、経営者の年齢が若い方が新しいチャレンジをする傾向にあります。事業承継による経営者の交代は、経営や事業の内容を変えるチャンスにもなり得ます。

――最近の事業承継の傾向は。

経営者の年齢分布を見ると、引き続き高齢化が進む一方で、比較的若い経営者も増えています。早くに事業承継ができた方と、なかなかできていない方の二極化が起きています。

かつては、お子さんに引きつぐ親族内承継が圧倒的多数でしたが、その割合は徐々に減っています。価値観の多様化などもあり、お子さんが必ずしも引き継ぎたいとは限らないからです。他方、従業員による承継や、第三者に引き継ぐいわゆるM&Aが増加しています。

近年事業承継をした経営者の就任経緯 (2021年版「中小企業白書」より) 帝国データバンク 後継者 不在率

近年事業承継をした経営者の就任経緯 (2021年版「中小企業白書」より)

 

中小企業庁の事業承継への支援策はこれまで、事業を引き継がせたい現経営者に対するものが中心でしたが、近年はこれから引き継ごうとしている方に寄り添った内容も拡充しています。

例えば、事業承継後の後継者による設備投資や販路開拓などの新しい挑戦を「事業承継・引継ぎ補助金」によってサポートしています。また、事業承継やM&A時に参考になるガイドラインについて、引き継ぐ側にとって有益な内容も充実させました。この他にも、事業承継・引継ぎ支援センターによる創業希望者を含む譲受側と譲渡側のマッチングの後押し、税制の優遇、補助金制度などを幅広く用意していますので、ぜひ活用していただきたいです。

社長はひとりで悩まず相談を  後継者はアップデートに挑戦を

――現在、事業をしている方が気を付ける点は。

事業の継続を考えるのであれば、早めに専門家に相談していただくことが大事です。自分の事業に価値はないと思っていても、人によっては大変価値があると映ることがあります。事業を継がせた経験はなくて当たり前ですので、ひとりで悩んで結論を下す前に、各都道府県にある事業承継・引継ぎ支援センターに相談してください。事業承継に関するどんなお悩みでも無料でご相談いただけます。

どなたかに引き継げば、引退後の資金を得られるだけではありません。従業員の雇用やサプライチェーンを維持するなど、地域経済にも貢献することになります。

――事業を引き継ぐ方へのアドバイスは。

時代に応じて、人間の価値観や競争環境は変わっていきます。難しいことではありますが、今までの事業を引き継ぐだけではなくて、時代に合った経営に自分がアップデートするのだという意識でチャレンジしていただきたいです。われわれ行政も、皆さんの挑戦を後押しできるよう支援に全力で取り組んでいきます。

関連情報

中小企業の円滑な事業承継を支援するための施策等についてご案内(中小企業庁ホームページ)